星漿体の天内理子と、その付き人である黒井美里の保護から暫く。
無人になっているホテルの駐車場に一旦退避した直哉と夏油は、念の為裸に剥いて四肢を砕いておいた『コークン』に水*1をぶっかけていた。
「ぐっ……」
「ハイおはよ。早速やけど 拷問や。キリキリ吐きや。爪無くなるで?」
などと告げつつ、早速有言実行とばかりにコークンの足の小指の爪を引きちぎってやれば、くぐもった悲鳴が上がり、直哉の発言がハッタリではない事を実に分かりやすく納得させる。
だが、その上で、コークンは恐ろしい程に意固地だった。
「さて、直哉は君の金玉を潰したり四肢を折ったり爪を剥いだりと恐ろしいサディストでね。このままじゃ君をうっかりブチ殺しかねない。仲間の数と配置を教えてくれるだけで良いんだ。それだけ教えてくれれば悪いようにはしないよ?」
と、『良い警官・悪い警官』のセオリーに則り優しく問う夏油に対し、コークンの返答は唾を吐きかけるというもの。
もちろん、その報復に直哉は更に足の爪を剥ぎ取るが、コークンはくぐもった叫びを漏らすのみで、その目から『希望』が失われる様子は無い。
「我ら『Q』の同胞は貴様ら旧態然とした呪術師どもとは違う! 誰が仲間を売るものか!」
「随分熱血だね。そういう友情は私も嫌いじゃあない。だけど、直哉はどうかな?」
そう告げる夏油のアイコンタクトを受けて、直哉が不意打ち気味に這い蹲るコークンの足の甲を踏み砕く。
爪剥の痛み程度では効かぬというのならコレならどうか、という確認の為のその一撃は、確かにコークンに絶叫を上げさせ、その顔には脂汗が滲む。
だがしかし。
コークンが再度「仲間の数と配置は?」と問うた夏油に返したのは、自白でも命乞いでもなく。
「————『発動』」
そう、絞り出すような声で呟いたコークンが、ガクリと気絶したように脱力した、その直後。
その身体から噴き上がる夥しく悍ましい呪力に、咄嗟に反応した直哉は、夏油を抱えて全力の跳躍を選択した。それに合わせて虹龍を呼び出す夏油もまた、間近に迫る『脅威』を敏感に察知したのはいうまでもない。
問答無用の、全力回避と全力防御。特級と特級相当の一級らしからぬその判断はしかし、2人の前で起きた有り得ざる現象の前では、『合理的判断』としか言いようが無い代物で。
「なんやアレ。有り得へんやろ、あの呪力……!」
「————もしもし、七海かい? 確保した星漿体と付き人の保護を最重視してくれ! ちょっとこっちは手間取りそうだ……!」
地獄の業火が火柱を上げるが如く、コークンから溢れ出るのは、『少なくとも禪院直哉の3倍』というおよそ常識を越えた呪力出力。
何しろ、禪院直哉自体が強烈な縛りを以って強引に呪力の総量と出力を引き上げている規格外の存在なのだ。その3倍の出力というのはつまり、『五条悟の10倍近く強い』という意味不明な数値なのである。
まぁもちろん、五条の場合はその『六眼』が齎す芸術的に洗練された呪力出力によって燃費が際限なく引き上げられており、単純な出力だけで今のコークンが五条悟の10倍強いと断じるのはナンセンスだ。
だが、だからと言ってそれは、今のコークンが五条に勝てないと断じる理由にはなり得ない————!
「直哉、あの出力だが……」
「縛りやね 十中八九 絶命の。冥冥さんの カラスと同じ。それ以外 何か仕込んで あるかもな。思ったよりも ヤバいヤマちゃう?」
「ああ、流石は天元様が警戒するだけの事はあるね」
虹龍の背の上で顔を見合わせてそう囁く2人の額に垂れるのは、事態の重さを認識しているが故の冷や汗。
だが、そんな苦境の中でも、不敵に笑う、男が1人。
「状況は最悪。とはいえ直哉、最悪私を逃して貰う為にも、君の術式は温存しておきたい。————ここは一つ、私に任せてくれないか?」
そう告げる夏油傑は、直哉を別途呼び出した一反木綿の背に移らせると、虹龍を駆ってコークンへと突撃する。
おおよそ正気とは思えぬ、白目を剥いた修羅の形相で咆哮するコークンは、漲る呪力によって強引に肉体の損傷を再生し、咆哮に乗った呪力だけでも、呪力弾として通用する威力を帯びて、周囲の悉くを吹き飛ばす文字通りの『怪物』。
だが虹龍を盾に、そんな化け物の懐に飛び込んだ夏油は、その破壊の嵐の中で、己の恐怖諸共にコークンの呪力を祓うような、大音声を張り上げる。
「領域展開————『
呪術戦の極致、領域展開。
鍛錬の果てにその域に到達した夏油傑は、親友や後輩に追い縋るもう1人の『最強』として、世界を己で塗り潰した。