特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第65話

 結論から言おう。伏黒恵はビッツを圧倒し、一方的に勝利した。

 

 全身で受けたビッツの呪力砲撃に適応し、その肉体を高速で再生した 魔虚羅(まこら)。そんな 魔虚羅(まこら)が反撃として選んだのは、 魔虚羅(まこら)が今まで適応した中で、瞬間最高『火』力を誇る、とある剣技。

 

 その身に帯びる呪力の性質を『炎』へと切り替えて『退魔の剣』に纏わせた 魔虚羅(まこら)が構えるのは、剣を担ぐ様な独特の姿勢。

 

 ————術式解放『焦眉之赳』。

 

 何時ぞやに禪院扇と対決した際に炎への耐性と適性を獲得し、扇から盗んだ必殺剣。灼熱を纏う呪力により刀身を巨大化させるというシンプルながらに攻撃的なその技術は、狙い過たずビッツへと振るわれ、その肉体を爆散させる。

 

 だが、ビッツもそれで死ぬほどやわではない。粉砕されるより先に自爆する事で肉片から全身を再生させ、片腕の砲身を素早く照準。 魔虚羅(まこら)の背後から不意打ち気味にグラニテ・ブラストを叩き込む。

 

 だが、しかし。

 

「うわ、すっげえな 魔虚羅(まこら)。今アイツ呪力砲吸収しなかったか?」

「しとったな。術式効果 ついてない 呪力は全部 吸えるんやろか?」

「だとすりゃ、あのポップコーン野郎も終わりだな」

 

 などと、先程まで戦っていた3名が未だ臨戦態勢ながらも『邪魔をしない様に』遠巻きにダベっている通り、 魔虚羅(まこら)に撃ち込まれた筈の莫大な呪力はその全てを喰らい尽くされ、 魔虚羅(まこら)は喰らった呪力を口内に掻き集めると、ビームの様にして撃ち放つ。

 

 ただ反射されるよりもタチの悪い収束呪力ビームをマトモに受けたビッツは、再び自爆によって難を逃れ、肉片からその身を再生させる。

 

 だがそんな彼の耳は、その直後絶望的な音を拾った。

 

ガゴンッッッ!!!! 

 

 そんな派手な音を立てて、回転する 魔虚羅(まこら)の方陣。その直後、 魔虚羅(まこら)は再び『焦眉之赳』をビッツに叩き込み、それと同時に百メートル近くの空間を、超高熱で焼き払った。

 

 その火力たるや凄まじく、反射的に自爆したビッツの全ての破片を一瞬にして焼き尽くす程のもの。

 

 突如発生した絶大な熱量によって強烈な上昇気流が巻き起こり、小さなキノコ雲が形成されたその一撃は完全にビッツを焼き滅ぼし、この世に敵の細胞一つすら残さぬ圧倒的な勝利を伏黒恵へと齎したのだった。

 

 

 なお、観戦していた3人は咄嗟に五条悟を盾にした甚爾、咄嗟に周囲の空気を『停止』させた上で結界を張った直哉、盾にされたのは不服だがちゃんと全員を無限の防壁で守った五条という協力プレイにより爆風を耐えて無事だったのだが、校舎はそうもいかず、完全に消し飛んでしまったのだった。

 

 が、腐ってもそこは高専。日下部や夜蛾の奮戦もあってバッチリスタッフの退避は成功しており、人的被害は最小限*1へと抑え込まれたのは、不幸中の幸いというところだろう。

 

 

 * * * * * *

 

 

 そうして、恵の助力を得た五条悟一行がどうにか侵入者を撃退した頃。

 

 夏油達一行は、空性結界の数々を無事に通り抜け、薨星宮の参道へとやってきていた。

 

「此処を抜ければ、いよいよ天元様のお膝元だね」

「……ッ。そうじゃな」

 

 そんな会話と共に一行が見遣るのは、薨星宮本殿への道を隠す無数のトンネル。この三日間の騒々しさを忘れた様に思い詰めた表情の理子が唇を固く結ぶ中、意を決したように声を上げたのは黒井美里だった。

 

「……理子様。私は、此処までです。理子様、どうか……どうか————」

 

 そう告げて最敬礼の姿勢をとる黒井の足元に出来るのは、パタパタと落ちる雫の痕。

 

 そんな彼女に駆け寄り、固く抱擁を交わす理子の頬もまた、熱い涙に濡れていた。

 

「黒井ッ! 大好きだよ……! ずっと……ッ! これからもずっとッ!」

「私も……! 大好きです……!」

 

 そんな主従の別離の光景。その中で、それを見守る術師達もまた、一時の別れの挨拶を交わしていた。

 

「道中話しておいたけど、硝子、七海、灰原は此処で黒井さんの護衛と後方警戒を頼む」

「了解です! 黒井さんは絶対に守りますッ!」

「灰原、いつにも増して五月蝿いですよ。感極まるのもわかりますが……。まぁ、もちろん私も微力を尽くします。敵はどうやら無数の命を持っているようですし、油断は出来ません」

「私もまぁ、ボチボチ頑張るから理子ちゃんは任せたよ〜夏油。……ところで、夏油は天元様の命令覚えてる?」

「もちろん。『天内理子の願いは全て叶えろ』だろ? 私は悟と違って物覚えが良いからね。……ま、悟とも相談したし、直哉はあの通りの女子供絶対助けるマンだし、先生はまぁ……娘さんも居るし……?」

「最後だけ自信ないじゃん……まぁ良いや。うん。最後はあの子が選ぶ事だしね。任せた夏油!」

「任された。……大丈夫、私達は最強なんだ。例え誰と敵対する事になっても、『天内理子の願いを全て叶える』さ」

 

 そう告げる夏油が浮かべた「悪い笑顔」は、かつてのクソ真面目一辺倒な彼なら決して浮かべない表情で。

 

 清濁を併せ呑む度量を身に付けた1人の男は、ヒラヒラと手を振ると、天内理子に付き従って、薨星宮の本殿へと続く長いトンネルへと歩き始めるのだった。

*1
ビッツの初撃で警備の職員が数名消し飛んでいる。

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