特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第82話

 高専の呪術師達が忙しく駆け回り、慌ただしく過ごしている夏の頃。

 

 星漿体抹殺計画の失敗から一年が経過し、それでいて棚ぼた的に天元の状態が望み通りの進化段階に至ったことですっかり星漿体に興味を失った『Q』の首魁『ウェッセン』は現在、地下のアジトで楽しい研究&暗躍生活を過ごしていた。

 

「七海建人と灰原雄の謀殺は不発か〜。禪院直哉か夏油傑あたりに精神負荷を掛けられれば儲け物だったけれど、まあ良いや。去年の京都校壊滅計画もダメだったし、これはアレかな、ツキがあっちに回ってきてる気はするね。まぁでも現代の呪術師が呪力の可能性を見せてくれるならソレはソレで面白いよね!」

 

 などと、一人暮らしが長いもの特有の誰に言うでもない独り言を呟くウェッセンが、現在手掛けているのはビッツとは別口の『人造人間』の製造。

 

 彼が長年掛けて進めてきた大計画にして大儀式『死滅回游』。理想的には『天元を進化させて日本の土地と同化させる』、『どうにかして呪霊操術をゲット』、『厳選した『魂に干渉する呪霊』をゲット』、『魂に干渉する呪霊を呪霊操術で操って一気に呪物の受肉と術師の覚醒を行う』、『死滅回游発動』という手順を想定していたのだが、この案は現代の呪霊操術使いである『夏油傑』が想定以上に強くなり、その上この時代の六眼とマブダチという点から『呪霊操術』路線を棄却。

 

 その代案として取り組んでいるのが、今現在開発中の人造人間『 輪偶(リング)』なのだ。

 

「式神対決の時にチラッと見に行っただけだけど、夜蛾正道が最近作った『パンダ』、あの発想は良いよね。相性のいい魂の情報を複数搭載して完全自立型呪骸を生み出すその手腕は恐れ入る。……じゃあソレを、人間でやっちゃえば、『器』をいちいち探し回らないで済むよね。呪物から抽出した魂の情報を複製し、安定する組み合わせを探して、胎児の中に流し込む。その上で呪物を植え付けて、時限式で受肉する様に仕込めば良いわけだ。……もう植え付けちゃった呪物は回収が面倒だから良いとして……ああでも『天使』を高専に回収されたのは面倒かもね……いやまぁどうせ敵対するだろうし今更かな? それより宿儺の新しい器も用意しないとね。悠仁は『檻』として強すぎるから一気に受肉体を解き放つ新プランだと使い勝手悪いし……何か変なもの拾い食いしてるしね〜」

 

 などと言いつつ、培養液に浮かんだ大量の胎児を前にアレコレと儀式を行う『ウェッセン』。その縫い目がある額には、目標に向けて前向きに邁進する者に特有の、爽やかな労働の汗が流れているのだった。

 

 

 * * * * * *

 

 

 所変わって、呪術高専東京校。

 

 なんだかんだで一年以上面倒を見ている教え子達が出払って暇な伏黒甚爾と、彼がなし崩し的に世話をしている子供達は現在、利用者が居ないのを良いことに高専のグラウンドを伸び伸びと使って呪術の修行を行っていた。

 

「父さん、走り込み多くねぇか……?」

「つべこべ言うんじゃねえよ恵、なんだかんだで結局最後には馬力とスタミナがものを言うんだよ。特にオメーは式神使い。本体狙えば1発で勝てるってのはどんなバカでも考えつく基本のキだ。鍛えて損はねえ」

「じゃあ 魔虚羅(まこら)の輪っかを出しっぱなしにしろってのは何でだよ……?」

魔虚羅(まこら)は森羅万象に適応出来るだろ? で、直哉のやつが禪院の忌庫から引っ張り出してきた『取説』によれば適応の為の経験値は術師本人が代わりに積むことも出来るらしい。じゃ、常に適応し続けるに越したことはねえ。現にお前がこうして走ってる間もたまにガコガコ*1言ってんだろうが」

