「恵くん お手柄やんか 偉いなあ」
「そうかな……?」
「初の単独戦闘で呪霊討伐か。しかも
「そうかな!」
「なー、直哉。この子どうすんだ?」
「そうやなぁ 呪霊は見える みたいやし……」
「直哉が引き取るのはダメ!」
「どうしたん? 真依ちゃん急に キレるやん」
「一丁前に女なんだろ。お前の婚約者様は」
「俺ホンマ ロリコンちゃうし ありえんて……そもそもな 恵くんしか 見てへんで? この女の子
「……恵も俺に似てきたか?」
「甚爾くん モテるもんなあ 昔から」
「恵の彼女なら私の妹って事!?」
「津美紀、バカだろ」
「バカって言わないでよ恵!」
などと会話を交わすのは、伏黒家の御一行。先月に起きた『Q』による高専襲撃の一件で夏油傑共々『特級』に認定された伏黒恵は、今日この日初の単独呪霊討伐へと臨んでいた。
まぁ、とはいえ夏油は特級術師なのに対し、恵の方は『特別特級術師』。高専には未入学という事で、まだ任務を受けるには至らず、暫定的に禪院家所属の術師という扱いになっている為、この一件は別に高専の任務ではない*1のだが。
で、今回討伐したのは孤児を掻き集めて世話の真似事をしていた二級呪霊。何がしたかったのかよく分からない呪霊ではあるが、おそらくは孤児達の親を失った悲しみあたりから発生した呪霊なのだろう。
だが当然、呪霊に人が育てられるわけもなく。ほぼ生ゴミな食事を与えられていた孤児達の状態は最悪。重篤かつ非術師な連中はサクッと補助監督の車で高専の息のかかった一般の病院に担ぎ込まれ、『呪力を持っている』事で身体が並の人間より丈夫だった少女だけが、伏黒家と共に高専を目指して移動しているのだ。
まぁ、流石にちょっと臭いと汚れと服装がアレなので、甚爾が運転する車は差し当たりスーパー銭湯と『しまむら』を目指しているのだが。
「恵くん アフターケアも 呪術師の 嗜みやから その子の話 よう訊いて 後で教えて くれへんか?」
そう告げて、恵に女の子の世話を押し付ける直哉の真意は『真依ちゃんだけでもクソ面倒やのに、これ以上メスガキの世話なんざ見れるかいボケが』というものだったが、まぁ発言自体はいつも通りに縛りで穏当なものになっており、恵はそこに違和感を覚えなかったようである。
「……わかった、直哉兄ちゃん。……なあオマエ、名前は?」
「……
「そっか。……俺は伏黒恵だ。……お腹空いてるか?」
「……うん」
「お、重要情報じゃねえか恵。直哉、スーパー銭湯でメシにしよう!」
「真希ちゃんが 食べたいだけと 違うんか? まぁ飯ぐらい かまへんけども」
「良いじゃん。男は婚約者に飯奢るモンなんだろ?」
「誰からの 情報やねん その話」
「硝子と一緒にテレビで観た。な、真依、津美紀」
「うん。テレビでやってたね」
「なんか韓国? のやつだった……」
「ドラマやん。鵜呑みにしたら 結婚で 苦労するから 気をつけときや?」
「? 私らは直哉と結婚すんだから困らないだろ」
「……まさか、浮気……?」
「真依ちゃんは ゲスの勘繰り する癖を 早く治そな いや本当に」
なんて痴話喧嘩めいたやり取りを行う直哉達禪院組と、その漫才めいたやり取りに微かに笑う来栖華。
一仕事をすっかり終えた彼らはその後、しまむらで華の服を買った後無事にスーパー銭湯で身も心もスッキリと綺麗になり、高専へと戻るのであった。
* * * * * *
「でもさー、本当にオバケだらけなんだな、日本って」
『気を付けるんだ悠仁。昼の街中にいる呪霊は基本的に雑魚だが、怪物には違いないからな』
