特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第86話

 どうも、秋も半ばの10月になっていよいよ本格的に暇しとる直哉君や。

 

 同期の連中と後輩の伊地知君は今週末*1に迫る交流戦の為の修行と式神の準備、甚爾君は『ディープ*2が居なくなった今こそ競馬がアツい! タキオン*3のダスカ*4か、ギムレット*5のウオッカか……秋華賞*6までにどの女が良いか見極めねえとな! というわけで俺は忙しい。用事は後にしろ』とかなんとか言って暇さえあれば競馬やら牧場やらに行っとるから捕まらん。

 

 9月中は真依ちゃん弄って遊んどったけど、ピルムの構築も投擲も大分サマになって来とるから暫くは基礎練と呪霊狩りでの実践でええやろし……ちゅうか、真依ちゃんやら真希ちゃんの練習台に使うせいで、雑魚呪霊共をしばき回して暇潰しとも行かんのが厄介やね。

 

 ほな呪詛師でもボコボコにして遊ぼか、と思うても、悲しいかな悟君と傑君のせい*7で呪詛師どもはモグラ宜しく地下でひっそり怯えて暮らしとるから中々捕まらん。

 

 ちゅうわけで、雑魚を一方的にボコボコにして遊ぶことも出来ん、やる事もない、授業は楽勝*8。人生に張り合いが欲しいなぁと思うには俺はまだ若過ぎると思うんやけどね? 

 

 縛りさえなかったら、繁華街で乳のでっかいアホそうな女引っ掛けて遊ぶんやけどなぁ……。

 

 ちゅうか禪院の同年代で童貞なん俺だけなんやろうなあもう。この前帰ったら蘭太にも女中ついとったし、兄さんらは雑魚の癖にしょっちゅうパコパコハメとるし。

 

 なんや思い悩んどったら余計にストレス溜まって来たなホンマ。

 

 はぁ……しゃあない、こういう時は————。

 

 

 * * * * * *

 

 

 呪術高専東京校。その広大な敷地の一角にある野外訓練場*9で戦うのは、 八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)と、禪院直哉。

 

 モンスターハンターポータブル2ndと引き換えに恵にあっさり売られた 魔虚羅(まこら)は何処と無く気怠そうだが、一応主人に忠実なのか、文句は言わずに『直哉のスパーリング相手』としての勤めを果たしている。

 

 事前に恵から『直哉の殺害は禁止。瀕死まではOK』と言い渡されている以外はフリースタイルな 魔虚羅(まこら)に対し、投射呪法を全開にして襲い掛かる直哉の速度は、まさに疾風迅雷。

 

 日々の鍛錬で肉体を鍛え上げ、呪霊を喰らって呪力を高め続けている直哉の肉体は基礎スペックからして人間を超えており、最近は投射呪法を抜きにしても、呪力強化だけで直毘人並みの速さを出せる領域に達している。

 

 そんな彼が、術式を全力使用した際の速度は容易に音速を超え、最近では直哉の代名詞になっている『黒閃』の発生頻度も上々。

 

 そんなとんでもない威力の拳撃をボコボコと撃ち込まれている 魔虚羅(まこら)はしかし、幾度かの適応を経て、『自身も超音速で動く』『動体視力を強化して常に直哉を捉える』『簡易領域を展開し直哉の攻撃を自動迎撃する』という各種の適応能力で直哉の攻撃を捌き始めている。

 

 そうなれば、徐々に不利になるのは直哉の方。己への対抗策を次々に生み出していく 魔虚羅(まこら)に対し、逆に『直哉が適応しなければならない』状況へと追い込まれ始めた直哉はしかし、『それこそが目的』だと言わんばかりの凶悪な笑みを浮かべている。

 

 禪院直哉という男は、ガワは縛りで似非紳士、中身は生来のドブカスという二重構造を持つ。そしてそれ故に『ドブカス部分が本質』であると、直哉自身すら思い込んでいるのだが、その本質はむしろ『強さに真摯で貪欲な求道者』という『ガワ』の方に近いもの。

 

 故にこそ、『越えるべき壁』を前にした時、直哉のボルテージは最大限に上昇する。

 

 逆に相手を超えるべき壁ではなく『格下のゴミ』と侮っていた場合はあっさり不意を突かれかねないのだが、今回の相手は禪院家が誇る最終兵器、 八握剣(やつかのつるぎ) 異戒神将(いかいしんしょう) 魔虚羅(まこら)。その性能を知るが故に直哉に慢心はなく、だからこそ純粋に己の限界に挑む死闘を愉しむ事ができている。

 