「じゃあ、玉犬を出してるのは何で!」

「式神の並列操縦は式神使いの基本だ。わかったらつべこべ言わずに走れ〜、真希に周回遅れにされてんぞ!」

「真希姉に勝てるわけねえだろ!」

「諦めんな、オメーには呪力があんだろうが、腹に気合い入れろよ」

「んぎぎぎぎ……!」

 

 なんて親子の微笑ましい(?)会話を挟みつつ、基礎トレの走り込みを全員でバテバテになるまでやった後は、ヘロヘロの状態で甚爾の監督の元『円陣掛かり稽古』*2を順繰りに実施していく。

 

 そんな中、まず初めに中央に立つのは、非術師代表、伏黒津美紀。将来設計として補助監督を目指しているらしい彼女が訓練に参加しているのは意外かもしれないが、一応津美紀を相手取る際には『呪力の使用禁止、体術だけで対抗』というルールがある為、彼女の場合はシンプルに武術鍛錬となっている。

 

「発勁が甘い! 脚、腰、背、肩、腕の連動を意識しろ!」

「はい! ヤァ!」

「うぐっ!」

「恵は恵でちゃんと捌けよ。津美紀の詠春拳はちょっとサマになって来てっから、下手に受けると痛えぞ」

「もう痛えよ!」

 

 なんて、姉弟喧嘩にしては本格的な子供同士の拳闘*3の後は義理の従兄弟叔母というちょっと複雑な関係の真希・真依*4との連戦を経て、次のカードは昨年加入した子供組の新参である来栖華。

 

 これについては流石に一日の長がある津美紀が切り札の貼山靠*5を切って勝利したものの、流石に連戦でバテバテになっている彼女は、最後の相手を前に攻めあぐねていた。

 

「ふ、フワフワして手応えがないよぉ!」

「パンダはパンダだからな!」

 

 そう、何を隠そう今日から子供組に参加している、夜蛾さんちのパンダ君である。

 

「しかし、自律稼働の突然変異呪骸ねぇ……*6。……夜蛾のオッサンも面倒なモン作ってんな」

「えぇい!」

「うわぁ砂埃が! パンダを洗うのは大変なんだぞ!? マサミチが!」

「ぬいぐるみの丸洗いだもんね……良し、私の番終わり!」

「はいお疲れさん。次は恵な。 魔虚羅(まこら)は方陣だけ出しとけ。それ以外の式神は好きにしろ。で、津美紀は見学な。代わりに俺が入るから恵以外も覚悟しとけよ」

「マジかよ、甚爾抜きなら楽勝だったのに」

真希(オマエ)がそう思ってそうだったから参加してやるんだ。嬉しいだろ?」

「児童虐待反対! DVオヤジ!」

「何処で覚えんだそんな言葉。つーか、俺は呪霊部屋にぶち込まれてエンドレスでやってたわこんなもん。充分優しいだろ? 名前通り恵まれてる環境に感謝しろよ恵」

 

 などという甚爾の発言に子供たちが露骨に嫌そうにする中で、続行された『術師』と『天与呪縛』の卵達の円陣掛かり稽古。

 

 その後、ざっくり2時間ほどかけて完了したその戦いは、子供達を着実に未来の戦力へと育てあげているのであった。

*1
体力、呪力の消耗に適応して燃費が改善されている

*2
円陣を組み、中央に1人を立たせて、周囲を囲む人間に総当たりで挑んでいく稽古。円陣側は防御練習、攻撃側は連戦の練習になる。当然ながら中央になると鬼の様にキツい。

*3
未就学児特有の『女子の方が屈強』な現象により津美紀が恵を組み伏せて勝利。

*4
こちらは流石に真希と真依が勝利。

*5
発勁を駆使して至近距離から肩甲骨を相手にブチかます八極拳の体当たり

*6
甚爾は完全なフィジカルギフテッドな影響で魂も感知できるため薄々パンダの状態を察している

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