「痛ッて……いや、助かった。七海、灰原」
「ほとんど先生が倒しちゃいましたけどね!」
「私達は不意打ちで隙を作った程度ですからね」
「いや、俺は呪力が無えからあの手の無差別空間爆破には相性が悪くてな。個人的な仕事なら速攻でケツ捲るんだが……」
そう語るのは、腕にそこそこの火傷を負った甚爾。
いきなり爆撃の雨霰に襲われたにも拘らずその程度で済んでいるのは流石という他ないが、本人の語る通りジリ貧だったのもまた事実。
広範囲爆撃というフィジカルギフテッド殺しと言わんばかりの性能を持ち、その上不死身という厄介過ぎる敵を相手に、甚爾が出来たのは徹底した防御のみ。
呪力で全身を防御、などという術師の基本のキが出来ない彼にとって、七海と灰原が救援に来るまでの時間はなかなかに厳しい時間だった。
まぁ、その鬱憤を晴らす様に七海の『瓦落瓦落』で出来た隙を目敏く捉え、特級呪具『釈魂刀』で敵を魂ごと賽の目斬りにしたのは甚爾なので灰原や七海の『ほぼ甚爾が倒した』という発言も真実ではあるのだが。
「しかし、通信を聞いちゃいたが、黒井を捕られたのはしくじったな……咄嗟にブン投げたんだがダメだったか」
「今、五条先輩達が追ってるはずなので大丈夫ですよきっと!」
「しかし、ワープとは中々人外染みて来ましたねあの人も」
「五条がバケモンなのは元々だろ。今はガキだからあの程度で済んじゃ居るが、一皮剥けりゃ誰も勝てねえぞアレ。ゴジラと人間を同じ物差しで測ろうとすんな、ハゲるぞ七海。お前と灰原が参考にすべきは夏油とか直哉とかだろ」
「まぁ、それはそうかもしれませんが……さて、包帯はこの程度で良いでしょうか?」
「おう、助かった。……じゃあ俺らも行くか、沖縄。コイツの奢りで」
そう告げる甚爾の元に、タイミングよく現れるのは禪院直哉。
「普通にな 経費で落ちる 金ちゃうか? まぁ立て替えは かまへんけども」
そう告げた彼が、手際良く補助監督に電話を掛けてチケットを押さえる姿に『直哉って割と甚爾の舎弟みたいな動きするよな』と内心考える灰原と七海。
かくして窮地を乗り越え、少しばかり心の余裕を得た彼らは、先行する五条達を追うべく空港へと向かうのだった。
* * * * * *
「ん〜いやいや。残念残念。やっぱり経験値の差かな?」
「申し訳ありません。ウェッセン様。『前任の僕』が不甲斐ないばかりにご期待に添えず……」
「大丈夫大丈夫。まだ此処からだからね面白くなりそうなのは。それより記憶の継承はうまくいってるかい?」
「はい。問題なく前任2名の『ビッツ』を継承しました」
「それは良かった。君達にはまだまだデータを取って貰わないといけないからね」
などと言葉を交わすのは、額に縫い目のある中々パンクな姿の『Q』の首領『ウェッセン』と、直哉や甚爾に殺された筈の『ビッツ』。
彼等の会話内容が正しいとするならば、どうやらこの場に居るビッツは3人目の個体らしい。
「いやでも良かったよ、虎杖香織の身体保管しといて。元々『宿儺の器』の出産用に結構調整してあったから再調整も簡単だったし、卵子もまだ余ってたしね」
「虎杖香織……僕達の母胎でしたか? 宿儺の器とは?」
「そうそう。虎杖香織は君たちの母親だよ。宿儺の器は虎杖悠仁っていってね。君達の兄だよ。……まぁ細かく言えばそのほかにも9体ぐらい居るんだけど、そっちは失敗作だからねぇ……呪霊を弄ってもあまり面白くなかったんだよね。参っちゃうよ全く」
「なるほど。教えて頂きありがとうございます、ウェッセン様」
「いやいや。こういう情報も『記憶』しておけば、君達に何か面白い化学反応が起きるかもだからね。————で、話は変わるけど記憶が同期できたなら『黒井美里』を攫った相手の素性はわかったかい? 私の放っていた式神からは画角の関係で良く見えなくてね」
「いえ、それがさっぱり。一見少年の様に見えましたが……どうにも違和感が。いえ、そういう術式かもしれませんが……」
「と言うと?」
そうウェッセンから問われたビッツは、首を傾げつつ私見を述べる。
「人間は、足から呪力のジェットを噴射して飛べるものなのでしょうか?」
「うーん? まぁ術式を使わなくても呪力操作の練度次第で可能だね。石流みたいな『呪力放出』の術式かもしれない。私も一応出来なくはないよ。……ただ、燃費が悪いからね。相手はそれなりの呪力出力の持ち主かもしれない」
「なるほど。教えていただきありがとうございます」
そう答えるビッツと『しかし、そこまでの強者が潜伏していたとはね? 盤星教の報酬1億が思わぬ強者を釣り出したかな?』と考え込むウェッセン。
Qの本拠地にて暗躍を続ける彼は、今回の戦訓を糧に、更なる『可能性』を探究するべく研究を継続する事となるのだった。
* * * * * *
「よしよし! 良いタイミングで介入してくれたね幸吉!」
「……偶々だよ師匠。ところで、この黒井って人、本当に沖縄の呪詛師に預けて大丈夫か?」
「大丈夫。預ける先に居る呪詛師連中は黒井さんより弱い。彼女の実力なら自力で脱出できるよ」
「そうか……しかし、伏黒甚爾というのは恐ろしいな。彼女を正確にこちらに投げて来たぞ」
「事前に『土壇場で人間でも呪霊でもない少年がいたら、それは私が手配した味方だ』とは伝えてあったからね。君の傀儡を見抜いたんだろう。……甚爾くんも上手くやってくれたね。後は理子ちゃんの同化をうまく阻止するだけだ。……さて、呪詛師に預けた後、黒井さんの脱出を確認したらまた修行に戻るよ幸吉。君には反転術式が必要だろ?」
「分かった」
そんな会話を沖縄の貸別荘で交わすのは、美貌の特級術師とその弟子。
本来の歴史とは異なり、九十九由基が天与呪縛の研究に邁進した事で見出された彼女の弟子こそが、黒井を攫った張本人……否、正確には黒井を攫った『傀儡』の操縦者。
そう、黒井の誘拐は伏黒甚爾を巻き込んだある種の茶番。この状況を利用し、星漿体の同化を阻もうとする九十九の計画の一環なのだ。
そのキーとなった弟子の少年。彼こそは、伏黒甚爾や禪院真希、そして人造天与呪縛体のビッツや、シバシバの実の全身縛り人間こと禪院直哉とも異なる、肉体を引き換えに強力な術式範囲と無尽蔵の呪力出力を得た新たな天与呪縛体。
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通り名を『
「反転術式さえ学んでしまえば、後は傀儡の義手義足で君は自由に動ける。肉体を常時治癒し続ければ、その苦痛も和らぐ筈だ。私の反転術式のアウトプットは全力で頑張っても擦り傷をちょっと治す程度の非効率なモノだけど、それでも少しはマシだっただろ?」
「うん、師匠。アレがもっと強く、自由に発動できたら、俺はきっと————」
そう語る幸吉少年は、思考の片隅で傀儡を操り黒井美里を無事に所定の場所へと輸送しつつ、九十九が手配した培養液入りポッドの中で呪力操作の鍛錬に明け暮れるのだった。