噴き上がる五色の煙が地を覆い、日の光が遠く遮られる中でかろうじて煙の向こうに見えるのは、あまりに巨大な何かの影。
見上げる『飛龍』が小人に見えるようなその影はビル並みに大きく、それでいて人型というおよそ物理法則の限界を無視した超常存在。
どう考えても人間サイズのガクガンジャー5体が合体してそのサイズにはならないだろうと思うものもいるだろうが、そのタネは『ガクガンジャーはあくまで式神である』という点だ。
式神同士の融合というのは、往々にして元の式神の姿に囚われない変化を生じ得るのである。
「ふぅむ。禪院家相伝、十種影法術の資料で言うところの『渾』に近い存在か……?」
などと禪院直毘人が冷静に分析する中で、風で吹き流された煙の向こうから現れたのは金剛力士像と雷神を組み合わせた様な姿をした、超ムキムキの巨大楽巌寺学長。
身長50m、体重3000トン、出力1500万馬力*1というスペックを坂田あずきが声高に叫ぶその式神の名は『轟力合体グレートガクガンジャー』。
対象年齢は四歳くらいかしら? と思ってしまう様なシンプルなネーミングだが、その姿は先述の通りあまり『戦隊ロボ』的ではない。
まず、背後に仏像の後光の如く浮かぶのは、雷神風味な連なった太鼓。屈強な腕で構える超巨大フライングVのネックには何故か鍵盤が組み込まれ、ヘッドにはペグの代わりにトランペットが6つ突き刺さって町内放送のスピーカー状態。ガクガンジャーの要素を一体に詰め込んだ感は出ているものの、そもそも機体自体がクソデカムキムキ楽巌寺学長な時点で何もかもが台無しである。
が、その上で、五条悟の卓越した眼力は、全く気がつく必要がない小ネタに気がついていた。
「傑! ハゲ頭がガラス張りになってちゃんと5人乗ってるぞあれ!」
「なんだって!?」
「いや、死ぬ程どうでも良いでしょその情報。というか五条、よく見えるなこの角度*2で」
などと東京校の2年生トリオがワイワイと騒いでいる通り、グレートガクガンジャーの頭部にはちゃんとガクガンジャーが搭乗しているのである。
だが、そんなしょうもない現実逃避を五条がしているのは、その六眼が捉えたグレートガクガンジャーのスペックが故。
「いやでもスゲェよ。戦闘自体を日曜朝のアニメみたいにして、様式化された『儀式』に見立てるってのは素直に頭良いわ京都校。演武とか神事相撲みたいな感じで、かつ『楽』も交えてるし、五行思想を組み込む事で儀式の複雑さや手間もかなりのモンになる。本命の式神を呼び出す儀式をする為の式神……ガクガンジャーって式神自体が入れ子構造だったって訳ね」
「随分と高評価だね悟。————勝てそうにないかい?」
「灰原と『飛龍』には悪いけどちょっとな。流石にもう、『誰が見ても』わかるだろ?」
そう告げた五条が指差すその先で、ジミ・ヘンドリックスよろしくギターを高々と振り上げた轟力合体グレートガクガンジャーから噴き上がるのは超高出力の呪力の奔流。
どう考えても瞬間出力で言えば特級相当。手間暇を掛けて用意した『1発限りの超火力』なのだろうと誰もに確信させるその凄まじいエネルギーは、おおよそ『飛龍』に搭載された機能でどうにかこうにかなるものではない。
だが、しかし。
「だからって、諦める理由にはならないよね! 『飛龍』! 分離して『
そう吼えた灰原雄の雄叫びに応え、嵐のような呪力の渦を身に纏ったグレートガクガンジャーに向け果敢に飛翔する『飛龍』はドヒャァ! とブースターを吹かしながら下半身を分離。足を揃えてブースターを全開にしたその下半身パーツがミサイルの様にグレートガクガンジャーの胸板へと炸裂し、その上半身がド派手な爆炎に包まれる。
実を言えば『飛龍』の上下分割可能な身体の内、『準一級呪霊から抽出した光の柱の術式』を搭載していたのは下半身パーツ。
その下半身をミサイルとして使い『術式の放棄』を組み込んだ捨て身の突撃の威力は、相手が並の式神であれば余裕で瞬殺可能なもの。
合体前のガクガンジャーであれば容易く討ち取れただろう圧倒的な破壊力は、呪術高専京都校の上空に大きなキノコ雲を発生させ、周囲の山林から鳥達が泡を喰ったように慌てて逃げ出す程だ。
しかし。今やガクガンジャーは轟力合体を遂げ、巨大なグレートガクガンジャーになっているわけで。
「うーん、残念! ヒゲと眉毛がアフロになっただけかぁ……『飛龍』出力最大で『防御結界』だ! こうなったらガクガンジャーの必殺技を受け止めて生き残るしかない!」
そう灰原が腹を括るしかない程に、グレートガクガンジャーは健在。爆炎の中でも微動だにしないその巨躯はいよいよその身に帯びた強大な呪力を掲げたフライングVへと流し込み、必殺の一撃を結界を纏って必死に宙を逃げる『飛龍』へと叩き込む!
「その意気や良し! でもだからこそ手は抜かないよ! グレートガクガンジャー! 轟力招来!
直後、振り下ろされた一撃は、凄まじい呪力の爆発で以って飛龍を跡形も無く消し飛ばし、京都校のグラウンドに深く巨大なクレーターを刻み込む。
そんな破壊の爆心地で、胸を張って仁王立ちするグレートガクガンジャーの姿を見れば、その勝敗は誰の目にも明らかだった。
「————此度の式神対決は、京都校の勝利とする。夜蛾も異存ないな?」
そう告げる楽巌寺に対し、目頭を抑えて生徒を思う夜蛾が首肯を返した事で、この日の式神対決は無事、京都校の勝利によって終幕したのであった。