特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第85話

「百斂ッ! からの、穿血ッ!」

『いいぞ悠仁! 血を失う感覚を恐れるな! 俺たち兄弟は呪力で血を補える!』

『まだ『凄い水鉄砲』的な感じではありますが、なかなか悠仁の赤血操術も様になってきましたね』

 

 などと、生得領域内で修行に励むのは、ひょんな事からフリーの呪術師になってしまった虎杖悠仁くん4歳と、彼の押し掛けお兄ちゃんである呪胎九相図の一行。

 

 人目を避けるべく、特級呪物である九相図達によって内面世界として構築された生得領域の内側で1年間呪術の修行をしっかりと積んでいる悠仁は、実戦こそ街中にいる低級呪霊をこっそり始末する程度に留まっているものの、年齢からするとあり得ないほどに優秀な呪術師へと成長していた。

 

 中でも、彼にとっての明確な強みとなるのがその身に9体もの特級呪物を宿している事による、『複数の術式の使用』と、『生まれ持った規格外の身体能力』。

 

 特に多重術式については呪術界広しと言えども悠仁以外にはまずあり得ない特異能力であり、相手の意表を突いた一手を打てるという呪術戦において強力無比な性能を誇っている。

 

 まぁ、その内実は、割とよく似た術式の集積というのが実情なのだが。

 

「えっと、兄ちゃん達の術式って、結局何個だっけ? 今は脹相兄ちゃんの赤血操術に絞って練習してるけど、もう少ししたら他の兄ちゃん達の術式も練習するんだよな?」

『そうですね。休憩がてらおさらいしましょうか。まず、私と血塗の術式は『蝕爛腐術』です』

『俺たちは術式がお揃いなんだぜ! 良いだろ!』

『脹相兄さんに近い程、術式が赤血操術に近い物に、遠くなる程呪霊の術式に近くなるのが私達兄弟の特徴とも言えますからね。私と血塗が同じ術式なのもその辺りの関係かもしれません。さて蝕爛腐術ですが術式としては、血液の操作と、自身の血液に『分解』の性質を持たせるというものですね』

 

 そう言うと同時に、指先から血を出して見事な薔薇の造花を作って見せる壊相の卓越した腕前に素直に拍手を送る兄弟達という絵面は大変ほのぼのしているが、今壊相が述べた通りその性質は凶悪そのもの。血液に触れたものを腐蝕し腐爛させるその術式効果もさることながら、九相図とそれを取り込んだ悠仁に共通する『とある性質』が、その性能を跳ね上げている。

 

 まず一つは、『呪力を幾らでも血液に変換出来る』という失血死とは無縁の体質。そして次に『呪霊と人の混血児』である九相図とその受肉体である悠仁の血液が『人間に対して猛毒である』という体質。そして最後に、『赤血操術の使い手である脹相と虎杖の血は呪霊にとっても猛毒である』という体質。

 

 要するに、人間だろうと呪霊だろうと、悠仁の血を体内に撃ち込まれたものは猛毒に蝕まれ、その上で蝕爛腐術や赤血操術による攻撃も受けてしまうのである。

 

 流石特級呪物、という他ない凶悪すぎる性能が、悠仁を齢4つにして『未登録の特級呪術師』と称して余りある実力者へと仕立て上げているのだ。

 

 だが、悠仁が持ち得る術式は、これだけではない。

 

『次ハ俺ノ 白血貪術(はっけつどんじゅつ)ダナ。大量ノ白血球ヲ産ミ出ス『膿』ノ術式ダ』

 

 そう告げて、膿爛が説明するのは『白血貪術』。白血球に限定した赤血操術の様な印象を受ける名称だが、その効果は白血球の増産及び操作と、特殊な白血球により『呪力を喰らう』こと。白血球がバイ菌を喰って膿になる様に、呪力を喰らう『膿』を操るその術式は、術式頼りの相手には覿面に有用な物となる。

 

 まぁ、喰らった呪力を還元できたりはせず、ただただ相手の呪力を喰って膿にしてしまうだけではあるのだが、自身に掛けられた呪いの場合、体内で呪いを白血球に喰わせて無効化出来るという、防御面ではかなり頼もしい術式になっている。

 

 例えば仮に悠仁が加茂憲倫に赤血操術で攻撃されたとしても、体内に入り込んだ相手の血を膿に変えて無効化してしまえるのだ。

 

『さて此処からはお兄ちゃんが紹介しよう。次は青瘀の『 屍肢簇(ししむら)』だな。呪力で肉を操る術式だ。基本的には自分の肉体を変形させたり、一時的に筋肉を肥大させたりといった使い方になる。並の人間なら無理に筋肉を増やしても血が足りなくなるんだが、俺達の体質なら関係ない。血は幾らでも増やせるからな。あとは、無理矢理だが傷を肉で埋めて強引に治したりも出来る』

 

 そう紹介された青瘀がお手本の様に自身の肉体をバンプアップさせてみせるが、緑色の肌のムキムキ多眼ゾンビといったその風体はどう見てもアメコミの敵キャラである。

 

 が、悠仁には存外ウケが良く、「すげぇ! ハルクじゃん!」と好評だった。

 

 そんな弟の反応に心温まりつつ、次に紹介されるのは蛆の塊の様な怪人、噉相の術式だ。

 

