特級呪『縛』師 禪院直哉くん   作:黒山羊

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第94話

 歌姫の「特級術師が新技見せてくれるらしいわよー」という一声で 魔虚羅(まこら)をちびっ子達から譲って貰った五条悟。

 

 一応恵に確認を取ったところ、『別に良いけど』と快く貸し出された 魔虚羅(まこら)は、対直哉同様『相手を殺してはいけない。五条の訓練なので五条の言うことは可能な範囲で聞くこと』というルールだけを課された状態で五条の眼前に仁王立ちしており、油断なく総身に呪力を巡らせている。

 

 伏黒恵の誇る最強の式神にして、度重なる経験によって調伏後から比べると数万倍は強化されている 魔虚羅(まこら)は五条悟から見ても圧倒的な格上。

 

  魔虚羅(まこら)の本気の戦闘形態である『体内に(弱点)を格納する』形態になったが最後、残る特級4人が最高火力を最大出力でブチ込んでも確実な勝利が約束できないという強さの終極に位置する存在は、否応無しに五条悟に『挑戦者(チャレンジャー)』としての自覚を持たせ、人間と野に咲く花の区別も覚束無い生まれながらの最強から、その傲慢さを奪い取る。

 

 その上で、格上を倒すべく五条が引っ提げてきた新技は2つ。

 

魔虚羅(まこら)、まずは攻防の『攻』から試したいからさ、とりあえず一発は普通に受けてよ」

『了承。防御と解析を最優先に定義。不動の縛りを条件に防御結界、簡易領域、落花の情、 彌虚葛籠(いやこつづら)の並列展開を開始。展開完了しました』

魔虚羅(まこら)は相変わらずしれっと凄いこと*1してるよな。後でその四重防御もパクって良い? ……まぁ良いや、じゃあ一個め行くよ。『位相』『盈月(えいげつ)』『白日夢(はくじつむ)』 ————拡張術式『(しろ)』」

 

 そう呟いた直後、五条の周囲に展開した術式から放たれるのは、眩い白光を伴う超高速の呪力弾。

 

 直哉の超スピードに対抗すべく編み出されたこの技の仕組みは、いわゆる『多段式コイルガン』に近いものであり、呪力弾を小型かつ複数の『蒼』による吸引で超加速させて投射するシンプルな構造だ。

 

 数珠繋ぎになった蒼を砲身とするその発想は直哉の『発勁の各工程を加速の段階として利用する』という技に着想を得たものであり、有り体に言えばパクり。

 

 が、そこは天才かつ最強の呪術師五条悟。本気で技の開発に取り組んだ彼は多段加速で呪力弾を発射する一連の工程をモジュール化して『(しろ)』という拡張術式の形に嵌め込み、マニュアルで加速している直哉とは一味違う扱い易いオートマ術式として構築することに成功したのである。

 

「————てな感じで、俺の『(しろ)』は直哉の『残影(モーションブラー)*2より簡単に発動できて出が早くて高威力ってワケ。ついでに遠距離攻撃。どう?  魔虚羅(まこら)は両方喰らったから評価できるでしょ」

『評価開始。超近接戦闘(インファイト)では残影(モーションブラー)、それ以外の条件では(しろ)が有利と判断』

「あ、やっぱそんな感じ? ていうか、やっぱ 魔虚羅(まこら)は耐えるよねコレも。なんだかんだ言いつつコレ速度乗っただけの呪力砲だし」

『呪力による砲撃は定期的に回避不能な状態で被弾*3する為、現在千八百二十七万九千三百七十四回目の適応を実行中です。現在は体表に直撃した負の呪力に迎撃として同量同質の呪力を混合し、反転術式に変換して吸収しています』

「ひえ〜、インチキ。そりゃまあ、慶長のウチの当主も勝てないワケだ。呪力の性質変化とか人間には絶対ムリだし」

 

 なんて言いながらも『晧』を一点集中させてみたり、包囲して全面照射してみたりと 魔虚羅(まこら)の突破を試みる五条だが、 魔虚羅(まこら)は真実平気そうに耐えており、あろうことかある程度適応した段階で四重防御を解除して適応加速のためにあえてボディで受けるという合理の化身じみた適応能力を見せつけてくる。

 

「うーん。まだまだ研ぎ澄ませたいけど、とりあえずは悪くはなさそうかな。……じゃあ次行こうか。此処からは特に 魔虚羅(まこら)に動きの要求はないよ。俺がギブアップかギブって言うまでは俺の指示無視して良いから」

『了解しました。五条悟が次に「ギブアップ」または「ギブ」と述べるまでの間、術者からの『相手を殺してはいけない』のみを遵守し戦闘を実行します。周辺状況を認識、自己判断により戦闘対象は五条悟のみに限定。戦闘を開始します』

 

 そんな、機械的な発言の直後、夏油が気を利かせて見物席に結界を張り、それを確認した 魔虚羅(まこら)は五条悟に向け音速の壁を越えて突撃し、五条が周囲に張り巡らせた無下限術式を「五条悟と同質の呪力を拳に纏う」事で突破。直哉の『残影(モーションブラー)』のゴリ押し版とも言うべき赤熱する拳をその無防備な腹部に叩き込み————その直後、タンクローリーが石油タンクに突っ込んで爆発したかのような轟音が五条の腹部から鳴り響く。

