特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第9話

 

 どうも、クソ忙しゅうてハゲそうな直哉くんやで。

 

 いやはや、やっぱり毎年毎年、この梅雨の時期は地獄やね。冬から春にかけての環境変化で悶々と積り積もった非術師(サル)どもの負の感情が、梅雨の長雨でいよいよ煮詰まって、呪霊がバカスカ産まれよる。

 

 まぁ、所詮は今年産まれたばかりの呪霊共。十把一絡げの雑魚が大多数で、俺の手に掛かればなんてことない相手が多い。

 

 ————けど。

 

 何事も、外れ値飛び値があるもんや。

 

「一級が 未帰還言うた? いつからや?」

「ええ。一昨日、桐生一級術師が呪霊の目撃情報があったトンネル内に入ったきり、連絡が途絶しまして……」

「微妙やな 外から姿、見えへんの?」

「はい。おそらくはトンネル内に展開された呪霊の生得領域の影響かと……」

「なるほどな。一級呪霊 やと思て 中に入って それっきりてか……未登録 それか新種の 特級か?」

「その可能性を高専としても考えまして、今回禪院特級にお願いを……」

「なるほどな。あとどれぐらい かかるんや?」

「それが、この先からは廃棄された旧国道でして、車で2時間強は掛かるかと……」

「遠いんか 道悪いんか どっちなん?」

「後者ですね。当該のトンネルはこの山の中腹にあるので、距離としては然程……」

「ほな走ろ。地図見せてぇな 覚えるわ。……普通に道なり 登るだけやね? 帳だけ 山全体に 掛けといて ちょっと此処から 走って行くわ」

「山全体……わ、分かりました。やれるだけやってみます」

「頼んだで ほなら暫く お別れや。夜にはならん つもりでおって」

「承知しました。お待ちしてます、禪院特級」

 

 なんて会話を補助監督と交わして、山に入ったんが1分前。そこから蛇行した山道を5kmほど登った俺の前に現れたんは、旧国道にある廃棄されたトンネルや。ちょうど補助監督が頑張ったんか、帷も降りて昼の山が夜になり、トンネルの中からほんのりと呪力を帯びた冷気が漏れ出して来よる。

 

「なるほどな。やっぱ領域 あるやんか。トンネルの先 異界やろうね。……めんどくさ、ちょっと真面目に やっとこか」

 

 手印を結び、総身に呪力を巡らせ、薄い呪力の膜を纏う。いわゆる『秘伝・落花の情』。膜に触れた術式や呪霊に問答無用で呪力の刃をブチ込むオートパリィみたいな小技や。領域に侵入した直後に『わからん殺し』を喰ろうたら堪らんからな。生得領域内は呪霊の庭や、領域展開並みに警戒しても損はない。

 

 そんな少々の警戒をしつつ、トンネルの中に入った俺は、生得領域の境界を抜け————無限に続きそうな、先の見えんトンネルの中に入り込んだ。

 

 振り返れば、後方にも無限のトンネル。『そういう系』か。そらなんちゃらいう一級も出られんやろな。存外、出られんだけでまだ生きとるんちゃうか? 

 

 なんて思うた矢先、後方から聞こえるんは、競馬場の馬蹄の音かと思うような、轟音の『足音』。

 

 ————前言撤回。こら死んどるわ、一級の奴。

 

 張り詰めさせた知覚と強化した視聴覚で感じるんは、足音が迫るたびに、後方のトンネルがドンドン短くなっとる気配。そうして、遠くに豆粒みたいに見え始めたんは、『高速で走るババア』の姿。

 

「流石にな アイツ一級 ちゃうやんな? 呪霊的にも 術師的にも」

 

 そんな冗談を溢してまうけど、連絡の絶えた一級は男。間違ってもババアやない。おそらくは、あのババアに追い越されて、トンネルごと虚無に飲まれたんやろ。

 

 夜のトンネル、抜かされたら死ぬ、高速のババア。これは流石に聞いたことある奴多いやろ。

 

「仮やけど 特級呪霊 思っとこ。『後神(うしろがみ)』 言うには走り 速いしな 『ターボババア』か 『マッハババア』か。……どっちやろ、地域によっちゃ 別の名か?」

 

 とか言うとる内に、ドンドン近づくババアと、消える後方のトンネル。おそらくこの無限のトンネルは『ババアに追いつかれたらトンネルごと消える』以外の一切の害が無いと言う『縛り』で無限の内部空間を維持しとるんやろね。ちゅうても、それは領域の話。あのババアに攻撃した際の反応がわからん以上、落花の情はキープやね。

 

 さて、追いつかれたら敵わんし、そろそろ走ろか。

 

 まずは様子見、『軽く走って』時速100kmくらいで行こかいな? *1

 

*1
ちなみにこの当時の人類最速記録は100m走9秒79=時速36.77km。もちろん非術師の世界での話ではあるが。

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