「いや、メッチャやるじゃん黒井さん」
「流石は星漿体の世話係、って事なのかな……?」
「すみません、お手を煩わせてしまい……」
「いやいや、『無事で良かった』で良いって。私も影武者やらずに済んだし。ね、理子ちゃん」
「そうだぞ! 黒井に何かあったら妾は……!」
「申し訳ございませんお嬢様、御心配をおかけしました……」
なんてやり取りが交わされるのは、沖縄本島の観光名所『国際通り』のステーキハウス。
驚くべきことに捕らえられていた呪詛師のアジトを自力で脱出していた黒井美里。彼女から連絡を受けた救出チーム一行が集合場所に選んだその場所で、五条の『六眼』によるボディチェックを受けた黒井は、『黒井本人だし呪いも物理トラップも一切無い』というお墨付きを得て一行に合流。現在本格ステーキに舌鼓を打つ事となっていた。
「でも、救出というか脱出が出来て良かったけれど、先生達も
「んー……そうだな」
などと呟く五条の視線の先に映るのは、涙目で黒井との再会を喜ぶ天内理子。どう見ても14歳の少女でしかない彼女が受けた心労は察するに余りある。
で、あるならば。
「なぁガキンチョ」
「誰がガキンチョだ!? 妾は天元様で、天元様は妾なのだぞ!? もう少し敬え貴様!」
「あ、そういうキャラ作り今は良いから。厨二病モード一回オフにしてくんね?」
「悟。もう少し、手心というか何というか。お年頃なんだし、ほら、そういうキャラ作りも思春期なら仕方ないだろう?」
「いや、その言い方も煽ってるって。相変わらずクズだね〜、お前ら」
「うぅ、黒井〜、コイツらが虐めるよぉ」
「お嬢様、お気を確かに。……ところで、五条さんが言い掛けておられたのは一体?」
「うん。ガキンチョはどうしたいか聞こうと思って。せっかくだし沖縄観光でもするか? どうせ来た事ねーだろ」
「……修学旅行で行く予定だったから、まだ来た事ない。……でも」
「あ、遠慮とかウザいからすんなよ。どうせ俺らお前のやりたい事は全部叶えなきゃいけないらしいし。な、傑」
「まぁそうだね。私たちは理子ちゃんの願いを全て叶える様に、天元様に命令を受けている訳だし」
「若者は遠慮しないで甘やかされときなよ〜」
「いや、皆様も若者なのでは……?」
「それは黒井さんもでしょ」
「……私は今年で31なんですが」
「「「嘘ぉ!?!!?」」」
などと驚愕の声を上げる3人に「黒井は女子高生によく間違われるのじゃ!」と何故か謎に自慢げな理子。そこから硝子が黒井に使用しているコスメを聞いたりする余計な一幕があったものの、天内理子が悩みつつ下した結論は、『せっかくだから沖縄旅行がしてみたい』という年相応なもの。
その要望に「任せとけ」と答えた五条の笑みに「うん!」と返した理子の笑顔は、ここ数日の張り詰めた空気をしばし忘れた、本来の彼女らしいものだった。
* * * * * *
「『めんそーれ』どういう意味の 言葉なん? 色んな人に 言われとるけど」
「いらっしゃい、って意味らしいよ!」
「観光に来たわけではないんですが、花輪までかけられてしまいましたね。……いや、コレはハワイの文化では?」
「無理矢理予約捩じ込むのにスーパーシートプレミアムしか空いてなかった、つって補助監督が言ってただろ? そのせいじゃねえか? 俺は広くて良かったがな」
「僕達全員ガタイ良い方ですもんね! 帰りも乗れないかなプレミアム」
「帰りはな ワープとちゃうか 勘やけど。悟くんなら そうするやろし」
「……星漿体の意を汲んでギリギリまで沖縄観光を行う、でしたっけ」
「らしいな。まぁ五条だけじゃなく夏油の差金でもあるんだろうが……一応、呪詛師のテロを警戒して俺と直哉は空港で待機。七海と灰原は手筈通り集合場所のアラハビーチに向かえ。五条の連絡だとそこで海水浴するらしいから水着は道中買っとけよ」
「了解です! 楽しみだね七海!」
「灰原、完全に遊ぶ気じゃないですか。……まぁ、星漿体を楽しませるのが目的なら正しいのでしょうが……」
なんてやり取りを行うのは、羽田空港から空を飛んで五条達を追ってきた4人。私服に着替えて首から花輪を下げた彼らはすっかり観光客的な装いになっており、那覇空港に居ても『全員ガタイが良すぎるし、1人甚平の奴がいる』以外の理由では浮いていない。
