坂田あずき。禪院直哉ファンクラブ会員だったり、京都校の頼れる姉貴分だったりといった等身大の18歳な人柄で知られる一級術師。
そんな経歴が主に知られる彼女だが、呪術界に旧くから居る者たちであれば、彼女の家系である『坂田家』を知らぬ者はいないだろう。
本来は、公家である『
そんな彼が、『別人』として生きるべく名乗った『坂田金時』の名が、後にその活躍から非術師の世で『金太郎伝説』へと変化した、といえば彼の術師としての強さが窺えるだろう。
そんな『坂田金時』から代々継承されている、坂田家の相伝術式は『
欠点としては、結局は肉体強化でしかない為、術式をいくら使いこなしたところで『滅茶苦茶怪力な術師』にしかならないところだろうか。
平安の世には相撲特化型の術師も居たとの記録はあるが、それにしたってまぁシンプルな術式ではある。
そんな術式を持つ坂田金時が、なぜ歴史に名を残すほどの術師なのか。
それは坂田家に稀に産まれる『特異体質』と『迅軀呪法』が噛み合った際に生じる超強力なコンボによる完全な『才能の巡り合わせ』によるものだ。
その『特異体質』こそが、『電気の性質を持つ呪力』。肉体を電気的に刺激して通常の『迅軀呪法』以上に活性化させるのみならず、一挙手一投足に高圧電流を纏う脳筋ゴリラというあまりにも最強すぎる存在が、坂田金時であり、坂田あずきなのである。
逆にその電気の性質ゆえに昨年カマイタチの呪霊に敗北しかけた*1のだが、それでも3体中1体はフィジカルだけでブチ殺したのだから、彼女は決して弱くはないのである。
まぁ、そんなピンチの際に自身より強くて速くて格好良い*2直哉が助けに来た事で彼の追っかけになったりしたので、あずきの人生的にはカマイタチの一件は結果的に『良い思い出』になっているのだが。
閑話休題。さて、そんな彼女が別件でこなした一級呪霊の討伐任務の直後、顔見知りである七海と灰原が危機に陥ったという急報を聞いておっとり刀で馳せ参じたのは、直哉への恩返しという面も大きい。
だが、それ以上に大きいのは、彼女の呪術師としての自負によるものだった。
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え。帳もこれで良し。呪霊の結界で非術師には認識されてなかったけど、一応ね。ところで————呪霊に言っても仕方ないけど、私の目と手が届く範囲で可愛い後輩を殺せると思わない事ね」
帳の展開を終え、地面をゴロゴロと転がっていく呪霊にそう啖呵を切る通り、あずきにとって後輩は守り育てる大切なもの。その守護こそが、彼女が己に課した精神的な指標なのだ。
と、ちょっとカッコよく決めたあずきだが、そんな彼女に肝心の後輩こと七海から、鋭い指摘が入る。
「坂田先輩! その呪霊は再生能力が高い! まだ生きていますッ!」
「なるほど。確かに思いっきり踏んで蹴ったけど消失反応がないね。もう一回蹴り飛ばそうか————! 『
そんな裂帛の気合と共に、少し先の地面でもがく呪霊をサッカーボールキックで本当に川の対岸の山肌まで『呪霊を蹴り飛ばした』あずきの膂力は、思わず七海と灰原が目を丸く見開き、ポカンと口を開けるほどのもの。
「坂田先輩、去年の対抗戦普通にやっても強かったんじゃ……?」
「いやー、私五条くんの無下限にも直哉君の投射呪法にも相性不利だし、単騎戦力だから夏油くんの呪霊操術との噛み合いも良くないしで全然無理だと思うよ?」
「暗に私と灰原は倒せると言っているようなものでは? いやまぁ、事実そうなのでしょうが。……ともかく、助かりました。坂田先輩」
「良いってことよ! じゃあ、今の隙にあの呪霊の特徴聞いても良いかな」
「じ、邪視の術式、毒の息、鬼の姿通りの膂力、極めて高い再生能力です……」
「お、簡潔にありがとう。えーっと……」
「新入生の伊地知くんです!」
「そっか。ありがとね伊地知くん。……よし、じゃあ目は私が潰そう。そしたら息に気をつけつつ七海くんと私で袋叩き! 伊地知くんと灰原くんはバックアップよろしく!」
「了解です」
「了解!」
「わ、分かりました」
と簡潔に話を纏めたその直後、あずきは一言、注意を放つ。
「じゃあ、次に大きな音が鳴るまでちょっと目を閉じてて。アイツの目を光で潰すからさ」
そう言われて、素直に3人が目を閉じたのを確認し、駆け出したあずきはダメージから立ち直っていない牛鬼へと突貫しつつ、その全身から強烈な『雷光』を発生させる。
呪力を帯びた強烈な光源が勢いよく突っ込んでくるその事態に堪らず目を閉じた牛鬼の頭部へと盛大な飛び蹴りを叩き込んだあずきは、そのまま電熱で牛鬼の頭を焼き、真実目を『潰す』。
その直後、合図である飛び蹴りの轟音と同時に駆け出した七海が、渾身の呪力を込めた一撃を、牛鬼の上から3、下から7の位置にある心臓部へとブチ込んだ。
あとは、上下泣き別れとなったその身体を、七海が微塵切り、あずきが電熱焼却という手法でそれぞれ叩きのめせば、流石の呪霊も命脈が尽きたのか、消失反応と共に黒いチリと化して消えていく。
かくして、どう考えても一級以上な呪霊が巣食っていた和歌山山中の事態は、山林の土砂災害という建前でその被害を誤魔化しつつ、無事に解決したのであった。