時は巡り、2008年春。新年度を迎え、入学式のシーズンとなった呪術高専には、変革の時期が訪れていた。
まず、代表的なのが東京校に設けられた「附属小学校」「附属中学校」の存在。表向きの宗教法人主体の学校という点からも世間に受け入れられやすいこの『設定』は、主に東京校固有の事情によるのものだ。
というのも、東京校は現在『校内に生徒より幼児が多い』という異常事態になっており、ついでに言えば真希、真依、津美紀は今年から小学校に通うべき年齢。
だが、無論目的はそれだけではなく『呪術界の深刻な人手不足を鑑みて、より広く一般に術師を蒐集するべし』という議決が五条家・禪院家の連名によってなされ、特級3名*1を擁する両家の圧に屈した加茂家もコレを承認した事で、窓や術師の手によって保護された『素質のある子供』の受け入れ先として、設けられたというちゃんとした理由も、当然のように存在している。
ちなみに、附属中学校からの進学先は東京・京都を自由に選択できるようになっており、生徒の事情と両校学長の意向*2で各校へと割り振られる事になる。
そんな出来立てホヤホヤの附属小学校に入学する面々には、九十九由基の推薦と、予想外な事に術師家系からの進学希望があった*32人の少年の名があった。
「アレ、そう言えば幸吉と会った事あるの私ぐらいか?」
「ああ。真希は姉弟子で紹介されたから知ってる。他の奴は初めましてだな。俺は与幸吉。宜しく」
「初めまして、伏黒津美紀です。宜しくね!」
「初めまして。禪院真依よ」
「パンダはパンダだ!」
「で、初めて見る顔のお前は……」
「しゃけ。つなまよ。すじこ」
「お、おう。……寿司ネタか? パンダは寿司はハンバーグが好きだぞ」
「いや、おにぎりの具じゃないの?」
「単にオカズって事は……いや、ツナマヨがあるから違うか?」
「よくわからないわね。でも多分直哉と似た様な感じで食べ物でしか喋れない縛りでもあるんでしょ? 宜しく、おにぎり君」
「しゃけしゃけ*4」
「じゃああだ名トゲピーだな」
「しそ!?」
「今のが『嘘!?』なのはわかった」
そう、呪術界のアウトロー家系*5こと狗巻家の狗巻棘と、与幸吉である。彼ら男子2名を加えた事で、男女比が半々*6となり、それなりにそれっぽくなった附属小学校。そんなクラスの担任を務めるのは、楽巌寺学長から『京都校への勧誘を頼んだぞ』と言い含められた、この乙女。
「はーい、ウチは入学式とか無いから速攻で朝の会始めるわよ! 私は担任の庵歌姫先生よ! 趣味はライオンズのテレビ中継を観ながらスーパードライで晩酌する事! 宜しくね!」
生徒より一層賑やかな庵歌姫先生が、この度呪術高専附属小学校へとやって来たのであった。
* * * * * *
一方、学校としては本体である呪術高専東京校。
こちらについても、今年度は一名の新入生を迎える事が出来ている。
「妾の入学じゃ! 喜ぶが良い!」
「いや、ずっと居たじゃん天内」
「居ただけじゃろ!? 正式に高専生になったんだから祝うぐらいしてよ!?」
「あはは、おめでとう理子ちゃん。しかし、よく入学が許されたね? 君結構厄ネタじゃない?」
「まぁ生存自体が俺ら特級術師4人*7の連名で保護を宣言されてるから見逃されてるだけだしな、天内。どういう風の吹き回しだ?」
なんて疑問を五条が述べる通り、呪術界の上層部からは『使命を放棄した星漿体』として疎まれている筈の天内理子が、高専生となるのはかなりの異常事態。
そんな異常事態を実現させたのが、五条でも夏油でもない以上、候補になるのは禪院直哉。だが、スッと視線を向けられた直哉は肩をすくめて『知らぬ存ぜぬ』と態度に示しており、彼自身も顎に手を当ててこの事態について考えているらしい。
当然だが、家入でもなければ七海や灰原でもなく、もし伊地知だったら凄いがそんな訳は絶対に無いわけで。
となれば……と一年生の教室で新入生の天内を囲む面々の脳裏に1人の女傑が浮かぶ中、タイミングを見計らったかの様に、彼女の声が響き渡る。
「やあお待たせ! 新任教師の九十九由基だよ! 今日から一年生の担任だから宜しく!」
「だよなぁ」
「ですよね」
「そうやろな 九十九さんしか 居らへんわ」
「おや、在校生が雁首揃えて待ってくれているとはね? 私の歓迎会でもしてくれるのかな?」
特級術師、九十九由基。
任務をサボりまくる事に定評のある彼女が高専の教師となることもまた、どう考えても異常事態。
ならば、この2つの異常事態には相関があると考えるのが自然であり————そして、その答え合わせは、他ならぬ九十九によって、即座に行われる事となる。
「……馬鹿な、いや、でも————お前、『妾』か!?」
「お、君が理子ちゃんかな? 正式に顔を合わせるのは初めましてだね。よろしく、『私』。私は九十九由基。元星漿体の特級術師。つまりは————君の先輩であり、君自身であり、そして今日からは君の師匠だ」
邂逅する2人の星漿体。
その出会いは、呪術高専を取り巻く星の巡りに、新たな因果の重力を生み出し始めていた。