「すまんなぁ お待たせしてて。堪忍や」
「いや、構わないよ? でも大丈夫かい? 張り付かれてるけど」
「なおやがゔわぎじだぁああぁぁあぁ」
「真依ちゃんな ええ加減にな 離れてや。浮気やないし 失礼やろが。九十九さん 俺の彼女と ちゃうねんで? めっちゃ好みの 美人やけども」
「ア゛ッー!」
「どないしよ。余計に悪化 したんやが……真希ちゃんも 足蹴らんでや なんなんよ。2人とも どうした急に。反抗期? クソめんどいわ 堪忍してや」
「まぁまぁ……可愛い乙女心じゃないか。まだ待つから大丈夫大丈夫。ところで、お煎餅1人で食べきっちゃったけど大丈夫だった?」
「どうせ俺 喰われへんしな 米の菓子。 後で胡桃の 炒ったん食うわ。……それよりも この子らちょっと 寝かせるわ いつもこんなん ちゃうんやけどな」
そうボヤく直哉の表情は心底から嫌そうで、にも関わらず優しげな言葉*1と共に双子を連れて行くその姿は、歳の離れた兄の様にも見えてしまう。
実に屈折していて、それ故に強い。そんな禪院直哉の在り方が、その一幕に現れていた。
* * * * * *
「……やっと寝た。疲れ果てとる みたいやね」
「両手に花で羨ましいじゃないか、直哉くん」
「煽っとる? 不本意やねん ガキの世話……俺はロリコン 趣味やないねん」
「まぁ、ボンキュッボンじゃなくて『すとんぽよんぷりん』だもんね?」
「ホンマにな。10年以上 早いねん。せめて16 超えてからやで」
「今の直哉くんより歳上だね、それだと」
「お姉さん 好き言うたやん 今更か? ……それより話 再開しよか」
「ああ、そうだね。7つ目からかな?」
「『嘗胆』か これも中々 キツいわな。呪霊の残穢 喰う縛りやし」
「前に聞いた時にも言った気はするけれど、普通死ぬよね、それ」
「そうやなぁ。『苦行』無しやと 死ぬやろね。呪力が増える だけのことある」
「物品を呪具や呪物にする際の『浴』に近いんだろうけど、それを人体でやるのはマジで自殺行為だ。……私の理想を叶える手段の1つ『人類を全員術師にする』に使うにはちょっと無理がありすぎる。残念だけどね」
「まぁ、せやね。一般人に 喰わせても 呪霊の毒で 死ぬだけやろな。どうせなら 呪物の方が ワンチャンス あるんとちゃうか? 受肉ガチャやね」
「ニッコニコじゃないか。無理とわかって言ってるだろそれ」
「冗談や。……そしたら次は 『貞節』か。これが一番 ポピュラーちゃうか?」
「確かに、操をたてるタイプの縛りは古めの呪術家系では普通に聞く話だね。多くの場合では女性を縛る事が多いけど」
「まぁせやね。正直これは 地味なんよ。呪力回復 早よなるだけで。次行こか? 俺がオナニー できん愚痴 セクハラになる だけやでホンマ」
「まぁ、そこは別日にイジろうかな」
「酷いなぁ 逆セクハラも 違法やで? ……九つ目 『詰腹』やけど これはまぁ 負けてもうたら 腹召すだけや」
「急に重いな……それは殺し合い限定?」
「いや別に。ジャンケンしても 有効や」
「クソ重いじゃん! え、ジャンケン負けたら死ぬの君!?」
「そうやない、腹切るだけや 切った後 傷治しても 問題ないで」
「いや、反転使えばそりゃ治るだろうけどさ。それでも切腹は痛いなんてもんじゃないでしょ……」
「この前な スマブラしたら 死に掛けた」
「なんでその縛り抱えて格ゲーしようと思ったのかな君は???」
「クソガキが 泣き喚くから しゃあなしや。俺もホンマは やりたないねん。メテオでな ハメよ思ても 縛りでな 指が固まる ホンマ糞やわ」
「なるほど、『紳士』との噛み合わせで……この1年、よく生きてたね、直哉くん」
「ホンマにな。ガキと相性 悪いねん。扇のジジイ いつかシメるわ」
「なるほど。……それで、最後の縛りは?」
「『契闊』や。意味は『努力の 苦しみ』な。縛りの遵守 鍛錬の義務。そういうん 慣れてまうやん? その内に。俺は慣れへん ずっと苦しい」
「うわぁ」
「一応な、俺そのものが 強なると 痛みや負荷は マシになるねん。メンタルの 方が慣れへん だけやねん」
「充分以上にキツイでしょそれ……見返りは」
「縛りのな 恩恵強化 されとるわ。10種の縛り 以外も含め」
「君の現状と噛み合ってシンプルに強い訳だ。なるほど。……おや?」
「ちくしょ〜……アチィと思ったんだがな。ツイてねぇ。おい直哉、10万貸し……誰だオマエ」
「待ち人来たり、かな?」
「甚爾君。お客さんやで、九十九さん。特級術師。君に用事や」
「俺に? 面倒くせぇのはゴメンだが……」
「いや何、ちょっとお話でもってね。私は九十九由基。呪術界の根本治療の為に君の力を借りたい。もちろん、タダとは言わないさ。そうだね……5億とかどうだい? サマージャンボ1回分だよ?」
「オイオイ、えらく気前がいいな。……まぁ、話ぐらいは聞いてやっても良いが、内容次第じゃ断らせてもらう」
「もちろん。じゃあ最初の質問なんだけど……」
————伏黒甚爾、君はどんな女がタイプかな?
————忘れたな。死人の顔は覚えねェタチだ。