「初めまして! 東京校パイロット、灰原雄です!」
なんて挨拶を律儀に審査員席に向かって行う灰原と、その後ろに控える東京校一行。思いっきり形から入っていつのまにやら保護メガネと作業着を装備している彼らの内、式神を取り出したのは五条悟。
無限により空間ごと『縮小』していたソレをポイと放り投げれば、グラウンドに現れるのは身長2m程の大きな『やっこさん』。呪符と言うには規格外に巨大なその折り紙の表面には、墨でびっしりと術式が刻まれているのが見て取れる。
「こちらが、東京校の式神、『汎用人型決戦式神・飛龍』の呪符です。素材には美濃和紙を使用しており、術式は五条先輩が六眼を駆使して刻み込みました。この呪符の特徴としては、呪符に術式を刻み込む為の『墨』を現代呪術に逆行する発想で手配した点が挙げられます」
などと、堂々とクリップボードに挟んだカンペを読みつつ発表する灰原。彼が語る通り、この『飛龍』における第一の特徴は、『墨』だ。
この墨、反転を使える五条、直哉、七海、家入の4名が回復力に物を言わせて七日七晩掛けて行った、獣肉を焼きまくる暗黒護摩業*1によって得られた煤を、その護摩の火で直哉の背骨*2を煮込んで作った膠で練って固め、七海建人の生き血*3で溶いて作ったとんでもなく禍々しい感じの墨なのである。
要するに、廃れに廃れた『呪詩』『舞』『楽』『印相』の4つをフルにぶち込んだ上で実に悠長かつ悪魔的な儀式を行い、呪術的な要素を盛りだくさんにして手配されたソレは、当然強力な呪具になりうるわけで。
そんな物を使って書き込まれた緻密な術式は、それだけでこの巨大な和紙の『ヒトガタ』に強力な呪いの力を帯びさせるに充分な物である。
「なるほど、直哉君らしいアイデアだね。確かに準備期間が充分にあるのなら、いっそ儀式をがっつりやってしまう方が強力な呪術を使用できる」
「相変わらずというか、我が息子ながらバカだなアヤツ! ガハハハハ!」
「ふむふむ、肉を焼いた煤、骨を煮込んだ膠、そして墨を溶くのは血……変則的に血と肉と骨を与えたことでその式神はある種の人造人間と化している訳だね。流石は汎用人型決戦式神ってだけあってエヴァっぽいじゃないか。そして、その呪符のサイズや形状もよく考えられている。超大型の折り紙という手間が掛かる上に持ち運び難いし嵩張る呪符にする事で擬似的な『縛り』を構成しているね? なかなか自由な発想で私は好きだよ。面白い」
「……加茂家の人、エヴァとか見るんだ」
なんてやり取りが審査員席で行われているあたり、掴みは上々。
だが、この紹介はあくまで『式神紹介』。呪符へのこだわりを紹介するのはあくまで紹介の『掴み』でしかない。
「それではこれから、『飛龍』を起動します! ————臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前! 汎用人型決戦式神・飛龍! 起動ッ!」
そんな灰原の裂帛の気合いとともに、灰原が手にした3枚の呪力供給用呪符から『やっこさん』へと呪力が注ぎ込まれ、現れるのは身長4mを越える巨大な鎧武者。
白を基調とした装甲に金と紅、黒が差し色としてあしらわれた、大太刀を佩いたその武者のデザインは、新しくも古式ゆかしい印象を与える絶妙なライン。「ほう?」と唸る楽巌寺学長の反応も悪い物では決してなく、保守派狙いで形から入るという案はまずまず成功と言えるだろう。
それと同時に、起動時に『グポーン……』と音を立てて点灯した青い単眼と起動と同時に立ち上がり、ポーズを決めた際の『ブッピガァンッ』という謎の音が審査員席の男性2名の爆笑を誘っているのだが、そちらについては楽巌寺学長は首を傾げている。
また、灰原の指示で演舞をして見せる『飛龍』の動きは実に鋭敏であり、大太刀を使っての剣術も中々に様になっているのだが……。
この辺りの動きは、ポン刀を持たせた某スーパーゴリラ教師*4の動きのトレースであり、『超カッコいい感じで侍っぽく』という五条のアホなリクエストをもとに八相の構えからの剣舞を行うその所作はリクエスト通りに見栄えが良いものに仕上がっていた。
「おー、滅茶苦茶サムライロボって感じじゃん。悪く無いね、動きも結構カッコいいし。シンプルに巨大な鎧武者が刀を持って襲ってくるだけでも中々の脅威だからね!」
「むぅ。カラーリングはパトレイバー風だがデザインとしてはジオン系に近いか? 頭部デザインは外してきとるが、モノアイだしな! 儂の好みで言えば東映系のゲッターかマジンガー、サンライズで強いて言うならダグラムだが……こればかりは個人の好みの範疇よな」
「名前の癖にガッツリ系のロボで来たねこれは! 動きに合わせてアニメ調の効果音を鳴らすユーモアを『所作の度に音が鳴る事で敵に回避の機会を与える』という縛りにしてあるのかな? 余計な機能を余計な機能のままに終わらせないその発想、実にイイね! やっぱり若い子の発想力は面白い。だけど、事前準備の割にはシンプルな式神にも見えるのが気になるかな。何か凄い機能が見れることを期待してるよ」
「加茂家の陰険血みどろ術師にしては饒舌だな此奴……」
と、審査員席の反応は上々。そんな中、紹介の最後に行われるのは、『飛龍』の術式の紹介だ。
仮想敵として東京校チームが運び込んだのは、一体の木人。それに対して、『飛龍』は両の握り拳を向かい合わせるようにして掲げるダブルバイセップスのようなポーズを取ると、強烈な呪力を纏いながら籠るような、妙に反響する『咆哮』を上げた。
『メ・イ・オー』
と、同時に、天から降り注ぐ光の柱が、仮想敵である木人を地面諸共圧壊させ、京都校の校舎に軽い地震を発生させたのだが……。
そんな揺れよりも何よりも、審査員席で『ゲラゲラゲラゲラ』と爆笑する審査員3名が注目を集めているのは言うまでもなく。
「ゼオライマーの単発攻撃の方*5のメイオウ攻撃じゃんそれ! スパロボの! 私でも知ってるよ流石に!」
「単発……? *6 いやしかし、笑った笑った。マイナーどころの名作OVAを持ってくるあたり、さては儂が審査員を買って出るのを読んどったか直哉の奴め」
「いやー、ホント最高だったね。原作再現完璧過ぎるでしょ。……でも、ポーズと咆哮を行う事を縛りにして威力を引き上げてるみたいだし、そもそもこの術式自体、明らかに式神に組み込むには複雑、少なくとも準一級以上の呪霊に匹敵する術式だ。何かタネ*7は有りそうだけど、流石にそこまでは教えて貰えなさそうかな。距離を取ればこのメイオウ攻撃が飛んで来るし、近付けば大太刀で狩られる訳か。イイ仕上がりの式神だね」
と満場一致で好評な『飛龍』の紹介はこれにて終了。後から紹介を行う京都校に充分にプレッシャーを掛けられた筈の発表内容だが————。
————むしろ京都校の面々は、爆笑する審査員達を見て、勝利を確信したかのような表情を浮かべているのであった。