ばりぼりと煎餅を齧る音が響く、伏黒家の居間。
「ばかうけも あってよかった ぼんち揚げ だけやとちょっと 物足らんしな」
「まぁ確かに……でも悪いね、お茶とお菓子まで貰っちゃって。手土産ぐらい持ってくりゃよかったかな?」
「それはまた 次の機会で ええけどね。さてとそしたら 続き話そか」
「縛りの4つ目からだね。次の縛りは何だったっけか」
「次は『
「なるほど、具体的には?」
「例えばな、包丁持って 片付ける。コレは別段 普通にできる。せやけどな、白菜切ろう 思ったら 腕が痺れて 動かん訳や。この縛り 呪具も防具も あかんねん。何なら多分 車もあかん。引き換えに 肉体強度 そのものが 上がっとるから トントンやろか?」
「不便すぎる……! 君普段どうやって生活してるの? 食事とか出来合いもの?」
「いや別に 呪力操作で 何とでも。こないな風に やればええやん?」
そう言って、指先に刃渡り10cm程の呪力の刃を形成する直哉。シンプルに『メチャクチャ呪力操作の練度が高い』という努力ゴリ押しの解決法ではあるが、五体そのものを武器とするのは縛りに抵触しないという事なのだろう。
「え、でも直哉くん、君それで料理してるの? パッと見ても俎どころかキッチンまで切れそうだけど。呪力を高速循環させてチェンソーみたいになってるじゃんソレ」
「確かにな。せやからかなり 繊細に 食いもんだけを 切っとるけども……次行こか? 話逸れたら 長なるで?」
「あ、ごめんごめん。続けて?」
「五つ目は 『紳士』の縛り なんやけど。コレもまた 面倒くさい。個人的 ナンバーワンや ウザさで言えば」
「うん? そんなに?」
「敵以外 女子供に 手が出せん。暴言ですら 縛りが掛かる。その上で ガキの面倒 見とるから ストレスフルで 禿げかねへんわ。大体な 俺の育ちで 分かるやん? 禪院生まれ 禪院育ち。紳士とか 無縁どころか 無理やんか? 男尊女卑の 権化やからね」
「自覚してるのは凄いけど、言ってる事は凄くないね」
「まぁそらな 古い呪術の 家系なら 大概何処も 似たもんやろな。治せたら ええんやろけど、言うやんか『雀百まで 踊り忘れず』。俺はもう 性根がとうに 腐っとる」
などと言いつつも、九十九の茶が切れたのを見計らって茶を注いでくれる直哉の行動は『実に紳士的』だが、確かに彼の言う通り、良く見ればこめかみに血管が浮いている。
なるほど彼の本来の性根であれば、絶対にしない行動なのだろう。であれば、それを強制する縛りとは如何程の見返りがあるものなのか?
それを九十九が問うてみれば、その回答結果は少しばかり地味なもの。
「一応な 筋力とかが 上がっとる。呪力抜きでも そこそこ行くで」
「具体的には?」
「そうやなぁ、普通に車 くらいなら 殴り壊せる 程度のもんや」
「まぁ、それなりには強いね*1。……でも、そこに呪力を別途載せれると考えれば破格か?」
「正直な? 複合的な 縛りやし 個々の効果は 量りかねとる」
「まぁそうなるのが普通か……いやまぁ、君ほど自分を縛った術師は知らないから『普通』なのかはわからないんだけど」
「そらそうか。……6つ目行こか? 『苦行』やね」
「出た! 一番馬鹿っぽいやつ!」
「そうやんな それはホンマに そう思う」
五行相剋に因んだ荒業を毎日行うという、シンプルながら実に苦しいこの縛り。あまりに絵面が『修業っぽ過ぎる』せいでインパクトは抜群。
故に九十九も覚えていたのだが、反面、縛りの恩恵の方はあまり記憶にない。
「恩恵は 多分身体の 強化やね」
「また? いやまぁそういうこともあるのか?」
「多分やで? 耐久面が 上がっとる。呪霊の毒を 耐えれたりとか。身体もな 並みのそれより 頑丈や。この前コケて 床板割れた*2」
「なるほど、筋力と体力は別口なのか……フィジカルギフテッドは両取りなのにね」
「そこはまぁ、後天的な モンやしな。本家越えとは いかんのちゃうん?」
「なるほどねぇ……いやぁ、興味深い」
「そうかいな 何かの足しに なるんなら ええんやけどね 話すだけやし」
「いや、正直随分助かって……ん? 車?」
そう九十九が呟いた直後、重めの排気音とブレーキ音と共に家の前で停車する、大型車の気配。その音に気づいた直後掛け時計に目をやった直哉は、慌てたように席を立ち、九十九に一言断りを入れて足早に廊下に向かう。
「こらあかん! 送迎バスや! ちょい待って、ガキ迎えたら 続き話すわ!」
「はいはい、ちょっと頭の中整理しながら待っとくよ」