さて、式神対決の開催が宣言されたその直後、まず動いたのは青と赤のガクガンジャー。
エレキベースでロータリー奏法を交えたイカしたベースソロをキメるその個体が弦を弾くたび、迸るのは青い稲妻。
いかにもロボっぽいその放電攻撃は、しかし、自然の放電ではなく呪力により指向性を持たされた砲撃めいたもの。その放電元がピッカピカのハゲ頭でさえなければ、かなり格好の良い一撃だろう。
「ファーwww おじいちゃん、プラズマボール*1みたいにされてんじゃん……!!! ブフォッ」
「悟、プラズマボールとか知ってるんだね」
なんて会話を呑気にしている東京校。その余裕は、『飛龍』が防御結界により紫電の砲撃を完全に防ぎ切ったが故の事であり、同時に灰原が入学以来愚直に磨いてきた結界術の腕前を信用してのものでもある。
だが、東京校の式神が何らかの『防御手段』を有する事程度は、京都校のメンバーも予想の上。ガードを取られたならそのまま防御させたまま呪力切れでのダウンを狙うまで、とばかりに青いガクガンジャーの一撃に続けて、赤いガクガンジャーが攻撃を放つ。
そして、エレキギターで厳ついリフを掻き鳴らすと同時に赤のガクガンジャーが放ったのは、まさかの火吹き芸。
「ジーン・シモンズ*2ってベースじゃなかったっけ?」
なんて審査員席で九十九由基が突っ込んでいるが、その攻撃範囲はなかなかのもの。『飛龍』を丸焼きにしかねない巨大な火を吐く楽巌寺学長似のアンドロイドという絵面は、関係者にとっては驚愕の絵面ではあるものの、楽巌寺学長がちょっと仙人風なルックスな点だけを見れば、まぁ似合っていなくも無い。
だが、呪力を燃料にした火炎放射というこの術式から考えた場合、明らかに威力がおかしい。
その点にいち早く気付いたのは、東京校の優等生コンビである夏油と直哉だった。
「あの威力 どう考えても おかしない? 何かカラクリ ありそうやけど」
「コンセプトとして謳っていたぐらいだ。何か縛りを設けているのかもしれないね」
「縛りなあ……もし次黄色 動いたら 一個候補は あるかもしれん」
「お、流石だね。じゃあここは少し相手の出方を伺うべきかな?」
などと2人がヒソヒソと相談をする中、灰原の駆る『飛龍』がブッピガァン! ドヒャア! と豪快な効果音と共にブースターを噴射し燃え盛る炎の中から飛び出して、ガクガンジャー達を薙ぎ払う様に横薙ぎに大太刀を振るう。
その一撃に対し応戦したのは、直哉の予測通り、黄色のガクガンジャー。彼が電子トランペットを吹き鳴らし、ジャズロックの風情を感じさせる烈しいサウンドを奏でれば、呪力を流し込まれた大地が隆起し大太刀の一撃を食い止める。
その威力は明らかに先程の火炎放射より強化されており、何とそのまま飛龍の大太刀を半ばからへし折ってしまう程。
「お、直哉の予想通り黄色が動いたね」
「おそらくは 五行思想と ちゃうやろか。戦隊の 姿自体が 欺瞞やね。
そう告げた直哉の声を耳聡く拾うのは、京都校のパイロットである坂田あずき。
「流石はナオ様! ここまで早くバレるなんてね! そう、ガクガンジャーは五行思想の概念を盛り込んだ5人戦隊! でもそれがわかっただけじゃ、ガクガンジャーには勝てないよ!」
なんて告げたあずきの仕込みなのか、「バレちゃあ仕方ねえ」とでも言う様に和装の上着をガバリとはだけて、Tシャツに袴という楽巌寺学長のロックスタイルを真似たかの様な姿になったガクガンジャー達のシャツにデカデカと書かれているのは、直哉の指摘通り五行の『木火土金水』の文字。
だが、それより何より、東京校の面々には突っ込まねばならない事がある。
「「「「「いや、ナオ様って何?」」」」」
「いや知らん 何それ怖い なんやそれ」
そんな東京校メンバーに対し、坂田あずきが得意げに財布から取り出したるは、プラスチック系の輝きを帯びた、免許証の様なもの。
東京校の面々が目に呪力を込めてそのカードを見つめればそこに刻まれているのは『禪院直哉ファンクラブ No.00058』という脳が理解を拒みそうな文字列と、坂田の顔写真。その横に加入日と直哉が彼女を助けた日の日付が書き込まれ、一言コメント欄に「ナオ様しか勝たん♡」などというおかしな日本語が踊る。
そんなものを見せられた直哉は焦点の定まらない目で何処か遠くを見つめて硬直。脳が情報の処理を拒んでいるのが丸分かりなその状態に、2年組の五条、夏油、家入は腹を抱えて爆笑し、同級生の七海も流石に面白過ぎる状況に思わず笑いがこぼれてしまう。
