「百斂ッ! からの、穿血ッ!」
『いいぞ悠仁! 血を失う感覚を恐れるな! 俺たち兄弟は呪力で血を補える!』
『まだ『凄い水鉄砲』的な感じではありますが、なかなか悠仁の赤血操術も様になってきましたね』
などと、生得領域内で修行に励むのは、ひょんな事からフリーの呪術師になってしまった虎杖悠仁くん4歳と、彼の押し掛けお兄ちゃんである呪胎九相図の一行。
人目を避けるべく、特級呪物である九相図達によって内面世界として構築された生得領域の内側で1年間呪術の修行をしっかりと積んでいる悠仁は、実戦こそ街中にいる低級呪霊をこっそり始末する程度に留まっているものの、年齢からするとあり得ないほどに優秀な呪術師へと成長していた。
中でも、彼にとっての明確な強みとなるのがその身に9体もの特級呪物を宿している事による、『複数の術式の使用』と、『生まれ持った規格外の身体能力』。
特に多重術式については呪術界広しと言えども悠仁以外にはまずあり得ない特異能力であり、相手の意表を突いた一手を打てるという呪術戦において強力無比な性能を誇っている。
まぁ、その内実は、割とよく似た術式の集積というのが実情なのだが。
「えっと、兄ちゃん達の術式って、結局何個だっけ? 今は脹相兄ちゃんの赤血操術に絞って練習してるけど、もう少ししたら他の兄ちゃん達の術式も練習するんだよな?」
『そうですね。休憩がてらおさらいしましょうか。まず、私と血塗の術式は『蝕爛腐術』です』
『俺たちは術式がお揃いなんだぜ! 良いだろ!』
『脹相兄さんに近い程、術式が赤血操術に近い物に、遠くなる程呪霊の術式に近くなるのが私達兄弟の特徴とも言えますからね。私と血塗が同じ術式なのもその辺りの関係かもしれません。さて蝕爛腐術ですが術式としては、血液の操作と、自身の血液に『分解』の性質を持たせるというものですね』
そう言うと同時に、指先から血を出して見事な薔薇の造花を作って見せる壊相の卓越した腕前に素直に拍手を送る兄弟達という絵面は大変ほのぼのしているが、今壊相が述べた通りその性質は凶悪そのもの。血液に触れたものを腐蝕し腐爛させるその術式効果もさることながら、九相図とそれを取り込んだ悠仁に共通する『とある性質』が、その性能を跳ね上げている。
まず一つは、『呪力を幾らでも血液に変換出来る』という失血死とは無縁の体質。そして次に『呪霊と人の混血児』である九相図とその受肉体である悠仁の血液が『人間に対して猛毒である』という体質。そして最後に、『赤血操術の使い手である脹相と虎杖の血は呪霊にとっても猛毒である』という体質。
要するに、人間だろうと呪霊だろうと、悠仁の血を体内に撃ち込まれたものは猛毒に蝕まれ、その上で蝕爛腐術や赤血操術による攻撃も受けてしまうのである。
流石特級呪物、という他ない凶悪すぎる性能が、悠仁を齢4つにして『未登録の特級呪術師』と称して余りある実力者へと仕立て上げているのだ。
だが、悠仁が持ち得る術式は、これだけではない。
『次ハ俺ノ
そう告げて、膿爛が説明するのは『白血貪術』。白血球に限定した赤血操術の様な印象を受ける名称だが、その効果は白血球の増産及び操作と、特殊な白血球により『呪力を喰らう』こと。白血球がバイ菌を喰って膿になる様に、呪力を喰らう『膿』を操るその術式は、術式頼りの相手には覿面に有用な物となる。
まぁ、喰らった呪力を還元できたりはせず、ただただ相手の呪力を喰って膿にしてしまうだけではあるのだが、自身に掛けられた呪いの場合、体内で呪いを白血球に喰わせて無効化出来るという、防御面ではかなり頼もしい術式になっている。
例えば仮に悠仁が加茂憲倫に赤血操術で攻撃されたとしても、体内に入り込んだ相手の血を膿に変えて無効化してしまえるのだ。
『さて此処からはお兄ちゃんが紹介しよう。次は青瘀の『
そう紹介された青瘀がお手本の様に自身の肉体をバンプアップさせてみせるが、緑色の肌のムキムキ多眼ゾンビといったその風体はどう見てもアメコミの敵キャラである。
が、悠仁には存外ウケが良く、「すげぇ! ハルクじゃん!」と好評だった。
そんな弟の反応に心温まりつつ、次に紹介されるのは蛆の塊の様な怪人、噉相の術式だ。
『噉相の『
そう紹介された噉相からは、確かに際限なくウジが湧き出ているように見えるが、不思議とその総量が変化している様には思えない。「そういえばどうなってんの?」と素直に訊く悠仁にウゾウゾと身振り手振りで噉相が示すところによれば、共食いで良い感じにバランスが取れているらしい。
『次は散相の『
「ハゲるじゃん」
『ああ、ハゲる。散相本人が使う分には、散相の腐肉は無尽蔵だから便利なんだが……それはそれで腐肉だから脆いのが弱点になる』
「でも鬼太郎の毛針はちょっと憧れるよなー。今度散髪の時にやっても良い?」
『まぁ練習は大切ですし、良いのでは? 髪以外だと爪も伸ばしておいて使うのは便利かもしれません』
などと、散相の散身逸躰への考察を行なっていた面々だが、次に紹介されるのを心待ちにしているらしい骨相がカタカタギシギシと言い始めた事で、話は自然と其方に移る。
『骨相の『
「NARUTOの君麻呂みたいなもん?」
『概ね近いですが、流石にあのレベルで術式を行使するのは文字通り骨が折れると思いますよ? ……骨相、「俺の持ちネタなのに!」的な事を言いたいのは分かりますが、わざわざ顎の骨を落としてまでショックを表現しなくても良いのでは……? *1』
『骨相は血塗と並んで俺達のムードメーカーだからな。自負があるんだ、わかってやれ壊相。……最後は焼相だな。術式は『
『また始まっちゃったなー兄者の変なスイッチが』
『いつもの事ですね。まぁ私達はこの世にたった10人の兄弟ですから、兄さんの気持ちも良く分かります』
『マァ、伸ビ代ハ脹相兄サンノ言ウ通リマダ有ルダロウナ。脹相兄サント壊相兄サン以外ハマダ 極ノ番ヤ奥義ヲ使エナイ訳ダシ』
「極ノ番って、確か術式の最終奥義ってやつだっけ? ……アレ? 血塗兄ちゃんは使えないの? 血塗兄ちゃんはずっと長生きしてたんだろ?」
『兄者達は150年間真面目に術式の研究やってたけど、俺はもし外に出たら何しようかなとか考えてたから、ちょっとサボってたぜ!』
「あ、なるほど。凄く納得したわ」
『だろ? でも確かに俺も
「おう! 俺も頑張る! シオウってのは見た事ねえけど!」
『またいずれ見せてあげますよ。……さて、休憩はそろそろ良いでしょう。悠仁はもう一度私達と修行ですよ。青瘀、噉相、散相、骨相、焼相は日本語の発話練習、膿爛と血塗は弟達の勉強を見てあげてください』
「おう!」
『任せろ兄者!』
そんな会話と共に、再び生得領域で行われる赤血操術の修練。
かくして虎杖悠仁と言う少年の実力は、眠る度、夜を経る度に夢の中で確実に成長していくのだった。