 ————拳闘はもう通じんか? どれだけ高速でブチかましても捌いてきよるし、カウンターも置く様になってきとる。

 

 ————そしたら次は。

 

 と、一度距離を取った直哉が選択するのは、純粋な呪力による砲撃。『かめはめ波』のポーズをとった直哉の両腕を砲身として放たれる圧縮された呪力の奔流は、極めてシンプルな力の塊であるが故に、高威力。その直撃を受けた魔虚羅(まこら)の巨躯が大きく吹き飛ばされ、直哉の前方の地面が轍の様に一直線に抉られる。

 

「恵君 将来多分 君俺に 頭上がらん 様になるやろ。————切り札を 鍛えてもろた 恩とかで」

 

 ————まぁ予想通り景気ようガコガコ言うて再生しとるな。何に適応した? 呪力か? まぁええ、もう1発撃って探る! 

 

 そんな思索の直後放たれた直哉の第二撃。初撃同様に無防備にそれを喰らうノーガード戦法な 魔虚羅(まこら)はしかし、大口を開けて直哉の呪力を『呑み込む』と、反撃とばかりに自身も口から呪力砲を放射する。それに対し、直哉が反射的に選択したのは『落花の情』による最小限での自動迎撃。

 

 自身を包み込む呪力の膜により砲撃の威力を全自動で捌き切った直哉は、今し方の 魔虚羅(まこら)の技を『呪力の吸収と砲撃能力の獲得』というざっくりとしたものであると仮定し、次なる戦術へと舵を切る。

 

「幻燈に 映る一夜の 影法師————術式起動・第四乃壁。此処からは 本気やからな 目隠しや」

 

 そう告げる直哉の次なる一手は、周辺被害を抑える為に結界まで張る必要がある大技。

 

 それ即ち。

 

「 極ノ番 術式起動————」

 

————紺輝覇顕(ブルーレイ)

 

 紺碧の極光と黒い稲妻を伴う、超スピードの体当たり。全身で黒閃を発生させながらのその一撃は、散々殴られて物理耐性を強化した筈の 魔虚羅(まこら)が全力で歯を食いしばりながら方陣を回転させ、適応と再生を繰り返しながらも後退を強いられる超絶火力。

 

 第一宇宙速度で敵に突っ込む無茶苦茶なその技は、人類史上最強の爆弾であるツァーリ・ボンバに換算して150万発分というふざけたエネルギーを 魔虚羅(まこら)へと叩き込み、その巨体を断熱圧縮した大気で焼き焦がす。

 

 だが、 魔虚羅(まこら)もさるもの。

 

  魔虚羅(まこら)の適応能力は一回切りのものではなく、一度受けた攻撃については永遠に解析を続行し、常に最適化を図っている。結果、 魔虚羅(まこら)はかつて受けた禪院扇の『焦眉之赳』への対策として獲得した火炎耐性を絶えず強化し続けていた事で、青く輝くプラズマの熱を耐え抜き、その後に直撃する直哉のタックルすらも、物理攻撃への適応で以って受け切って見せたのだ。

 

 直哉の結界が一撃で吹き飛び、周囲一帯が荒野と化す程の一撃ですら、 魔虚羅(まこら)を完全に打倒するには至らない。

 

 その事実は直哉に『己の伸び代』を自覚させ、『もっと上へ』というその渇望が、直哉の脳を高速で回転させて、更なる破壊力を己に要求する。

 

紺輝覇顕(ブルーレイ) だけやと技に 無駄が出る。周辺を 壊す火力を 一点に————」

 

 などと呟きながら、呪力を練る直哉に対し、反撃とばかりに 魔虚羅(まこら)は直哉の攻撃を捌く過程で得た超スピードで襲い掛かり、猛打連撃の雨霰を直哉へと浴びせていく。

 

 その猛撃に対し、直哉の対応は同じく猛撃。頭の中で紺輝覇顕(ブルーレイ)の強化法を考えながら、投射呪法のコマを打ち、 魔虚羅(まこら)の攻撃に適切なカウンターを返していくその処理能力は流石は特級という他ない。

 

 これは反転で脳を絶えず回復し続けるという五条同様の超絶技巧が為せる技であり、並大抵の事ではない。そこまでしなければ対応出来ない 魔虚羅(まこら)もまた、恵が僅か4歳で特級に認定された原因だけの事はあると言えるだろう。

 

 そんな超越者同士の応酬の中で、直哉が完成させたのは、新たな形での紺輝覇顕(ブルーレイ)

 

