季節は秋。交流戦が今年から個人戦、団体戦、式神勝負の3種目3日の日程となった関係で、開催日が体育の日*1を含めた三連休へとずれ込む事となり、9月いっぱいは割と自由な時間になっている呪術高専。
今年の式神対決はお題が決められており『身の丈3尺以内の式神』という縛りの元、両校が創意工夫を凝らしている。
が、今回は珍しく両校の学生が十分に多い*2事もあり『特級を除いた3年生以下*3』が参加対象となったことで、直哉はパーフェクトに暇な休暇を過ごしている状態であった。
まぁ偶に呪霊討伐の任務もあるが、その場合は夏油が『ポケモンゲットだぜ』*4とばかりに優先的に向かっており、その補佐と冷やかしにはマブダチの五条がくっついて行きがちなので、直哉までお鉢が回る例はまず無い。
故に、直哉はグンと羽を伸ばして自身の修行と弟子である真依の修行の世話を行なっていたのだが……。
そんな彼の携帯電話に、五条からの緊急連絡が飛び込んできたのは、その直後の事だった。
* * * * * *
「なんやねん ガキを拾った だけかいな。……その集落は どないしたんや?」
「傑がパニクってたから俺が普通に児童への集団虐待で警察呼んだ。で、俺の保護者って事でウチの表の家の繋がりで県議会議員から警察にお電話して任意聴取を後日に回して今ココ」
「なるほどな 非術師守る 義務感が クズの所業で 萎えとる訳か」
「傑は真面目過ぎんだよマジで。呪術師も非術師も結構クズまみれだろ」
「うーん、頭じゃ分かっていたんだけれどね。やはり実例を見ると心が凹むというか……。私達こんなクズも護らなきゃいけないんだなぁ……的な気分にね」
「呪霊から 護るいうんは そうやけど 官憲からは 護らんでええ。それだけや シンプルやんか 夏油君」
「まぁそうだね。確かに悟が通報したら、普通に村人全員ハイエース仕様のパトカーで連れて行かれたし……呪術の絡まない違法行為は法で裁くしか無いか」
「そうそう。呪術規定でも、呪術関連以外で術師に超法規的権限は認めてないしな。今回みたいにお巡りさん呼んじまえば良いんだよ。俺らは呪霊と呪詛師の専門業者なんだから、警察の仕事までやる必要はねえっての」
なんて、ナイーブな気持ちになっている夏油を宥める係としてお声が掛かった直哉が居るのは、呪術高専のカフェテリア。
聞けば、地図にも載っていないような山中の集落で起きた呪霊騒ぎの下手人*5として術師の才能を持つ双子の少女が槍玉に挙げられ、座敷牢で虐待を受けていたとの事で、根っこが真面目君な夏油傑にはなかなかキツい場面だったらしい。
が、幸い冷やかしとワープ担当でくっついて行っていた五条が警察を召喚し、村人を全員お縄にかけて一件落着と相成った為、夏油のメンタル以外は問題なく事態は収束している。
問題の双子についても現在、家入による治療が行われており、順当に行けば『来栖華』と同様に高専で保護する形となるだろう。
強いて言うなら、問題になりそうなのは当該の双子が第一発見者の夏油と五条に甚く懐いている事ぐらいだろうか。
甚爾も『そのガキは流石に俺に関係ねえだろ』と素気無く断りを入れて来たので、このまま行けば夏油か五条が世話を見る事になりそうだが……。
「私、一人っ子だし、女の子の世話とかした事ないんだよね」
「んなもん俺もねえわ。つうか、今のウチの在校生だと灰原と直哉ぐらいだろ兄弟いるの」
「ガキンチョを さらに増やせて 言われても 甚爾君にも 俺自身にも これ以上 余裕は無いで 限界や」
「だよねぇ……育児かぁ……」
などと、事件そのものの悩みは先の会話で振り切ったのか、育児という新たな問題に思い悩む夏油傑。
そんな中、ふと閃いたように五条が「あ!」と目を輝かせて叫んだ事で、夏油と直哉は『何を考え付いたのかは判らないが絶対に面倒な事を閃いたぞコイツ』とイヤな確信を抱くのだった。
* * * * * *
「なるほど。それでしたら確かにお力になれるかもしれませんね! 理子様共々、皆さんにはお世話になっていますし、是非協力させてください!」
「な? 良い事思いついただろ?」
「ホンマやね 黒井さんなら 理子ちゃんの 世話してはるし 適任やんか」
「しかし、美里さんも食堂業務がある訳だし、忙しいんじゃ……」
「そうでもありませんよ? 此処は教師の方を含めても食堂利用者は20人も居ませんから、基本的に暇なんです。子供達のお世話ぐらいなら全く問題ありません!」
と、頼もしい事を述べるのは、黒井美里。昨年の星漿体周りの諸々を経て高専の食堂スタッフに腰を落ち着けた彼女は、確かにこの件に関しては最適解と言える人材だった。
が、ニヤニヤとキモい笑みを浮かべる五条にとっては、本命は子供の世話では無いらしい。
「なー直哉。今傑のやつ美里さんって呼んだよなー」
「今更か? 夏油君から アプローチ しまくっとるし そのせいちゃうん?」
「ふーん。つまりは傑パパと美里ママな訳かー? もしかして俺ファインプレーなんじゃねー?」
「……悟君 棒読みやんか さっきから。大根役者 過ぎるんちゃうか」
「マジ? ……いやー、だって焦れってえじゃん傑。この一年掛けてデートもクソもねえんだぞこの真面目クン。最初は俺もそっとしとこうと思ったんだけどさ。流石にもう我慢の限界だわ。とっととくっ付けよマジで」
「悟? 馬の代わりに蹴ってあげるから表に出ようか?」
「邪魔してねえだろ恋路の。むしろ傑がケツ蹴られてくれば? 塩顔イケメンにかまけて年上の彼女をキープするのは一種の犯罪だろ」
「確かにな 黒井さんなら 今時分 友人とかの 結婚ラッシュ 始まって 焦り始める 時期やんな」
「……まぁそれは、はい。ですが、傑さんはまだ17歳ですし……」
「これは豆知識なんだけど、婚約に年齢制限は無いんだよ傑」
などと、グイグイ押しまくる五条と、内心『おもろいやんけ』とゲスの野次馬根性を発揮しつつ五条の援護射撃を行う直哉、そして大人の女性の強かさで『一歩引きつつもやんわり直哉や五条の意見に同意する雰囲気を出している』黒井。
完璧に包囲網を敷かれてしまった夏油はその後、珍しく顔を真っ赤にしながらも、半分ヤケクソで黒井に結婚を前提にした交際を申し込むことになる。
それに対する回答が肯定だったのは、もはや言うまでも無いだろう。
そして、特級スケベトリオの三十路前髪こと夏油傑が、一生三十路前髪として擦られることが決定したのもまた、言うまでも無い事である。