特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第75話

「さて、私達京都校は私、坂田あずきがパイロットを務めさせていただきます。よろしくお願いします。さて、早速ですが、まずは式神の紹介を行います」

 

 そう宣言すると同時に、坂田あずきが胸元*1から取り出すのは、封印の札に包まれた一本の巻物。

 

 東京校が巨大さによってカバーした面積を京都校は『長さ』によって補い、巻物という形に呪符を落とし込んだのだ。

 

「東京校の式神の墨がただの墨ではなかったように、この巻物も当然、ただの巻物ではありません。私達も東京校同様に『呪詩』『印相』『舞』そして『楽』を交えた儀式を行いましたが、その対象は製紙————そう、この和紙は私達が自ら漉いたものになっています。そしてその過程で、この和紙には私達の髪を漉き込みました。髪は呪術的にはそれなりに有用な素材なので、期待通りの効果が得られたと自負しております。加えて、記述用のインクについても東京校程の大規模な儀式は行っていませんが、私達の髪と血を元に作ったプルシアンブルーを使用しています」

 

 などと、説明を行うあずきの口調は澱みなく、その言が正しいならば今のところ準備段階の手間暇では、東京校には一歩劣るがそれなりに健闘していると言っていいだろう。

 

 だが、この勝負の勝敗を決めるのは呪符の作成技術ではなくあくまで式神同士の勝負。

 

 そして何故か、先程封印から解き放たれた巻物を目視した瞬間に五条が声も出ないほどに腹筋を引き攣らせて笑い転げている現状は、東京校にとっても逆に『緊張』を誘う事になる。

 

 皆が注目する、張り詰めた空気。

 

 そんな中、周囲をグルリと見渡した坂田あずきは、高らかな声で京都校の式神の名を宣言し、巻物に呪力供給用の呪符から一気に呪力を注ぎ込むと、巻物はひとりでに展開し、グラウンドに巨大な『環』を描く————! 

 

 

「それでは私達京都校の式神をご紹介しましょう!」

 

「————『轟力(ごうりき)戦隊()()()()()ャー』!!! 出動!!!」

 

 そんな耳を疑う様な発言と共に、突如巻物の環から赤・黄・青・白・黒の5色の爆煙が巻き上がり、現れるのは、煙に対応した色の妙に近未来的なデザインのアンテナ付きヘッドホンと、同じく煙に対応した色の袴を装備した、どうみたって楽巌寺学長にしか見えない式神5体。

 

 が、赤色の個体がエレキギター、黄色い個体は電子トランペット、青い個体がエレキベース、白い個体はショルダーキーボード、黒い個体がデジタルパーカッションを装備したその面々が何であるかは、一目瞭然。

 

 楽巌寺学長5人によるロックバンドというかなり意味不明なその5人組は、間違いなく呪術高専京都校の式神であり、先程坂田あずきが宣言した『轟力(ごうりき)戦隊ガクガンジャー』なるイカれた名前も決して空耳では無い。

 

 そして、彼ら5体が一斉に楽器をかき鳴らすと同時に再び発生するカラフルな爆煙は、理解不能から硬直した場の空気に喝を入れ、観客全員の脳髄が眼前の状況をようやく理解する。

 

 ある種、簡易的な無量空処と言ってもいい意識の空白から解き放たれた彼らは、五条悟から周回遅れで、シリアスな笑いをその腹筋でたっぷりと味わう事になる。

 

「あはははははッ! サイコ〜ッ! 良いねこう言うの、学生っぽくてお姉さんは好きだぞ!」

「ブゥワハハハハッ! なるほどよくよく見ればあの楽巌寺、身体のいたるところにモールドがある! 攻殻機動隊でいうところの義体の様なコンセプトか! しかし、そっくりだな全く!」

「アハハ、笑っちゃうねコレは。……でもみたところあの式神、ただの一発ギャグじゃあ無さそうだね。明らかに、総呪力出力は東京校の『飛龍』以上! 一体全体、どんな種や仕掛けがあるんだろうね?」

 

 なんて、一応はちゃんと審査をしている審査員たちはマシな方。楽巌寺(本物)はいつも眉毛で隠れている目を驚愕に見開いているし、夜蛾は笑ってはいけないのに面白過ぎる絵面のせいで本気で腹筋が『攣って』悶絶。

 

 楽巌寺嘉伸という呪術師について知っていれば知っているほど『ズギャーン』とエレキサウンドを鳴らしている式神5体に腹筋をやられるという仕組みのこのトンデモ戦隊。

 

 だがやはり、一番被害を受けたのは、巻物を見た時点で六眼で内容を理解してしまい、その上で予想以上の面白式神をお出しされた五条悟だろう。

 

