特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第64話

 呪術高専東京校は縦に大きい。

 

 地下深くにある薨星宮から伸びる御神木の梢にちょんと乗っかっているのが高専の校舎であり、高専から見ると忌庫を経て無数の空性結界を越えたその先にようやく薨星宮が存在する構造となっている。

 

 そして、夏油傑達一行は天元の協力もあり迷う事なく薨星宮を目指して忌庫の中を走っているのだが……。

 

 その後を密かに追う、『ビッツ』の個体が1人。

 

 この個体はウェッセンがステルス目的で調整した特殊個体であり、体外への一切の呪力放出を縛りで禁じている肉体強化特化の調整を施されている。ついでに言えば変な物音を立てない様に発声を禁じ、どうせ使わないので術式も破棄して出力を引き上げているカリカリチューンなその身体は、まぁ九割九分ウェッセンの趣味で調整されていると言っていいだろう。

 

 まぁ言ってしまえば、なんちゃってフィジカルギフテッド。

 

『天内理子抹殺の機を伺うと同時にあわよくば天元を奪取する』という命を受けているその個体は、首尾良く誰にも悟られず、高専の忌庫へと侵入する事に成功————していたのだが。

 

『すまない、ビッツ! 加茂憲倫に弄ばれたお前の身体、此処で散らせるぐらいならお兄ちゃん達が貰い受ける!』

「!?!!?」

 

 などという強烈かつ爆音の思念を至近距離で叩き込まれた上に、多種多様な『ビッツには存在しない記憶』を脳に捩じ込まれた彼は、白目を剥いて昏倒し、その口内に、凶悪な呪物の侵入を許してしまう。

 

 そこから始まるのは、一方的な受肉。所詮は生後数週間の『ビッツ』が150年を生きる特級呪物9体に魂の格で勝てる由もなく、あっさりその肉体を乗っ取られた『ビッツ』は、その顔面に横一文字の紋様を刻まれ、踵を返して忌庫から走り去るのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 一方、その頃。

 

「良い加減 ホンマに死ねや しつこいわ」

「自爆覚えてからマジでタチ悪いなコイツ!」

「直哉! お前の停止で何とかなんねえのか!」

「やっとるわ! コイツ絶対 自爆する『コマ打ち』しよる! 停止できへん!」

「そういうことかよクソッ!」

「ぼ、ぼぼ、僕は、『Q』の最新型。あなな、貴方たたち、で、ででで、では、かっかっかっ、勝ち目は、ななななな」

「バグってて キモい癖して 動きだけ 成長しとる ウザいなホンマ」

「呪力出力に任せて肉片から蘇生するレベルの反転を無理矢理使ってんなら、脳味噌からバグんのは道理だが……コイツ無意識で言語野とかの優先度下げて戦闘に必要な部分を死守してんじゃねえか?」

「マジかよ先生。それが当たってたらマジの戦闘マシーンじゃん。直哉お前オリジナルなんだろ、どうにかしろよ」

「悟君? T-800と シュワちゃんは 別モンやろが 無茶言い過ぎや」

 

 などとギャンギャン喚く怪獣達による1対3の大決戦は、極力寮や校舎への被害を避けるべく尽力する3人の存在があった上で体育館と校舎の一部を吹き飛ばす大惨事となっていた。

 

 うるさい程に響く警報の中で、夜蛾や日下部が駆け回り、子供達や非戦闘員の避難を必死になって行っているが、そちらへの被害が及んでいないのは、おおよそ奇跡とすら呼べるレベルである。

 

 状況は、まさに絶望的。殺しても殺しても蘇生する敵を前に、五条も甚爾も直哉も、決め手を欠いた状況にある。

 

 ————そんな中、参戦する『巨人』が一体。

 

「なっ!? 恵テメェ!? 何やってんだこのバカ逃げろッ!」

『嫌だ! 父さんの言うことでも聞けない! そいつは悪いやつなんだろ! 父さんが戦って、学校も壊されて! 地震で(いえ)もボロボロで! だから俺も戦う!』

 

 そんな声を『体内』から響かせるのは、白く巨大な、禍々しい鬼神。

 

八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)

 

 たまたま恵との『決闘(デュエル)』中に発生した戦闘。その余波で起こった地震や爆風から恵を守るべく、あまりに貧弱な『本体』に対する攻撃に『適応』した 魔虚羅(まこら)が選んだのは、自身に対する本体の搭乗。

 

 体内に恵を取り込んだその在り方は、偶然にも、恵が憧れる『光の巨人(ウルトラマン)』のそれに近い。

 

「あららっ、あらッ、新手ですかかかッ!」

 

 そう壊れたように叫ぶビッツが放つのは、『グラニテ・ブラスト』と正気だった頃の彼が呼んでいた呪力砲。確かに 魔虚羅(まこら)ほどの巨体が相手ならば、高出力の砲撃による対処を選ぶのは間違ってはいない。

 

 現に、腕を組んでその砲撃をどうにかこうにか受け止めた 魔虚羅(まこら)の身体は満身創痍であり、両腕が吹き飛び、両目から飛び出している翼は焼けこげ、全身からシュウシュウと焼け焦げた煙を発している。

 

 ————巨体には驚かされたが、実に呆気ない。ウドの大木だったのか? 

 

 そんな思考を巡らせながら、より深刻な脅威である筈の3人に向き直ったビッツは、戦闘に不要な思考を失いつつある壊れた脳で、勝利への道を演算する。

 

————違和感。

 

 だが、何故だろう。先程まで鬼気迫っていた筈の3人の強敵の中に、若干の『緩み』が見える。

 

 ————違和感。

 

 それが特に顕著なのは、六眼を有する五条悟。「やるじゃん恵、助けられちゃったな」などと謎の勝利ムードに浸っている彼は、両隣にいるオリジナルこと禪院直哉と伏黒甚爾から呆れたような視線を向けられている。

 

 だが、そんな2人も、五条悟の発言を否定する様子はない。

 

 

————違和感。

 

 

 その直後、ビッツの聴覚が感じ取ったのは、何かが嵌るような、或いは箍が外れるような、鈍い轟音。

 

 

 

 

ガゴンッッッ!!!! 

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