特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第70話

 高専の学生たちが、ロボコンに向けて式神作りを頑張っている頃。

 

 虎杖悠仁少年は、人知れず夢の中で呪術の訓練に邁進していた。————が、その教育係は、ちょっと意外な相手であった。

 

『悠仁のいない間に予行演習をした結果、一番教えるのが上手いのは膿爛では? という結論になったので、メインは膿爛、私たちはサポートという形で教えていきますね』

『ヨロシクネ、悠仁』

 

 と、いう訳で、九相図兄弟四男の髑髏入りスライム怪人こと膿爛が悠仁の教育係に就任したのである。

 

 なお、血塗が語るところによれば『1番が膿爛、2番が壊相兄者、3番が青瘀、4番が脹相兄者、5番が俺! 噉相、散相、骨相、焼相は喋るの得意じゃねえからやめとくってさ!』とのことで、意外にも一番話せそうな脹相が低めの順位なのだとか。何でも、一挙手一投足に褒めが入るのとちょっと天然なので授業が遅々として進まないとの事である。

 

 と、そんな訳で事前に悠仁が進む道の露払いを済ませてくれたお兄ちゃん達の尽力の結果、教育係となった膿爛だが————。

 

『呪術ヲ扱ウニハ、マズハ呪力カラ。今カラ悠仁ノ身体ニ呪力ヲ流ス。今ハ呪力ヲ感ジル事ニ集中スルンダ』

「おぉ、膿爛兄ちゃんの手、あったかい冷えピタみたいな感じなんだな……ん、何か流れてきたかも?」

『良いぞ悠仁! いきなり呪力を感知できるとは、やっぱり俺の弟は天才だ……!』

『脹相兄サンノ言ウ通リ、筋ガ良イネ、悠仁。身体ヲ呪力ガ流レル感覚ハ掴メタカナ? ジャア次ハ、俺ガ悠仁ノ身体ヲ動カシテ、呪力ヲ『流ス』感覚ヲ感ジテ貰オウ』

 

 ————と、いう調子で、一歩ずつステップを踏んでいく堅実かつ丁寧な教え方で悠仁に呪力の扱いを教え込むその授業は前評判通りにわかりやすいものだった。

 

 まずは膿爛が悠仁に呪力を流す事で、悠仁に呪力を体感させる。

 

 次に膿爛が悠仁の身体を操作*1して悠仁自身の呪力を流す感覚を体感。

 

 そしてそこから器用にも左手以外の制御を悠仁に返して、膿爛が左手で呪力を扱いながら、悠仁に右手で呪力を扱う練習をさせる。

 

 そんな、一歩一歩着実な授業と天性のセンスのおかげで、悠仁は見事に呪力を流す感覚を体得して見せた。その上で、次に膿爛が教えたのは『呪力の作り方』。

 

『悠仁ノ身体ニハ俺達ガ居ルカラ、俺達ノ呪力ヲ借リテ、呪術ヲ使ウノガ一番簡単。デモ、悠仁ガ自分ノ呪力ヲ使ウニハ、『嫌ナ気持チ』カラ呪力ヲ作ラナイトイケナイ』

「嫌な気持ち……」

『ソウ。デモ、呪術ヲ使ウ時ニ、ズット嫌ナ気持チナノハ最悪ダ。ダカラ、チョット『怒ル』ノガ良イ。チョットダケナ』

「ちょっと怒る……?」

『例エバ、呪霊ハ悪サヲスル。人間ヲ病気ニシタリ、殺シタリ。悠仁ハ、ソウイウ呪霊ヲドウ思ウ』

「……悪い奴ならブッ飛ばしたいかな」

『ソノ気持チデ、呪力ヲ作ッテミヨウ』

 

 そんな調子でキッチリ段階を踏む膿爛の教育に加え、ソレをサポートするべく脹相が赤血操術で生み出した『血の怪物』を仮想敵にする事でしっかりと『恐怖と怒り』を感じた悠仁は、荒削りながらも己の呪力を生み出して、『血の怪物』を殴り飛ばす。

 

『凄いぞ悠仁! 天才だ!』

『いや、コレは確かに。脹相兄さんの『俺の弟は最高なんだ補正』を抜きにしても、初挑戦でこの呪力操作……悠仁は本当に天才かもしれませんね』

『凄えよ悠仁! 俺あんなパンチ打てねえもん!』

『流石ダ悠仁、良ク出来マシタ』

『ユージ、スゴーイ!』

 

 などと大絶賛の末に揉みくちゃにされて撫でくり回される悠仁は、にへらと笑みを浮かべつつ、「褒めすぎだよ兄ちゃん」と照れていた。

 

 そうして気を良くした彼は呪力の鍛錬にのめり込み、言葉は足らないながらも圧倒的な技量を実演して見せてくれる脹相や、それを解説してくれる壊相。そして目が無いのに呪力で目を強化すると良く見えると言い出して兄弟総出で何処が目なのか探す事になった血塗などのサポートを得てメキメキと成長を遂げていく。

 

 最終的には兄弟との呪力を交えたスパーリング*2などが行える程になったところで、『お爺さんが呼んでいますよ』と壊相に促されて目を覚まし、悠仁の楽しい呪力鍛錬は幕を閉じたのであった。

 

「おい悠仁、お前最近寝相悪くねえか……? ずっとモゾモゾしてんぞ」

「え、ごめん爺ちゃん」

 

 そんな朝のやり取りを交わし、朝ごはんをしっかり食べてから祖父と共に幼稚園に向かう悠仁。そんな中、ふと軽バンを運転する祖父の肩に乗った『小さいオバケ』*3を見かけた彼は、恐る恐る祖父に問う。

 

「爺ちゃん、肩大丈夫か?」

「ん? おう、ちょっと寝違えたみてぇでな」

 

 そんな会話を交わせば、悠仁が考えるのは『どうにかしたい、でも良いのかな?』という思考。

 

 そんな中悠仁の脳裏に『悠仁のお爺ちゃんならお兄ちゃんのお爺ちゃんでもある! まかせておけ』と脹相の声が響き、悠仁の額から飛び出したBB弾程の呪力の弾丸が、狙い過たず蝿頭を撃ち抜いて、蝿頭は黒い煤のようになって崩れ去る。

 

「お? 治ったか? 治ったな」

 

 なんて呟いて首を捻る祖父を眺めながら、悠仁は内心で頼れる兄に『ありがとう兄ちゃん』とお礼を述べるのだった。

 

 

 なお、脹相は死んだ。*4

*1
悠仁の意識を残したまま悠仁に受肉する事で実現。

*2
悠仁はまだ小さいので成人男性ぐらいの膂力しかないが、明らかにおかしいその膂力に脹相達はかなりびっくりした。

*3
蝿頭

*4
現場には血文字で『俺の弟が天使』と書かれており、現場を検分した名探偵血塗から『手遅れだな!』と死亡確認をされていた。なお、他の兄弟はヤレヤレ、と苦笑していた模様。

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