直哉と伏黒一家、そして双子姉妹の共同生活が始まってしばらく。呪霊がウジのように湧く夏を控えた春の終わりに、直哉の元に1人の珍客が訪れていた。
「九十九さん? 特級術師 暇なんか? 何でこないな とこにわざわざ」
「帰国したら直哉くんが面白い事になってるって聞いてね? 顔出しついでに、フィールドワークさせて貰おうかと」
「ガキの世話 しとるくらいで 別段と おもろい事は 無いんちゃうかな?」
「まぁそう言わずに。同居してるんだろ? 『術師殺し』と」
そう言って、美しい顔をニヤリと歪ませるのは、特級術師の九十九由基。強者へのリスペクトが強い直哉が『さん』付けで呼ぶに足ると認める、日本に3人居る特級術師の一角にして紅一点である。
そんな彼女と個人的にそれなりの親交がある*1直哉は、アポ無し訪問した彼女が言う『術師殺し』に心当たりがあるらしく、ピンと来た顔で頷いた。
「ああそれか。甚爾くんなら パチ屋やで。……天与呪縛の 研究とかか?」
「まぁそんな所かな。もちろん、後天的かつ擬似的な天与呪縛である君のことも気になるけどね。————そういえば、どんな女がタイプかな?」
「またそれか? ボンキュッボンの 姉ちゃんや。九十九さんとか モロタイプやで?」
「ふふふ、相変わらず『意外性は無いけど元気で宜しい!』って感じだね。さて、それじゃあ『伏黒甚爾』を此処で待たせてもらおうかな。良いよね?」
「かまへんよ。茶でもしばいて 待っとくか? この前宇治で ええの買うてん。お茶請けは ぼんち揚げしか 無いけども。上がっていきや 外じゃ何やろ?」
「おや、良いのかい? それじゃ遠慮なく。……それにしても、また呪力量が増えたのかい? つくづく規格外だね君も。縛りの内容は変わらずかい?」
「そうやなあ……伝達禁止、縛れるか?」
「もちろんだとも。私は君の縛りの内容について、君の許可なく他者に伝達しないと誓おう。コレは『縛り』だ」
そう言い切った後、目を好奇心の光で輝かせて手帳とペンを取る九十九に対し、直哉は一つ溜息を吐くと、茶を淹れながら口を開く。
「ほなええか。……10の縛りは、変化無し。また一個ずつ 説明しよか?」
「お願いしようかな。私の目標とは似て非なるものだけど、君の呪力へのアプローチは面白いからね」
「そうやろか? ……まずは一つ目 『詩吟』やね。聞いての通り 発話制限。五七五か 或いは五七 五七七。この韻律を 絶対遵守。字余りや 字足らずとかは 禁止やね」
「うんうん。いつ聞いても一発目から不便すぎるね! 馬鹿げていると言っても良い。発話制限といえば狗巻家の『呪言』が有名だけど、あれは喋ろうと思えば喋れるわけだ。でも直哉くんは『それ以外で喋れない』んだろ?」
「■■■■————。そうやねん。今『そうやね』て 言い掛けた だけでも口が 動かんくなる」
「なるほどなるほど……で、そんなメチャクチャ不便な生活と引き換えに君は何を『得た』のかな?」
「詠唱を せんでもやった 事になる。勿論やれば 効果2倍や」
そう直哉が告げると、九十九は何やらカリカリとメモを取りつつ、興味深げにウンウンと頷いている。
その際にユッサユッサと揺れている巨乳を、直哉が目に焼き付けて脳内フォルダにガッツリ仕舞い込んでいたりするのだが、そこはまあ直哉も男の子故、致し方がないだろう。
「なるほど。そこも変わらずって感じだね……で、二つ目は?」
「『勧善』や。あらゆる時の 選択が 善行以外 選べんくなる」
「これまたなかなか抽象的だね? もう少し詳しくお願いしたいかな」
「……九十九さん ゲームはやった 事あるか? 特に恋愛 乙女系とか」
「経験はないけど、どういったものなのかの内容は大体わかるかな」
「選択肢 ゲームでたまに 出るやんか? あれが『善行』 一択になる」
「あー……何となくは分かった。でも、その『善行』は誰が決めてるんだろうね?」
「分からんね。俺の予想に なるけどな 集合意識 いう奴ちゃうか? 『常識』て 言うてもええな この場合。倫理道徳 でもええかもな」
「こわ〜。でもまぁ、天与呪縛でいう所の『天』は存外、そういうものなのか……?」
「三つ目の 『懲悪』もまた 似とるかな。『悪』に敵対 義務付けされる。どっちもな 効果は同じ 劇的に 呪力の燃費 向上しとる」
「なるほど……人生面倒くさそうだね全く。前から増えてはないにしてもあと7つもあるんでしょ?」
「それはまぁ めんどくさいで 正直な。それでも俺は 後悔はない。……ちょっとだけ 休憩するか、茶請け出そ。ちょっと待ってや どこやったかな……」