そこに追い打ちをかける様に京都校の女子トリオの一員である渡辺
「————隙ありッ!」
「あっ!?」
と、そんな隙を坂田が逃す訳もなく、『金』のガクガンジャーがキーボードを奏でながら操る呪力を込めたワイヤー*5が『飛龍』の脚を絡め取り、そこに『水』のガクガンジャー豪快なドラムロールと共に超高出力のウォーターカッターをブチかました事で、咄嗟にそれを受けた『飛龍』の大太刀は今度こそ完全に破壊されてしまった。
「お、滅茶苦茶盤外戦術使って来たね京都校。でもまあ、今のは流石に引っかかる東京校の面々が悪い。ちなみに『禪院直哉ファンクラブ』は実在の組織で、私も会員証持ってるよ。ほらNo.00008。発起人は冥冥ちゃんで、会長であるNo.00001に直哉君の許嫁の真依ちゃん、副会長にNo.00002として真希ちゃんを据えて、No.00003の冥冥ちゃん自身は顧問をやってるみたいだね。会費は月に1000円で、冥冥ちゃんが術式で入手した直哉君のチェキが貰えたり会員専用のBBSがあったり……」
「ブゥワハハハハッ! 直哉も隅におけんな! ガハハハッ! ファーwww!」
なんて、審査員席の九十九が解説混じりにゴミの様な情報を聴衆に流し込み、禪院直毘人が大ウケする一幕も、さすがに露骨な不意打ちを受けた東京側からすると笑えない事態。
直哉が死に際*6に残したヒントを『やれば何でも出来る子』の五条悟が脳内で組み立て、端的な指示としてパイロットの灰原へと伝達する。
「灰原ッ! 火のガクガンジャーを狙え! コイツら、『五行相生順で行動する』縛りだけじゃなく、五行相剋順で『行動中の個体の属性に負ける属性の個体を超脆弱化する』縛りも組み込んでやがる!
「了解です! 『飛龍』ッ!」
『メ・イ・オー』
「立ち直りが早いッ! ガクガンジャー! ガンガン五行を回せ! 弱点を絞られない様に!」
などと吼える両校パイロットの指示に応じて躍動する式神達。その対決は、最大出力最大範囲の『メイオウ攻撃』を行った飛龍が、自分の周囲を広範囲にわたって『光の柱で押し潰した』事で一気に東京校の側に流れが戻るというかなりゴリ押しなもの。
「僕が咄嗟に細かく狙いを定めてアレコレ出来る訳ないよね! 五条先輩も『難しく考えるな』ってトコだけ大声で言ってたし!」
「ナイス灰原! 纏めて叩きつぶしゃ関係無えよな!」
「くっ、楽巌寺先生ッ!」
「東京校め、血も涙も無えよ!」
「よくも僕達の先生を……!」
「……碓氷先輩、卜部くん。本物の先生がめっちゃ睨んではるよ……?」
「「げ」」
などと盛り上がる学生達の表情は、両校共に『楽しげ』なもので。それを溜息混じりに眺める楽巌寺と夜蛾の表情にも、悪感情は含まれない。学生が学生らしく振る舞う光景を暖かく見守る彼らの眼差しは、呪術師でありながら同時に教育者でもある『高専教員』に相応しい穏やかな色を帯びている。
が、審査員席のパンクな縫い目の男、加茂憲嗣の目に浮かぶのは、それとは逆の、狂気を孕んだ様な喜悦の色。
「大技での形勢逆転か。正しい判断だとは思うし、呪霊相手ならかなり有効だろうね。生得術式とは無関係な式神としては、『飛龍』の強さは規格外と言っていい。グラウンドの大半を押し潰す威力と範囲は、一級術師相当の出力といっても過言では無い。……だけど、ガクガンジャーは咄嗟に火のガクガンジャーを他の個体が庇った事で、ボロボロながらに全機健在。五行思想の搭載は素直に面白いし、強力だ。……それに、盤外戦術まで使って時間を稼いだ京都校が、『何も仕込んでいない』とは私には思えないな」
そう告げて『ワクワク』という期待の色を満面に浮かべた彼の眼前で、期待に応える様に拳を振り上げるのは、京都校のパイロット、坂田あずき。
「①『ガクガンジャーの五行相生が一巡している』、②『ガクガンジャーが全機稼働している』、③『エネルギー用の呪符が残り1枚である』、④『相手の式神が『必殺技』を使用した』、⑤『現在の形勢はガクガンジャーの不利である』!」
————条件クリア! ガクガンジャー、合体シークエンス『承認ッッッ!!!』
その直後、ガクガンジャーから登場時と同様の色とりどりの爆煙が噴き上がり、京都校を覆いつくさんばかりのその煙は、その場にいる全員から一切の視界を奪い去る。
京都校の一世一代の大勝負が、今ここに最終段階を迎えようとしていた。
作者「爺ちゃん、死にました」
的な虎杖くん風味の出来事があったので更新が遅れました。
しばらくドタバタするかも……!
あと不整脈で死に掛けたので呪力の核心も掴めたかもしれない。