 助走を小さく、日頃の鍛錬で鍛え上げた勁を意識して、打ち放つのは貼山靠。足、脚、腰、背、肩への連動を別個にコマ打ちする事で『コマ打ちの重ね掛けによる超加速』を強引に発生させるその技は、肉体に極端な負荷を掛ける酷く危険な荒技だ。

 

 だがしかし、土壇場の一発で成功させたその一撃は、確かに直哉の肩に紺碧の極光を生み出して、 魔虚羅(まこら)の腹を強かに打ち付ける。

 

 引き換えに、直哉の肩甲骨はド派手に粉砕骨折したが、そんなものは反転術式で治せばいい話。日々の苦行と切腹で直哉の痛みへの耐性は特級術師で随一であり、肩甲骨が爆散した程度では思考にも呪力の巡りにも一切の乱れを生じない。

 

 そして同時にその脳髄はこの現状から先程のコマ打ちの問題点を洗い出し、流石に貼山靠では『勁』の伝達経路が短過ぎたが故に強引な加速が肉体を粉砕させたと結論づける。

 

 その結果として考案されるのは、先程の肩までの伝達から更に先、腕、拳への伝達を組み込んだ全7段階のコマ打ちによる加速。

 

 即ち、『腰の入った正拳突き』。閃きから即座に実行されたその一撃は、直哉の拳に目論み通り紺碧の極光を纏わせ、先の貼山靠の衝撃から姿勢を立て直そうとしていた 魔虚羅(まこら)へと黒閃を伴い突き刺さる。

 

 度重なるダメージ*10により 魔虚羅(まこら)の外皮は絹より柔らかく鋼鉄より強靭な二律背反した性質を帯びているが、その外皮をも撃ち抜く強烈なストレートパンチは、 魔虚羅(まこら)が嘔吐するという珍しい現象を引き起こす。

 

 が、そんな強烈な一撃ですら、 魔虚羅(まこら)の方陣がガコンと廻れば綺麗さっぱり修復され、同時に 魔虚羅(まこら)は3発も喰らった『紺輝覇顕(ブルーレイ)』へと適応する。

 

 その結果繰り出されるのは、奇しくも直哉と同じ、腰の入ったストレートパンチ。直哉同様に7段階で勁を通した拳は断熱圧縮で赤熱する音速の一撃となり、そんなものを強かに打ち込まれた直哉は、ドラゴンボールよろしく派手に吹っ飛び地面にクレーターを作る。

 

 が、その全身から蒸気を噴き上げながら反転術式による即座の再生を行い、今の一撃でボロ布と化した着流しを腰蓑のように巻いて立ち上がってくるあたり、直哉の再生力も大概化け物じみている。というか、ファッションも相まって 魔虚羅(まこら)同士のミラーマッチと言っても一瞬信じそうなレベルだ。

 

 そして、直哉もまた先の 魔虚羅(まこら)の一撃で音速パンチを客観的に観測した事で自身の『コマ打ち』を微修正及び最適化し、奇しくも 魔虚羅(まこら)と直哉は同時に同じ結論へと至る。

 

 ————デンプシーロールの技術を用いれば、先の一撃は連打し得る。

 

 その気づきを得た彼等は、紺碧と紅蓮の輝きを拳に乗せながら怒濤の如き猛烈なインファイトの応酬を開始し、その余波で大地は捲れ上がり、もはや周囲の風景に原型は無くなっている。

 

 が、流石の直哉も、その後方陣を3度ほど回転させ、打撃に対する完全耐性と拳の輝きが紅蓮から白熱へと昇華する程のスピードとパワーを得た 魔虚羅(まこら)には屈する事となり、全ての呪力を吐き出し切って一敗地に塗れてしまう。

 

 そして同時に『瀕死まで』と主人に厳命されていた 魔虚羅(まこら)もまた戦闘を停止し、『生かしておかないといけない相手が死にそう』という状況に適応して反転術式のアウトプットを会得したりしつつ、今回のド派手なスパーリングはお開きと相成った。

 

 

 なお、その後の後片付けを直哉に手伝わされた 魔虚羅(まこら)が土木工事にちょっと適応したりしたのは、完全に余談である。

*1
10月6日〜8日

*2
ディープインパクト

*3
アグネスタキオン

*4
ダイワスカーレット

*5
タニノギムレット

*6
10月14日開催

*7
直哉は2人に責任転嫁しているが、当然ながら直哉のせいでもある。

*8
直哉は他人より点が悪いのがムカつくのでキッチリ勉強は予習復習をするタイプ

*9
とは名ばかりの野原だが、天元の結界が張られており周辺被害が抑えられる様になっている

*10
主にちびっこの鍛錬でジッと静かに的となることが多かったので、適応の経験としてはそれがメイン。

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