海水浴を満喫し、翌日はソーキそば屋で腹拵えをして、美ら海水族館を観光。そこから首里城を巡り、最後に国際通りでクラスのみんなに渡すお土産を選んで、沖縄観光は無事に終了。
あとは空港で半死人の山を築いていた甚爾や直哉と合流し、人の山を『万里の鎖』でギチギチに縛り上げてから甚爾が手懐けている『格納呪霊』に呑ませて回収。
そこから五条の『ワープ』で転移すれば、遂にめでたく呪術高専東京校へと、天内理子を護送完了である。
「いやぁお疲れ様、悟」
「マジでな。二度とごめんだ、ガキのお守りは」
「そう言うて 子供連中 好きやんか。照れ隠しなん バレまくりやで」
「お? なんだ貴様。妾と離れるのが悲しいのか? 可愛いところもあるではないか!」
「うるせぇよガキンチョ」
「……ちょっとしおらしいですよね、五条さん」
「五条先輩結構寂しがりだからね!」
「聞こえてんぞ七海と灰原……!」
なんてやり取りを交わせば、流石に場の湿度も上がるというもの。
しかし————そんな湿っぽさは、高専内に響く特大の警報で一気に塗り潰されてしまった。
「なッ————!?」
「傑! お前は七海と灰原と硝子を連れて天内を薨星宮に! 先生も頼む! 直哉は俺と迎撃!」
「ま、妥当だな。行くぞ夏油!」
「分かりました! 悟、直哉、頼んだよ!」
そんな会話の直後、轟くのは高専の結界を吹き飛ばすほどの強力な爆撃。
「また君か? 殺したやんか 死んどけや」
「お断りです、オリジナル。私はウェッセン様より新たな力を賜ったのですから」
結界を破った穴から悠々と降りてくるその下手人は、殺したはずの生体呪術兵器である『ビッツ』。直哉の知る姿と概ね同じ印象の彼だが、唯一その片腕が歪に肥大して捩じ曲がり、砲身の様になっているのは前回からの相違点と言えるだろう。
彼が宣言した『新たな力』。それが確実に腕の事であるのは明白。
だが、そんな小細工を、一切気にしない男が1人。
「『九網』『偏光』『烏と声明』『表裏の間』————出力最大! 虚式・
恵が観ていたウルトラマンメビウスに対し「初手でビーム打てばいいのに」と言い放った結果、怒った恵が繰り出した
その時の有言実行とばかりに開幕で必殺技をブチかました五条だが、それに対し『ビッツ』が行ったのは、腕の『砲』を用いた呪力砲による迎撃だった。
「予想通りですね、五条悟。————『グラニテ・ブラスト!』」
そう叫んだ『ビッツ』の腕から放たれるのは、超高出力の呪力の塊。仕組みとしては非常に単純な『呪力の放出』でしか無いその技はしかし、ビッツの絶大な呪力総量にものを言わせる事で、五条が全力で放った『茈』を相殺する程の威力を発揮。
高専の敷地内を呪力の爆発で蹂躙し、数多くの建屋を吹き飛ばしつつも、五条達とビッツは互いに一切の傷を負っていない。
「いやぁ、やっぱり恵が正しかったのかな? 確かに『相手も強い怪獣なんだから、弱らせないと当たんないだろ!』ってワケね」
「あんな技 無かったやんな 甚爾君」
「だな。アイツの術式は火炎と爆破だった。つってもよ、さっきの結界破壊はその爆破の術式だったぞ。術式の2個持ちなんざ出来んのか?」
「普通は無理だね。だけど————お前それ、未登録の特級呪物喰っただろ。『生きてる』奴。しかも元人間の」
「流石は五条悟。その解析能力は確か『六眼』、でしたか? 恐ろしい性能ですね。……隠しても無駄な様ですし、質問に答えておきましょうか。今回の僕は『石流龍』を摂取し、その術式を獲得しています。と言っても、呪物から魂の情報を複製抽出し、僕と同型の『ビッツ』に落とし込んだ後で別途呪物化させた紛い物ですがね」
「それはもう 本物よりも 酷いやろ。業の深さは むしろ上やん」
「ま、要は別の術式を持った個体とニコイチしたってことかよ。流石に人間で中古車みてえな事してんのはキショいな」
「酷い言いようですね。僕達は最新型。中古呼ばわりは不快です」
そんな会話を交わしつつ、『ビッツ』の腕の砲口から放たれるのは、火炎放射と火炎弾。
どうやらバッチリ自身の術式も強化されているらしい上に、呪物化した別個体を取り込む事で実質的にその呪力は2倍。
控えめに言って『
何しろ、脳みそお花畑な五条から見ても、『怪獣』として映っているのだ。系統としては直哉の同類である。
だが、強いて違いを挙げるならば————。
「お前のな 能力だけは 凄いけど。ガキはガキやね 頭悪いわ」
そんな声が掛けられるのは、ビッツの背後から。ビッツ自身が放った爆炎を目眩しに超高速移動を行った直哉からの言葉がビッツの耳に届く頃には、マッハ3の踵落としがその後頭部を派手に陥没させながらビッツを地面に叩き伏せており、ただでさえクレーターになっていた大地に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。
そして、大きく隙を晒したビッツに対し、容赦無く振るわれるのは、伏黒甚爾の最大火力。
特級呪具『游雲』。術式効果無しで特級に上り詰めた純粋な力の塊であるソレを、甚爾が満身の膂力で持って振うことで生み出される破壊力は、列車砲のソレに相当し、即座に退避したはずの直哉が『一瞬でも遅れていたら死んでいた』と冷や汗をかく程のもの。叩きつける様に振るわれたその一撃によりビッツの身体はグロテスクなペーストとなってその場に飛び散り、高専の敷地に汚い地上絵を刻む。
————だが。
「離れろ先生ッ! ————『位相』『頓悟』『夏椿』拡張術式『
五条悟が渋面と共に飛び散ったビッツの大半を『鏐』によって希釈消滅させたその直後、弾けて遠くに飛んだ肉の一片が沸騰する様に泡立ち、膨張し、全裸のビッツを形作る。
「酷いですね。死んだかと思いましたよ」
「死んどけよ人として……! 小指の先ぐらいの肉片だっただろ今の!」
「だとしても、生きている僕の細胞には変わりありませんから。ヒトは皆、たった1つの受精卵だったのですよ? そんな事もご存知ないのですか?」
そんな無茶苦茶な理論をしたり顔で語るビッツだが、決してその顔色は良くはなく、絶大な呪力総量にも若干の翳りは見えている。
おそらく、咄嗟の判断で呪力総量の幾らかを捧げる縛りで肉片からの再生を可能にしたのだろうが、そうは言っても元の総量があまりに多い。
高専の敷地内で突如始まった怪獣大決戦は、どうやらしばらく長引くことになりそうだった。