東京都立呪術高等専門学校附属小学校、略して呪術小。普通に小学校としての教育も行いつつ、放課後の部活動扱いでしっかり呪術の鍛錬も存在するこの学校には現在、禪院真希、禪院真依、伏黒津美紀、与幸吉、パンダ、狗巻棘の6人の児童が通っている。
そして、今は正に、彼ら児童が放課後の鍛錬として呪術の修行に励んでいる頃だった。
「必殺パンダパンチ!」
「……
「トゲピー、それ普通に悪口!」
「でもよぉパンダ。お前のパンチ今『ポフッ』っつったぞ。本気でやれよ、相手は動かないんだし」
「俺はまだ呪力強化とか苦手なの! つーか、それなら真希が手本見せてくれよ!」
「私は呪力ねえよそもそも。でもパンチなら————オラァッ!」
「うなぎ! ツナマヨ!」
「音がヤベェよ真希!? どう殴ったらそうなんの!? ズドムッ! って鳴ったぞ今!」
「確かに腰の入ったいいパンチだな、真希姐のは。同じ人間とは思えないレベルだ」
「お姉ちゃんは最近ドンドン人間辞めてきてるから」
「幸吉はともかく真依は貶してねぇかソレ。……大体、単に武術として見りゃ津美紀の方が綺麗だろ、パンチ」
「そうかな? 私のは真希ちゃんみたいに凄い音は出ないよ? ほら」
「いや津美紀、お前のドシュッって音もパンダは出せないぞ?」
「すぐき」
「津美紀ちゃんのパンチ、呪力でガードせずに受けると骨の奥まで痛いのよね。ガードしてもかなり痛いし」
「1人だけ完全にただの非術師な訳だし、ある意味一番強いのは伏黒かもしれないな……」
などと和気藹々と語り合う子ども達が、先程からサンドバッグにしているのは、グラウンドにちょこんと三角座りで座っている
そしてそんな
ちなみに
精々が、遠目に見た五条が『休日のお父さんみたいになってんな
そんな風にワチャワチャと群がってボコボコと
現にしっかりと庵先生も監督しているし、生徒が任務に出ていて手隙なのか夜蛾学長*4もパンダの様子を見に来ていたりもするのだ。
そんな中、ポツリと口を開くものが1人。
『アルビノエキス100個の調達が完了しました』
「お。おつかれ
そう、
つい先日、お小遣いを父親に要求したところ、『自分で稼げ』と言われて厳ついおじさん達*5と麻雀をさせられた恵は、非術師には認識できない
まぁ、元から恵を相手に遊戯王で遊んでいた為、秒読みではあったのだが、言語によるコミュニケーションが可能な式神という存在が呪術師達にそれなりの衝撃を与えたのは言わずもがなである。
が、喉元過ぎればなんとやら。今では
そんなおしゃべりまこーらがサンドバッグとモンハン周回をしている中、何度目かのフルスイング真依ちゃんメイスで
「そういえば歌姫先生、直哉はまだ帰ってこないの?」
「んー、結構手間取ってるらしいのよね。あの子達は五条と違って定期連絡をちゃんとくれるんだけど、ずっと『本日も呪霊も呪術師も見当たらず』だってさ。まぁ『無いものを探せ』って任務自体が難しいから仕方ないわねコレは。特に今回はおそらく呪術師が相手でしょ? 当たり前だけど、戦闘でもしてない限り呪術師の呪力はむしろ常人より洩れにくいからね。呪力を頼りに探すのも難しいのよ」
「そういうものなのね……まぁ、夫の帰りを静かに待つのも妻の役目かしら」
「たまに明治みたいな価値観出すわよね真依は。真希は現代っ子なのに」
「あら、私だって現代っ子よ?」
「そうなの?」
「直哉が帰って来たらちゃんと『お風呂にする? ご飯にする? それとも私?』って訊いてるもの」
「真依、残念だけどそのセリフ、ベタベタに昭和のやつ……」
なんて、ちょっとおしゃまな真依が語る通り、東京校から三年生達が任務の為に旅立って早くも1ヶ月。ガチで潜伏しているらしい『仙台のヌシ*7』を相手に影を踏むことすら出来ていない直哉達だが、仙台の家屋を一軒一軒張り込んでの地道な調査で呪霊を殲滅している術師を捜索している為、遅からず『推定特級』の呪術師を炙り出せる算段との事である。
その過程で不倫を発見したり、痴情のもつれで殺人が発生しそうなところを取り押さえたりといったハプニングに見舞われているらしいのがなかなか可哀想ではあるのだが……。
まぁこればかりは足で稼ぐより他に手段がないので、コラテラルダメージといったところだろう。
一方で、彼ら3名が調査の為に抜けた穴を埋めているのが五条と夏油なのだが、こちらの最強コンビは直哉達とは違って割と暇そうなのが実情だ。
何しろ、二級以下は問答無用で夏油が取り込める上に、特級など滅多に発生するものでもなく、一級は特級術師に手も足も出ない。五条のワープも相俟って完全に『作業』としてテキパキと呪霊を始末出来る彼らにとっては、むしろ待ちの時間の方が長いのである。
そして、そんな暇な時間に最強コンビが何をしているのかと言えば————。
「おーい、俺も混ぜてよ
「悟、幾ら担任が庵先輩でも授業の邪魔は良くないよ?」
「お前ら両方喧嘩売りに来てんの?」
「あはは、怒られてやんの。歌姫先輩、このバカに
「いや、硝子。そもそも恵くんに言いなさいよ私じゃなくて」
なんてやり取りの通り、意外にも彼らは真面目に術式の研鑽に励んでいるのだ。
「……コイツら、修行とかするキャラだったかしら」
「あはは、似合わね〜ですよね。コイツら2人とも修行して強くなった直哉にボコボコに負けたんで躍起になってるんですよ。バカでしょ」
「いやだって、嫌じゃん後輩に負けんの。連続マッハパンチとかしてくるキチガイでも後輩は後輩なんだし、先輩の後塵を拝してるべきでしょ?」
「3つ先輩のアタシに舐め腐った態度を取る奴のセリフじゃないでしょそれ……ってかマジ? 五条が負けたの?」
「なんか直哉が青く光ってボコボコにして、無限の防壁にハチャメチャに負荷が掛かって呪力切れで負けたんだって」
「普通は俺の自然回復分でオートガードと反転を回してるんだけどさ。アイツの攻撃重いとかいう次元超えてるから赤字が出んだよね……で、傑はまぁ直哉と相性悪いから領域戦になった瞬間詰むし」
「いつもは悟は私に*8、私は直哉に*9、直哉は悟に弱い*10筈だったんだけど、均衡が崩れたんだよね」
「へー。アンタらそんなジャンケンみたいになってたんだ。……じゃあ夏油は修行しなくても良いんじゃないの」
「いや、悟が強くなると今度は私が一人負けなのが目に見えてるじゃあないですか」
「ふぅん。なんつーか男も大変ねぇ」
そう告げて、溜息を一つ吐いた歌姫先生はヤレヤレといった調子で肩をすくめると、生徒を呼び寄せて五条の為に場所を譲ってやるのだった。