時刻は少し巻き戻り、コークンが呪力を暴走させた頃。
五条がその呪力の奔流に気を取られた隙に、同じく『発動』によって呪力を暴走させたバイエルは、自身の術式であるナイフを対象とした『付喪操術』の術式対象を膨大な呪力に任せて強引に拡大。
ホテルを構成する鉄筋や鉄骨を無理矢理ナイフ状に変形させて操る事で、広範囲に鋼鉄の嵐を巻き起こすに至っていた。
「ナイフ投げの大道芸もここまで行くとスゲェな」
などと呑気なことを呟く五条悟だが、上下左右360度全方位から襲いかかる無数のナイフに『無限を押し込まれる』事で間接的に拘束されたハリセンボンも真っ青なその姿は、一見すれば劣勢に映る。
しかし、そこは『現代最強の術師』五条悟。身動きを多少封じられたところで、彼に敗北はあり得ない。
「まぁ多分、冥さんのカラスと同じ自死の縛りか何かだろそれ。いや、自我喪失も込みか? あーあ。せっかくの寿司がパァだよ、どうしてくれんの?」
などと言いつつ、その指先から放つのは、術式反転『赫』。無限の拡散によりナイフの壁を押し除けて突き進んだ真紅の呪力は、狙い過たずバイエルの心臓を吹き飛ばし、その身体に大穴を開ける。が、しかし。
「おお、凄いなお前。心臓再生出来る奴とか初めて見たわ。デッドプールかよ」
そう五条が拍手と共に称賛するように、胸に開いた風穴を一瞬にして塞いだバイエルは、正気を失い白目を剥いた凶相のまま、更にナイフを追加して五条の無限にがむしゃらに叩きつけ、呪力総量のゴリ押しで、五条の守りを突破せんと試みる。
だが、幾千幾万の刃は無限を前にすればあまりにも矮小な数であり、その試みが実を結ぶ事は決してあり得ない。
「んー。まぁ放っといて死ぬの待っても良いんだけど、ずっとこのままナイフに囲まれてるのも気分良く無いし……ちょっと試してみるか?」
そう言って、五条が思い返すのは割と直近の記憶。最愛の親友である夏油傑が変態後輩の禪院・ビオランテ・直哉に何やら
「なぁ直哉。俺にもなんか無いのアドバイス。あるよな? あるだろ? あれよ」
「悟くん カスの三段 活用で 脅迫すんの やめてくれんか? もしかして 領域の事 悩んどる?」
「いや、それは別に。直哉のも見たし、傑がコツ掴んだのも見たから完璧に理解した。出来る」
「天才は ホンマ狡いな チートやん。ほな何が 聞きたいねんな アドバイス。モテテクは 企業秘密や 内緒やで」
「誰が聞くんだよお前にモテテク。縛りで究極完全体グレート童貞な癖に」
「失礼な やっちゃなホンマ 悟くん。まあええわ アドバイスとは 違うけど ツッコミぐらい 言わせてもらお。……悟くん そろそろ辞めよ? サボるんは」
「あ゛?」
「凄んでも 言い直さんで 事実やし。……そらまあな、相伝やから 先達の 教えを守る 意味はあるけど。その上で 改良ぐらい せえへんか? 悟くん 応用技が カスやねん。もっと自由に 発想したら?」
「なんでだよ。この前『赫』も覚えたし、なんなら『茈』だって使えるっつーの」
「せやのうて オリジナル技 作ったら? そう言うてんの 分からんかいな。俺かてな オトンの術を 参考に 弄り回して 今があるんや。悟くん 元から強い そのせいで 創意工夫が ヘタクソやねん」
「工夫なんて雑魚のやる事だろ? ……って、去年までなら言ってたかもな確かに。創意工夫、オリジナル技ね……まぁ考えてみるわ」
そんな、半分雑談のようなやり取り。
だが、傑の姿や直哉の姿、度重なる甚爾からのシゴキにより『工夫の力』にもそれなりの価値を見出せる様になった五条は、自分でも少し驚くほど真面目に、新技の開発に取り組んだ。
コレは、その第一弾。
五条の手が刀印を結ぶと同時に、バイエルを取り囲むのは球状の結界。
「出ようとしても無駄無駄。それ、無限を付与した結界だから。内側からは破る以前に干渉できねぇよ。で、こっから————『位相』『頓悟』『夏椿』————拡張術式『
そう五条悟が術式を宣言した直後。五条の張った結界の内部にいた筈のバイエルは、その体表から蒸発するように崩壊を始め、無限の呪力による再生能力で抗いながらも、その身体は徐々に体積を減じていく。
「おー、さすがゾンビ、結構耐えるじゃん。冥土の土産に術式の開示でもしてやるよ。————『
————『原子』同士の間に無限を流し込んで『希釈』するんだよ。
そう、五条が言い切ると同時に、術式効果の開示によって強化された『
「よし、じゃあとっとと星漿体のガキンチョの様子見に戻ろっと。さっきの意味不明な呪力も傑がなんとかしたみたいだし」
なんて、人1人をこの世から消し飛ばしたとは思えぬ様な気軽さで肩をグルグルと回して伸びをした五条は、崩壊したホテルの中でふと、疑問を口にする。
「アレ? そういや先生は?」
そう呟いた、その直後。
「ったく。何だったんだコイツ」
なんて言葉と共に首が面白い方向に曲がった死体を引き摺って現れたのは、五条が動向を気にしていた伏黒甚爾その人だった。
「先生、どうしたのその死体」
「ああコレな。生捕りにしようとしたんだが、さっきの呪力の爆発みたいなモンに反応して何かしようとしやがったんでな、ついビンタの手加減ミスっちまった。俺のタダ寿司がパァだ」
「あー……俺もつい消し飛ばしちゃったんだよね。あいこって事で普通に割り勘で行こうよ、このあと皆でさ」
「……まぁ、打合せついでの腹拵えと考えりゃ悪くはねえか。家入にこの死体パパッと検死させてからだがな」
そう零して、引き摺っていた死体を「よっこいせ」と担ぎ上げた甚爾とそれに続く五条は、半壊したホテルから無事脱出し、家入達に合流したのだった。
コロナ感染で40度出たり、局所麻酔が中々効かず4回麻酔の追加を受けつつ手術されたりしつつなんとか生きております……(満身創痍)
切実に反転術式が欲しい。