季節は8月。呪霊の被害も少しばかり落ち着いてはきたものの、未だその発生量はそれなり。
そんな中、直哉達高専生の耳に飛び込んできたのは、一級案件の対応に当たっていた一級術師冥冥と二級術師庵歌姫が丸2日に渡って安否不明になっているという物騒な連絡だった。
知らぬ仲ではない2人に関する凶報に、五条が
彼等は補助監督を引っ捕まえて車*1を用意させ、一路現場である静岡県浜松市に向かう道中、即興のブリーフィングを行っていた。
「どう見る悟。冥さんがいて外部への連絡も出来ない程の事態になると思うか?」
「まずそれは無い。冥さんの術式的にね。……多分、内外で時間の流れが異なる呪霊の生得領域だか結界だかに囚われてるな」
「って事は、歌姫先輩達の目線だと探索開始から数分って可能性もあり得るね〜。でも、一級で領域使ってくる事ってあるんだっけ? 五条と夏油でもまだ上手く出来ないんでしょ?」
救出対象の状況を考察するブリーフィングの最中、そう家入が疑問を口にすると、まず反駁したのは五条と夏油。
彼等は結界術を直哉経由で習得し、五条はその天才性で、夏油は自身の使役呪霊である口裂け女を参考にする事で、それぞれ領域展開を開発している。
が、今のところまだお披露目をした事はなく、家入の中では『まだ上手く出来ない』と認識されているようだ。
「いや、俺は領域の構成を詰めてるだけで、やろうと思えばすぐ出せるっての」
「私も同じく。最初に展開したイメージにどうしてもそれ以降は引き摺られるだろうし、今は慎重に詰めているところなんだ。ただ、確かに硝子の言う通り、特級でもない限り、領域を扱う呪霊は稀だ。一級程度が使えるとは思わないが……」
「一級で そういう風な 呪霊やと 領域やなく 結界やろね。領域を 構成できる 腕がある 呪霊やったら 特級やろし。建物の 内壁とかを そのまんま 使ってるとか そんなとこやろ」
「っつー事は、2人が調査に入ったヨウカンだかウイロウだかを外からぶっ壊せば良いって事か。じゃあ現着次第ぶっ壊そうぜ、決まり!」
「待て悟、せめて帳は張っておかないと。補助監督もせっかく同行させたんだし」
「そらそやろ。家ぶっ壊す つもりなら 非術師からの 目隠し要るで。……急ぐなら 俺の結界 張っとくか?」
「そうしよう! 直哉お前マジで0.1秒で張れよ」
「……夏油くん? 悟くんって 庵さん そんな好きなん? 付き合っとんの?」
「それは無い。だけど、歌姫さんは強くは無いんだけど面倒見が良くてね。私達の事を『可愛くねー!』なんて罵りつつも、なんだかんだ構ってくれるんだよ。だから悟もそれなりに懐いてウザ絡みしてるんだ」
「こいつらクズだから、すぐ歌姫先輩虐めて遊ぶんだよ。猫から可愛さを抜いたみたいな生態してるから」
「難儀やな 庵先輩 可哀想」
「ほらクズども、後輩に言われてんぞ〜」
「硝子が言わせてんだろ? てか俺何もしてないし」
「私も何もしてないつもりなんだけどね……弱いもの虐め嫌いだし」
「悟くん なんかしとるで 絶対に。夏油くん そういうとこや 知らんけど」
なんて、話がちょっと脱線したものの、五条は高速道を走る補助監督に『次のPAで一旦停車して』と指示を出し、
「術式順転、『蒼』。————助けに来たよ〜、歌姫。泣いてる?」
* * * * * *
「硝子、直哉! 助けに来てくれてありがとね!」
「なぁ歌姫、俺達は? 助けたの俺だし、呪霊祓ったの傑じゃん?」
「『泣いてる?』だの『だから弱いもの虐めはやめなよ悟』だの言われなきゃ素直に感謝したわよ……でも、なんで特級2人も来てんの? まだ探索開始から30分も経ってないでしょ?」
「いや、それが2日も経ってるんですよ、歌姫先輩。五条が言うには結界とかなんとか」
「マジ!?」
「冥さんもご無事で何より」
「ありがとう夏油くん。しかしそうか、私達は随分珍しい目に遭ってしまったようだね……とはいえやはり、特級が2人に一級1人、四級とはいえ反転持ちの家入くんが来る程の事態とは思えないが?」
「悟くん 血相変えて 俺達を 呼ぶもんやから こんな感じに」
「なるほど? 五条くんはアレかい? 歌姫くんが————」
「冥さん、その流れはもうやりました」
「————なんだ。違うんだね。もしそうなら、歌姫くんに頼んで五条家当主の子胤を横流ししてもらおうかと思ったのに。きっと億は下らないよ?」
「え、何よ五条、私の事好きなの!?」
「は??? 硝子! 歌姫が発狂したんだけどコレ反転で治る!?」
「よっしゃ上等だ表出ろこのバカ!」
「もう屋外ですぅ〜! バカはそっちなんじゃないのぉ?」
「ムキー!」
「……悟くん 楽しそうやね 痴話喧嘩」
「……ねぇ、本当に好きじゃないのかい?」
「「……多分?」」
などと、無事救出を終えてワイワイと言葉を交わす面々。
一時の緊迫が何処へやら、という雰囲気の彼等はその後、高速道路を必死に走ってきた補助監督の運転する車で、一路東京へと帰還するのだった。