さて、7月が始まって暫く経った土曜日。
珍しく2日間の休みが合致した*1学生達は折角の夏を楽しもうという五条悟の提案で、連れ立って遊びに出掛けていた。
そのメンバーは、五条、夏油、家入、灰原、七海、禪院といういつもの6人に加えて、直哉の許嫁である真依と真希、甚爾の子である恵と津美紀、そして彼ら全員の保護者役として伏黒甚爾、そして運転手として禪院家から派遣された双子の母親である禪院真理*2が加わった12人の大所帯。
ついでに向かう先は結界で一般人からは秘匿されている五条家のプライベートビーチ付き別荘なので、いよいよ本気でお大尽遊びだが、生まれついてのボンボンである直哉と悟は『何を皆そんなに驚いているんだ? あ、禪院家の車で五条家の土地に遊びに行くからかな? 珍しいよね』という顔をネタでもなんでもないマジの表情として浮かべていた。
で、現在。そんなリムジンで一路五条家の別荘がある千葉県館山を目指している一行は、後部座席で思い思いに寛いでいる。
まず、完全に自然体なのはスーパーおぼっちゃまな直哉と悟。慣れた様子で空調を操作したり、冷蔵庫を漁ったりした彼らは「お、千疋屋のジュースあるじゃん。チビども何味がいい?」だの「ゼリーもな
唯一普段と違う点で言えば、直哉も悟も私服である点だろうか。防具の着用禁止という縛りがある直哉は、薄手の黒いヘンリーシャツに、同じく薄手の白のカプリパンツを合わせたシンプルな洋装。悟は海を想定してか赤いパーカー付きラッシュガードとカーキのハーフパンツ、そしていつものサングラスという夏遊び仕様。
高専ではなかなか見ない*3その姿は、学友達には新鮮に映る。
とは言え、珍しい格好なのは彼等以外も同様。七海は青い半袖カッターシャツにスラックスと紺色レンズのサングラス。灰原はTシャツとチノパンにキャップ装備の元気仕様。家入は可愛らしい若草色のシアーワンピース。そして夏油はアロハにハーフパンツで悟と同じ夏遊びコーデ。
学生連中は各々お出かけ用の服を引っ張り出して、今日という日に臨んでいるのだ。
が、違いといえばやはり空気感。
「しょ、硝子。土足で入っちゃったんだけど良いのかなコレ」
「めっちゃ吃ってんじゃん夏油、ウケる。……まぁ、禪院が土足だし良いんじゃね? つーかアイツらに聞けば良いじゃん。私もわかんないよそんなの」
「いや、なんかいつもと雰囲気が違うし……オーラっぽいのが見える……」
「フツーに幻覚だよそれ」
なんて、借りて来た猫のようになってしまっている夏油と家入。
「凄いね七海! とにかく凄い!」
「コレは確かに凄い。全く揺れませんし静かだ……何より広いですね。私が足をラクにして座れるとは」
「確かに! 七海って股下長いもんね!」
なんて、ちょっと童心をとりもどしてはしゃいでいる灰原と七海。
そのいずれも、まぁ出身は普通に庶民の出なので無理もない。リムジンなどというのは、家入が言うように、映画で観るだけの代物なのだ。
で、そんな彼等を除けばあとは伏黒一家と禪院家の双子なのだが……意外にも彼等は、直哉や悟と同じ落ち着き組だった。
「テレビのリモコンとって恵」
「自分で取ればいいだろ……ほら」
「ありがとう。恵は何観る? 映画結構入ってるよ?」
「津美紀の好きなのでいいよ別に」
なんて、手慣れた様子で備え付けのDVDシアターをいじくる伏黒姉弟。
「私いちごゼリー! 真依は何食う?」
「えっと、桃ゼリー……ねぇ、直哉、食べさせてよ」
「どうしたん? 『甘えた』*4やんか、珍しい」
「違う、ユーワクしてるの! 本で読んだもん!」
「真依ちゃんな 本て言うけど 『りぼん』とか 『マーガレット』を 言っとるんやろ? 漫画やん。本気にしたら あかんやろ」
「まぁそう言うなよ直哉、許嫁なんだしそれぐらいしてやれば〜?」
「悟くん そない言うけど……いやええわ。仕方無しやで 食べさせたるわ」
「ちゅ、チューで食べさせてね……!」
「やらへんで? もののけ姫じゃ あるまいし」
なんて、悟や直哉と共に食い気と色気に走っているのが禪院姉妹。
伏黒姉弟は姉弟揃ってオーバーオールを着た可愛らしい装い。禪院姉妹はマジカル真依ちゃんドレスのカラーを空色にして遠目だと清楚な感じに見えなくも無い雰囲気に調整している。
彼等が慣れているのは、マカオやベガスなどでお大尽の経験がある影響なのは言うまでも無いだろう。
そして最後に、助手席の甚爾と運転席の真理。叔母と甥の関係にある彼等はといえば、甚爾は子供達と揃いのオーバーオール、真理は流石に和装で中型車の運転は難しいと判断してか、クラシカルなボタンラペルの黒いワンピースを身につけており、なんだかチグハグな様相である。
が、一応、ナビ入力を手伝う程度には甚爾も協力的なため、今のところ旅程はスムーズに進んでいる。
————さて、ガキに『死ぬには惜しい』と思わせるヒントでもありゃ良いんだがな。
なんて思いを、それとなく今回の小旅行を誘導した*5フィクサーである甚爾が抱いている以外は、非常に平和な旅は、まだ始まったばかりだった。