『噉相の『蠱螫飼(こどくし)』は自分の肉体から肉蛆の式神を産み出す術式だ。蛆は小さいが敵に齧り付いてその体内に潜り込み、血肉を喰らって蝿に羽化して増殖する。1匹1匹はとても弱いが、大量に使えばかなり強力だろう。体内に反転術式を使われると1発で吹き飛ぶのが難点だが……まぁ呪霊相手なら関係ない。自分の血肉を餌にすれば、初めから蝿として羽化した状態で出すことも出来る。蝿は小さいから偵察にも便利かもしれないな』

 

 そう紹介された噉相からは、確かに際限なくウジが湧き出ているように見えるが、不思議とその総量が変化している様には思えない。「そういえばどうなってんの?」と素直に訊く悠仁にウゾウゾと身振り手振りで噉相が示すところによれば、共食いで良い感じにバランスが取れているらしい。

 

『次は散相の『散身逸躰(さんみいったい)』か。肉体を切り離して操る術式だ。悠仁の見ていたアニメでざっくり言うと、ロケットパンチが打てる。ただ、この術式は切り離して操るだけで『くっ付ける』事はできないんだ。この術式の本格的な練習は反転術式を覚えてからだな。一応、鬼太郎の髪の毛針の様に髪を使えばある程度安全に使えるんだが……』

「ハゲるじゃん」

『ああ、ハゲる。散相本人が使う分には、散相の腐肉は無尽蔵だから便利なんだが……それはそれで腐肉だから脆いのが弱点になる』

「でも鬼太郎の毛針はちょっと憧れるよなー。今度散髪の時にやっても良い?」

『まぁ練習は大切ですし、良いのでは? 髪以外だと爪も伸ばしておいて使うのは便利かもしれません』

 

 などと、散相の散身逸躰への考察を行なっていた面々だが、次に紹介されるのを心待ちにしているらしい骨相がカタカタギシギシと言い始めた事で、話は自然と其方に移る。

 

『骨相の『奮骨彩身(ふんこつさいしん)』は自身の骨を呪力で強化して操る術式だ。骨を新たに生やしたりも出来る。シンプルだが使い勝手は良い術式だぞ。例えば、骨が折れてもすぐに修復できるし、骨格の強化はそのまま防御力に直結するからな。体外に『外骨格』を作ることも出来る』

「NARUTOの君麻呂みたいなもん?」

『概ね近いですが、流石にあのレベルで術式を行使するのは文字通り骨が折れると思いますよ? ……骨相、「俺の持ちネタなのに!」的な事を言いたいのは分かりますが、わざわざ顎の骨を落としてまでショックを表現しなくても良いのでは……? *1

『骨相は血塗と並んで俺達のムードメーカーだからな。自負があるんだ、わかってやれ壊相。……最後は焼相だな。術式は『屍脂焚塵(ししふんじん)』。火の粉と灰と黒煙と煤と硫黄が混じった、『屍が燃える匂い』の息を無尽蔵に吐き出せる術式だ。こと遁走や撹乱に関しては一番便利かもしれないな。反面、攻撃力は相手が凄まじく燃えやすい服*2でも着ていない限りはほぼない。対人なら咳き込んだり目潰しになったりはするだろうが、呪霊には目眩し程度だと思っておくべきだろうな。……膿爛から焼相までの弟達は、つい最近まで死んでいたんだ。だから、術式の練度は正直に言って悠仁とそう変わらない。逆にいえば、伸び代はきっとある。なぜなら、お前達は俺の自慢の弟なんだから……!』

『また始まっちゃったなー兄者の変なスイッチが』

『いつもの事ですね。まぁ私達はこの世にたった10人の兄弟ですから、兄さんの気持ちも良く分かります』

『マァ、伸ビ代ハ脹相兄サンノ言ウ通リマダ有ルダロウナ。脹相兄サント壊相兄サン以外ハマダ 極ノ番ヤ奥義ヲ使エナイ訳ダシ』

「極ノ番って、確か術式の最終奥義ってやつだっけ? ……アレ? 血塗兄ちゃんは使えないの? 血塗兄ちゃんはずっと長生きしてたんだろ?」

『兄者達は150年間真面目に術式の研究やってたけど、俺はもし外に出たら何しようかなとか考えてたから、ちょっとサボってたぜ!』

「あ、なるほど。凄く納得したわ」

『だろ? でも確かに俺も翅王(しおう)使えたらカッコいいかもなぁ。壊相兄者の翅王カッコいいし……修行頑張るか悠仁!』

「おう! 俺も頑張る! シオウってのは見た事ねえけど!」

『またいずれ見せてあげますよ。……さて、休憩はそろそろ良いでしょう。悠仁はもう一度私達と修行ですよ。青瘀、噉相、散相、骨相、焼相は日本語の発話練習、膿爛と血塗は弟達の勉強を見てあげてください』

「おう!」

『任せろ兄者!』

 

 そんな会話と共に、再び生得領域で行われる赤血操術の修練。

 

 かくして虎杖悠仁と言う少年の実力は、眠る度、夜を経る度に夢の中で確実に成長していくのだった。

 

*1
骨相は無数の骨が組み重なったゴツい骸骨の姿をしている

*2
フリースなど

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