「ヒーッ……! ヒーッ!」

「悟、息をゆっくり吸うんだよ。落ち着いて……」

「重度の横隔膜痙攣だねコレ。直哉、術式反転。拒絶すんなよ五条。……じゃあ直哉、コイツの呼吸限界まで止めて。私が合図するまで。…………よし」

「ゲホッ……! ……悪い硝子、助かった……ゲホッ」

 

 なんて、ちょっとした救急救命が繰り広げられているレベルで五条を笑わせたこの瞬間、京都校は刹那の間だけ最強だったと言っても良いだろう。

 

 で、そんな式神についてだが、この式神、審査員席の加茂憲嗣の言う様に、別に派手でシュールで面白いだけの式神ではない。

 

「皆さまお楽しみいただけた様で何よりです! この式神、『轟力戦隊ガクガンジャー』は5人1組の式神。かつ、そのコンセプトに『楽巌寺学長』と『戦隊ヒーロー』そして『縛り』を取り込んであります。例えば、今日この日、晴れ舞台で皆様のお目に掛かったこのガクガンジャーですが、なんと実は昨日まで、このガクガンジャーを披露出来無くなり、私たちが不戦敗になる可能性は常に存在していました————」

 

 などと切り出した坂田あずきが語った、『ガクガンジャー』に課せられた縛りは以下の通り。

 

 ① 『当日の紹介までに楽巌寺学長に『ガクガンジャー』の存在が露見した場合、呪符が爆発し式神が消滅する』

 

 ② 『坂田あずきは当日の紹介に至るまでの間ガクガンジャーの呪符を絶えず身に帯びなくてはならない』

 

 ③ 『ガクガンジャーは当日の紹介で楽巌寺学長に露見してから24時間後に呪符が自然発火し2度と使用できなくなる』

 

 ④ 『ガクガンジャーが敗北した場合、京都校のメンバーは30分以内に自身がデザインした個体と同色の全身カラータイツに着替え、1週間衣類を同様の全身カラータイツのみで過ごさねばならない』

 

 ⑤ 『ガクガンジャーが敗北した場合、京都校のメンバーは責任をとって翌日から1年間剃髪*2で過ごす』

 

 そんな、五つの『縛り』を儲けたガクガンジャーは、京都校の不退転の覚悟の表れであり、加茂憲嗣が指摘した通り、総体では『飛龍』を超える呪力出力を発揮している。

 

「縛りへの着目か……良いね。私も許容できる範囲内なら積極的に組み込んでいくべきだと思うよ。……しかし、上手くやったね。呪符の自爆と携帯の義務のコンボで間接的に自死ないし自傷の縛りも成立している。加えて、他の縛りもギャグ的でありながらかなり『罰』の色が濃いものだ。学生同士の交流会でギリギリ許されるラインを絶妙に突いてきた感じかな、やるじゃないか京都校」

「それに加えて、あの式神が行使する呪術……演奏が儀式的な『楽』として成立するのなら、かなり強力なものになっていてもおかしくない。私も式神*3は使うけど、ああいうサポート系の式神ってのもアリかも」

「むぅ。縛りによる強化は確かに呪術戦の趨勢を決め得る要素だが……まぁ、個人的な事を言えば儂は特撮はよく分からんが……流石に、ちと弱過ぎんか? 東京校は4mの巨大ロボットに対し、京都校は楽巌寺モドキのアンドロイドが5人。呪力出力の総量は同じだとしても、見たところあのガクガンジャーとかいう連中は取り立てて能力が無いように見えるが……」

 

 などと、賛否両論な審査員席に対し、不敵な笑みを浮かべた坂田あずきは、ビシリと東京校の『飛龍』に指を突きつけると、審査員席に向けて高らかに宣言してみせた。

 

「心配ご無用! ガクガンジャーの強さは、実戦で証明してみせます!」

 

 そんな彼女の言葉で漸く再起動した夜蛾と楽巌寺学長(本物)が、どうにかこうにか『式神対決』の開催を震える声*4で宣言し、第一回呪術高専東西対抗式神(ロボット)コンテストはいよいよ最終局面へと移行するのであった。

*1
ブツが挟まれていた谷間に直哉は一瞬反応したが、『……パッドと寄せてあげてで頑張っとるね。アレやと脇どころか背中の肉まで持って来とるな。地力は多分、D75ってとこか……まぁファッションは個人の自由やしええんちゃう?』という厳しめのキショい評価を内心下している。

*2
ツルツル丸坊主

*3
凰輪(ガルダ)。九十九が自身の術式と組み合わせて用いている式神。

*4
楽巌寺学長はあまりの事態に呆然、夜蛾はとにかく腹筋が痛い為、両者声が震えていた。

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