特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第57話

 校内を見回っていた灰原雄が会敵したのは、作務衣に身を包んだ初老の男。灰原に気付くや否や、自身の前後に式神を展開したその行動からして、呪詛師としてはそれなりに戦い慣れていると思しきその男はしかし、あまりにも『呪詛師』過ぎた。

 

「その格好、星漿体の護衛か……?」

 

 などと悠長なことを述べる男に対し、灰原雄の選択肢は『発砲』。ホルスターから抜き放ったS&W M360を躊躇いなく撃ち込むその行動は、呪詛師にとっては『想定外』の物であり、咄嗟に防御に回した式神は、357マグナムの猛烈な威力により、敢えなく撃破され元の呪符へと戻ってしまう。

 

 無論、呪詛師の男とて式神使い。直ちに式神を再展開するが、銃撃という想定外の一撃は、その思考を『守り』に偏らせるに充分。

 

 ————今撃たれたのは1発! 拳銃を扱うということは非術師!? いやしかし、明らかに奴は式神が見えている! どうする、近接戦か? いやしかし……! 

 

 迷い、逡巡、混乱。

 

 そんな中、灰原が腕を呪力で強化して呪詛師の男に向けて何かを投げる。

 

 先程の銃撃の恐怖から、それに対して男が選択したのは、式神による全力防御。

 

 だが。

 

 投擲と同時に自身の周囲と『廊下全体』に結界を張った灰原と違い、あくまで『投げつけられたものを式神で防いだ』だけの老人は、その投擲物が『閃光手榴弾』である事に気付けない————! 

 

 直後、閃光と轟音。

 

 160デシベルを超える爆音と100万カンデラの発光が容赦なく老人から視覚と聴覚を奪い去り、激しい音と光のショックで眩暈を起こす老人は控えめに言って隙だらけ。

 

 そしてその顔面に、容赦無くドロップキックをブチ込んだ灰原は、そのまま老人を蹴り倒すと両の鎖骨を踏み砕き、呼吸の自由を奪った上で顎に強烈なサッカーボールキックを喰らわせて、脳震盪によりその意識を完全に吹き飛ばした。

 

『こちらHY。渡り廊下で侵入者を排除』

『こちらGS-1。発砲音が普通に聞こえたせいで避難指示が出てんだけど。どうぞ』

『こちらGS-2。生徒の移動に同伴して移動中、どうぞ』

『こちらFT。緊急放送は俺の方で流させた。生徒はグラウンドに避難。不審者の侵入を学校に連絡。公安部で追跡中のテロリスト集団による襲撃って事にしてあるから速攻で集団下校になる筈だ、どうぞ』

『こちらNK。FTの手配した放送を確認しました。星漿体と共に移動中』

『ZN 呪詛師を捕捉 始末する。数は5体で 分身くさい』

『こちらFT。ZNはそのまま分身野郎を叩け。他にも呪詛師が侵入してる可能性は高い。他の面子も警戒を怠るなよ。……おい、アンタ。黒井だったか? 俺等も星漿体と合流しに行くぞ』

『こちらGS-1。呪詛師と会敵。『お嬢様』がライフル撃っちゃった』

『こちらGS-2。『お嬢様』とNK、使役呪霊を残して、二手に別れた。星漿体の護衛はGS-1とGS-2で行う。生徒は混乱中』

『こちらFT。黒井とそちらに向かう。生徒はビシッと怒鳴って言うこと聞かせろ。避難先は変わらずグラウンド。出欠が取れたクラスから担任の引率で最寄駅まで集団下校だ』

 

 そんな会話が無線で飛び交い、混乱の渦中に徐々に呑まれいく廉直女学院。

 

 そんな中、二箇所で新たに勃発した呪詛師との戦いは、否応無しに生徒達の混乱を加速させるのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

「いきなり銃とはご挨拶だな! 同業か!? 一億は俺のモンだ!」

「どうしよう七海。撃っちゃったわ」

「……まぁ、結果オーライでしょう。先手は取れた訳ですし。防がれましたが」

 

 そう告げて背にしまっていた『鈍』を抜き放つ七海建人と、ロングスカートの中に仕込んでいた『エクスプレス』*1を構える『お嬢様』こと家入硝子。

 

 そんな彼らと対峙するのは、呪具と思しき刀を手にしたチンピラ風の男。ヤクザの様にも見えるその姿通り『銃』には知見があるのか、家入が不意打ち気味に撃ったボディ狙いの一撃は呪具を盾に防がれており、中々油断のならない相手だと言えるだろう。

 

 だがしかし。

 

 それはあくまで、家入が単身でこの男と対峙した場合の話である。

 

 一瞬の膠着状態の後、先手を取って動いたのは七海建人。鍛え上げた肉体から放たれる『鈍』の一閃は、敢えて相手の防御を誘う様な素直な軌跡で放たれ、案の定その一撃を防御しようとした敵の『刀』を7:3の位置で叩き折る。

 

 入学当時よりも遥かに研ぎ澄まされた十劃呪法。その一撃は確実な『クリティカルヒット』を手繰り寄せる強力無比な術式として完成している。

 

「折れたァ!?」

 

 そして、武器破壊に驚愕の叫びを上げる男の胸部に撃ち込まれるのは、強烈なパンチ。

 

 人体を上から3:7に分割すれば、『弱点』はほぼ心臓の直上に出現し、それを捉えることで七海の一撃は容易に胸骨を粉砕する重撃となって呪詛師の心臓を強烈に圧迫する事となる。

 

 反射的に呪力で防御したところで、その一撃を容易に防げる訳もなく、呪詛師は敢えなく失神し御用となった。

 

「お〜、お見事」

「……気絶している様ですね。裸に剥いて縛っておきましょうか」

「メスならあるけど、両方のアキレス腱も一応切っとく?」

「お願いします」

 

 なんてやり取りを簡単に行うあたり、だいぶ人体破壊が手慣れているが、そこはまぁ体育教師として勤める残虐超人の薫陶を賜っているが故致し方なし。

 

 甚爾が着任してからというもの、学生が呪霊との戦闘以上に呪詛師との戦闘について強化されているのは、日下部や夜蛾もどうしたものかと悩んでいる点ではあるのだ。

 

 だが、こと今回の護衛任務において、彼らの技術が確実に長所として働いているのもまた事実。

 

 テキパキと呪詛師を処理した七海と家入は、足早にその場を後にし、五条と夏油の元に向かうのだった。

*1
自殺者の血を吸いまくった中央線の枕木とレールから生み出された呪いのライフル銃。家入の呪具。

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