どうも。世間的には中3やのに、一家の大黒柱な直哉くんやで。現在絶賛夜のお仕事中や。条例違反やね?
……いや、甚爾くんも働けや! 呪詛師やったらブッ殺してええ言うたやろがい! とっとと10人でも20人でもブッ殺して換金してこいや!
————ちゅうて、本人に直接言うたらシバきやろなぁ。肉体強度を縛りでガチガチに引き上げとんのに痛いんは流石は天与呪縛やね。クソがよ*1。
で、まぁ。東京に来て早1ヶ月。こっち来て早々に高専に『窓』経由で連絡取って、ちょくちょく任務を回してもろとる。この依頼でガキどもの食い扶持と甚爾くんの小遣い稼いどるんがここ最近の俺っちゅうわけや。
「ふざけとる なんで俺だけ こんな目に?」
「……直哉さん、大丈夫?」
「恵くん なんでもないで ありがとな」
なんてやり取りを今朝皆で幼稚園の送迎バス待っとる間にうっかりやってまう程度には気疲れしとる。
しかしまぁ。その点、恵くんは立派やね。甚爾くんと同じ顔、同じ目付き。強面やけど自分が被扶養者やと心底理解しとる。もちろん津美紀ちゃんもな。……ホンマに甚爾くんの子か??? *2
甚爾くんのお陰で逆に最近はガキが可愛い思えてきたでホンマ。真希ちゃん真依ちゃんもまぁ、ガキにしちゃ賢いしなァ。
それにしても、真希ちゃんらのオカン連れて来れんかったんは失敗やったね。でもしゃあないねん。いやまぁ、ほら、絶対喰うやん甚爾くん。穴があったら入りたいタイプやもん。性的な意味で。
禪院の 男は皆 ドブカスで DV・レイプ 上等やしな*3。まぁ俺、縛りでオナニーすら出来ん清い身なんやけど。
1年前の未来予想図では今頃、元服からの婚姻で唯一縛りに抵触せん『嫁はんとのエッチ』を楽しんどる予定やったんやけどなぁ……俺のグラマラスワイフはどこ消えたんや? ちょっと年上のムチムチバルンバルンな姉ちゃんと淫蕩の限りを尽くすはずやったんやけど? *4
ハァ……。縛りのせいで迂闊に独り言も言えんし、こうして押し黙って頭の中でブー垂れるんが増えたわ最近。今も『補助監督』に現場まで送ってもろとるんやけど、『詩吟』の縛り*5もあって喋るん面倒臭いし、緊張しとって雰囲気微妙*6やし、なんちゅうかなぁ……。
「あ、あの。禪院特級、もう少しで現場です」
「そうかいな。1級やっけ、今回の」
「はい、推定一級の呪霊とその取り巻きです。既に今日までに夜の小学校に迷い込んだ児童が3人、行方不明になって居ます。おそらくは……」
「死んどるな。可哀想やね 親御さん。早う
「は、はい! 急ぎます!」
「かまへんよ、ここまで来たら もうわかる。そこで停めとき すぐに戻るわ」
遠目で見える小学校。隠そうともせん呪いの気配。1級にしたら随分とアホやけど、まぁ小学校に取り憑く呪霊なんざそんなもんやろ。
ほな、サクッと祓うてサクッと帰ろか。
* * * * * *
だがしかし、アレはあくまで天元の補助を受けるが為の呪詩。しっかりと結界術の研鑽を積めば、自力で別途結界を張ることは可能なのである。
「『幻燈に 映る一夜の 影法師』————拡張呪法・第四乃壁」
そんなセリフと共に、直哉が居る小学校を包むのは、分厚い緞帳の様な結界。そんな中、スポットライトを浴びる様に直哉の周囲は明るく輝き、同時に校舎内でポツポツと明かりが灯る。
『結界内の呪力を帯びたモノにスポットライトがあたり、クソ目立つ様になる』、『展開には必ず詠唱と手印*7が必要』などの縛りを設けた事で強化されたこの結界内では、術者、呪霊、呪詛師や呪具の分別なくおおよそ騙し討ちは不可能となる。
何せ上からピカピカと照らされているのだから当然だ。現に直哉は1級の取り巻きである雑魚呪霊共を光を頼りに瞬殺し、最も大きなスポットライトを浴びている呪霊の元へと駆けている。
大柄の『餓鬼』の様なその呪霊。その眼前で、敢えて直哉は立ち止まり「こんばんは。いきなりやけど くたばれや」と呪霊に向けて『挨拶』を放つ。
それは不意打ちを捨て、自身の存在を誇示する『即席の縛り』。それに加えて敢えて呪霊に先手を譲り、後手に回る事で更に即席の縛りを重ね、術式の威力を引き上げた直哉は、迫る餓鬼の拳をいなす様に受け流し、『フィルム化』した無防備なそのマヌケ面に、渾身の拳を叩き込む。
それは確かにただ一撃の、右フック。だが、それを受けた呪霊の頭は何度も殴打されたかの様な連続的な轟音と共に破裂して、首から上が弾け飛ぶ。
————直哉の扱う術式は『投射呪法』。
禪院直毘人と同じ術式ではあるものの、縛りと解釈の拡張でゴリゴリにチューンされたその効果は、直毘人のそれとは一線を画す。
その一例が、今の一撃。画角を視界ではなく空間に定め、自身を基点とした三人称視点で『コマ』を打つ直哉の投射呪法においては、『カメラの切り替え』という概念が存在する。
それを応用した一撃こそが、たった今一級を一撃で祓った拡張呪法『
だが、一級を一撃で祓うという並みの術師なら大金星な戦果も、特級である直哉からすれば特に感情を揺さぶられるものではない。むしろ、直哉は別件で呪霊を祓った後に行うべき『儀式』がある為、そちらの方に意識が割かれている。
「死んどるか? ああ死んどるな、溶けてきた。嫌やわホンマ。縛りとはいえ……。————畜生が ああクソ不味い、最悪や。絶対いつか 体壊すわ」
などと愚痴を溢す直哉が行う『儀式』とは、祓った呪霊の残穢を喰らう事。直哉の10の縛りの1つ『嘗胆』の縛りによって強制されるその行為は、直哉の身体に残酷なまでの負荷を掛ける。
何しろ、呪霊の残穢とは即ち呪霊の死骸の様なもの。濃密な負の呪力で構成されたそれは人体に極めて有害だ。『
だが、その毒を縛りで無理矢理強化された身体機能で耐え抜く事で、本来『成長しない』筈の呪力総量が僅かばかりとはいえ増大するのである。
「あかんコレ 味ヤバすぎて 眩暈する……毎度慣れんわ このクソ味は」
とはいえ、あまりにも最悪な気分と体調になるのは事実。一応体内の毒は反転術式で排除出来なくはないのだが、呪力総量の伸びがその分悪化する為、直哉は周囲に危険が無い限り毒に抗う事にしている。強さに貪欲な彼の性分こそが、彼を苦しめる最大の要因なのだ。
「ああしんど、自業自得の ザマやけど、早よ帰りたい えらい疲れた」
そんな愚痴を1つ溢して、無事小学校の呪霊を一掃した直哉は補助監督の待つ車に戻り、束の間の眠りにつくこととなる。
時刻は丑三つ時の深夜2時。今から帰宅すれば幼稚園の送迎準備まで3時間ほど眠れる筈。
そんな計画を立てながら、直哉は一路、下宿先である甚爾の家へと戻っていく。
ちなみにその後、甚爾が連れ込んだ立ちんぼが直哉の布団で寝ていて帰宅した直哉がブチ切れることになるのだが、それはまた別の話である。