「うん。わかった脹相兄ちゃん。……でも、これ見えないだけで今までも居たんだよな? 今更だけど怖……」
『油断は禁物ですが、そこまで怯える必要はありませんよ悠仁。私達がついています。この辺りにいる呪霊は兄さんの言う通り基本的に雑魚ですから』
「そうなの……?」
『多分今の悠仁でも余裕で倒せるぜ! な? 兄者』
『こら血塗。俺も悠仁の才能なら余裕だと思うが、悠仁に危ない真似を勧めるな。まだ悠仁は幼稚園児なんだぞ。俺達とは違って完全に人間だしな』
『はーい。でもさー、せっかく呪力が使えるようになったなら、使ってみたいのが男の子かなってさ!』
「確かに、ちょっと使ってはみたいかも……」
『呪力ヲ扱ウニハ、練習ガ必要ダゾ、悠仁』
『悠仁、膿爛の言う通りだ。今晩の夢の中で使い方を教えてあげるから今は我慢してくれないか?』
「はーい」
『ユージ、イイコイイコ』
「へへっ、そうかな青瘀兄ちゃん」
なんて会話をポツポツと行っている小さな少年。常人には小さな声で独り言を言っているようにしか見えないが、此処は幸い幼稚園の年少組。絵本を手にブツブツ言っているくらいなら、先生達も「悠仁くんは最近絵本が好きなのかな?」ぐらいにしか思わない。
悠仁と九相図兄弟の遭遇と合体から約2週間。毎日一緒かつ毎晩夢の中であっている事ですっかり不思議な兄達の存在を受け入れてしまった強コミュ少年虎杖悠仁は、今日も今日とてヘンテコな兄達と穏やかな日常を過ごしている。
その一方、九相図がかつて封印されていた呪術高専東京校はといえば————。
「呪胎九相図の盗難ね……『Q』の連中、最後に繰り出してきたクソガキみてえなのを作るつもりかよ」
「悟達が手こずった、無限に再生する怪人か……先生、『Q』の足取りは掴めたんですか?」
「いや……九十九特級や冥からの情報提供*2で幾つかの拠点跡は見つけたんだが、現在は消息不明だ」
「え〜、冥さんでも見つからないならどっか国外逃亡したんじゃない?」
「まぁ、硝子の言う可能性も充分あり得るんだが、警戒と捜索をしない訳には行かないからな。高専としては頭の痛い話だ。……だが、お前達にはもう一つ、『Q』以外に重要な話があってな」
そう話を切る夜蛾は、コホンと一つ咳払いをすると、五条達2年トリオへと要件を告げる。
「今年も交流戦の時期が近づいている」
「え。やるんですか、校舎吹っ飛んだのに」
「京都校主催だからな。今回は。だが……この件に関して、今回京都側から泣きが入った」
「泣き?」
「ああ。特級3人を擁する東京校に一級が上限の京都校が勝てるわけがない、というまぁある種当然な話でな」
「ウケるねソレ。呪霊にもそう言うのかよソイツら」
「いや、そういう話ではなく『認識できない速さで一方的に瞬殺されるだけでは京都校にとって何の訓練にもならないのでは?』という話でな。この意見に対し、両学長も『それはまぁその通り』という見解を出している」
「……まぁ確かに、五条のワープ、夏油の領域、直哉の超音速、全部相手を瞬殺しちゃう気はするかも」
「そこで今回、交流戦は『高専』らしい手法で行う事になった」
「勿体ぶるじゃん。高専らしいって何だよ」
「呪術高専、東西対抗
「傑の呪霊にダンボール被せようぜ」
「胸にGUNDAMって書いとこうよ」
「じゃあ頭に被せるダンボールには直哉の似顔絵を描かなきゃね」
「もちろんそういうズル、というか生得術式の直接使用は今回は禁止だ。真面目にやるんだぞ」
「「「え〜!?」」」
などという叫びが新校舎に響き、やいやいとブーイングを夜蛾に入れる3人組は、もうすっかり過日の激戦から日常へと戻り、学生の身分を満喫しているのだった。