そんな彼らの内、灰原と七海は先述の通り護衛担当として五条達に合流。甚爾と直哉は空港の防衛を行い、帰還時に五条達と合流する手筈となっている。
故に七海達はタクシーで空港から離脱する事となるのだが。————その配置に、直哉は策謀めいたものを感じ取っていた。
空港から走り去るタクシーをロビーから眺める直哉の手には、空港のスタバで買ったレモンティー。ついでに買ってきたブラックコーヒーを甚爾に渡しつつ、空港の長椅子に腰掛けた彼は、ある種の確信を持って甚爾に言葉を投げかける。
「甚爾くん なんか言う事 あるんやろ?」
「相変わらず勘が鋭過ぎんだろ。キショいなお前」
「まぁそらな。いつも背中を 追ってたら 色々見える 事もあるやん?」
「気持ち悪……」
「ガチトーン やめてやホンマ 傷つくわ」
「今のは100割お前がキショいのが悪いだろ————で、話だがな。俺の目的は『天内理子の護衛』なんだわ」
「知っとるよ 皆おんなじ 任務やし…………いや待って? 『そういう意味』か? 甚爾くん」
「ああ。そういう意味だ。俺は天内理子の『抹消』を阻止しなきゃならねえんだなコレが」
「なんでなん? 世の中的に マズいやろ。場合によっちゃ 俺は敵やで?」
「だから今話してんだろうが」
「まあそやね。事情を全部 聞いてから 判断するわ 死にとう無いし。でもそやね そう言う話 する時は————『幻燈に 映る一夜の 影法師』」
そう、印相と共に呪詩を紡げば、直哉と甚爾を包む様に展開されるのは直哉の結界術『第四乃壁』。
「気が利くな。……まず前提の共有だが、依頼元は九十九由基だ」
「九十九さん? 意外な名前 出てきたな。あの人は 人類全部 救うとか そういう系の 人とちゃうんか? 天元の 同化阻止して 世の中を どうこうするて キャラや無いやろ」
「まぁな。九十九が言うには、全人類の救済の為に天元の進化が重要なんだと。天元を進化させても、天元の生き汚なさのせいで暴走の可能性は限りなく低い、ってのが九十九の見立てでな。進化させて呪霊や神に近い存在になった天元を調伏するんだとよ」
「なんでまた そんな博打に 賭けるんや? 天元の 状態なんざ 知る術が あるわけやなし 先は読めんで?」
「それがな。九十九の奴も星漿体なんだとさ」
「……なるほどな? 進化を終えた 天元を 調伏させて 融合すんの?」
「おそらくな。天元と九十九が有利な縛りを結んで、九十九主導での『同化』を狙うんだろ。天内理子も言ってただろ? 星漿体は天元で、天元は星漿体。つまり————」
「天元を 九十九由基へと 同化する。そういう事も 出来るて事か……難しい 判断やわな どうするか。安牌は このままあの子 同化して 500年後に 先送りやろ?」
「だが、九十九の理想が実現すれば、それはそれで人間の為ってわけだ。どっちも善。この場合、お前はどうする?」
「そうやなあ、縛りの面で 問題が 無いなら俺が 選ぶだけやね。————まぁええわ。甚爾くんとは やりたない。同化の阻止に 協力したる」
「……そうか。————ハァ、なんで俺がこんな気苦労させられてんだよマジで」
「どうせまた 金を積まれて 受けたやろ?」
「まぁな」
「大金を 楽して稼ぐ 手は無いで?」
「知ってるわそんなもん。だからこうしてお前の縛りを掻い潜ろうとしてるんだろうが」
そう告げて、コーヒーを呷る甚爾は、その苦味を飲み下しながらも不敵な笑みを浮かべてガラス越しの青空に目を向ける。
「まぁしかし。お前とナシが付いた以上、後は呪詛師と盤星教のバカどもを抑え込めば勝ちって訳だ。油断せず行こうや」
「まぁそやね。呪詛師のことは 気掛かりや。『Q』の連中 エゲツないしな」
「アイツらな……まぁ、次は速攻ブチ殺してやるよ」
「怖いなあ……まぁ呪詛師やし ええけども」
そんな会話を交わす中で、早速空港に現れたフリーの呪詛師らしき男に目を向けた2人は、結界を一旦解除しつつ席を立つのだった。
おかげさまで60話です。
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今後とも拙作を宜しくお願い致します。