 

「ひえー、死ぬ死ぬ。俺が防御する前提なんだろうけど、体表の無限で減衰されてギリ瀕死になるぐらいを見計らって殴ってるでしょコレ。いやまあ、新技で攻防を試したいって言ったのは俺だけどさ……で、俺が何したか分かる?」

『帰納法的推論を実行。無限の強度を持つ仮想的な『剛体』による防御と推測』

「正ッ解! さすがは計算オバケ。でも幾ら計算と適応ができても、この『(くろ)』をゴリ押しで突破するのは難しいんじゃない?」

 

 そう挑発する様に五条が掌から生み出し弄ぶのは、青黒い立方体。コレこそが、五条が自身の無下限術式を拡張して生み出した、物理学における仮想存在『剛体』である。定義としては『如何なる力を加えても変形しない物体』であり、五条はこの定義を『強度が無限の物体』と解釈して、この世に存在しない仮想物体を構築したのだ。ちなみに呪術的には無下限術式を組み込んで『剛体』にした結界なので『(こがね)』に近いものである。

 

 とはいえ、幾ら強度無限の『剛体』であっても、受けるエネルギーを無にすることは不可能だ。だが、五条はこの剛体に更なるアレンジを加える事で、無敵の防壁として運用することに成功している。

 

 仕組みは単純、『黝』の裏側に無限の防壁を貼って2枚張りにするだけ。要は、普段の無限バリアの外側を『黝』で鎧う事で『力こそパワー』とか言いがちな昨今のゴリラ呪術師達への対抗策としたのである。

 

「一応コレ以外に質量を無限にしてみる案も頑張ったんだけど、必要エネルギーも無限になっちゃう*4からコスパ最悪でさ。それなら普通にいつもの無限の外側に張ればいいじゃんってなったんだよね。で、この『黝』だけど……まぁ当たり前だけど、硬いだけじゃあないんだなコレが!」

 

 そう言うや否や、五条がその手を振るうと共に、 魔虚羅(まこら)の胴が袈裟斬りに斬られ、 魔虚羅(まこら)は慌てた様に距離を取ると、再生と適応を開始する。

 

 五条が振るったのは、カミソリの刃先より薄い厚み0.01μmの『黝』の剣。適当に鍔と持ち手をつけたそのデザインはどうみてもオモチャの剣だが、しかしその実態は強力無比。何しろ、刃毀れもしなければ重みもなく、幾ら薄くとも一切撓まないガチガチの刃なのである。どんな剣で切り結ぼうが、使い手の膂力さえあれば剣ごとぶった斬れるという理不尽極まる凶器が五条の生み出した『黝』の剣なのである。

 

 が、そこは 魔虚羅(まこら)。斬撃耐性自体はかなりの強さで保有しているため、斬られはしたものの平然と立っており、距離を取ったのも単に『黝』を警戒してのことである。

 

魔虚羅(まこら)には斬撃効かないけどさ、それ以外の連中には効果覿面でしょこの剣。我ながら最強の剣作っちゃったかな、とか思ったり」

『否定。現在までに受けた切断系武器攻撃において第3位の危険性と判断します』

「は? 1位じゃねえの?」

『上位2種は伏黒甚爾の所有する呪具*5です。詳細の伝達は禁止*6されています』

「あのゴリラ、まだそんな隠し球あんのかよ……」

『なお、物理攻撃に統計対象範囲を拡大した場合、伏黒甚爾による全力の飛び蹴りはその両者よりも強力です』

「えっ……怖……*7

 

 などと言葉を交わしつつ、ついでに剣戟と拳撃も交える 魔虚羅(まこら)と五条。直哉との戦いで押し負けたのを気にして開発した防御技の『黝』は相当練習してきたのか、籠手や鎧の形で『剛体』を生み出して見せる器用さを発揮した五条と 魔虚羅(まこら)の戦いは半ば千日手めいているが、そうなってくると有利なのはやはり 魔虚羅(まこら)。剛体を纏った五条を突破するべく、演算と適応を繰り返した 魔虚羅(まこら)はやがて、一つの『解』へと到達し、その成果を右腕の退魔の剣に載せて解き放つ。

 

 ————直後。

 

『黝』の鎧諸共に両太腿を切断された五条はバランスを崩してグラウンドへと盛大に転倒し、スプラッタな光景に子供達が『うわぁ痛そう』という反応を見せる。*8

 

 無論、甚爾に幻覚剤パンチでいじめられて以降、反転の精度を鍛え続けている五条は即座に両脚をニョキっと生やして立ち上がったものの、今度は退魔の剣の二振りで両腕を切り飛ばされ、大きな声で元気良く『ギブアップ!』と叫び、新品の両手をあげて降参した。

 

「いや〜参った。今の何?」

『術式対象を五条悟を含む4次元空間全体に拡張し空間ごと切断しました』

「なんて???」

魔虚羅(まこら)、あくうせつだん覚えたの!? パルキアじゃん!」

「何それ恵、俺知らないんだけど」

「ポケモン知らねえのかよ!」

「俺デジモン派なんだよ……」

「悟、デビルメイクライ4のスラッシュディメンジョンみたいなものじゃないかな?」

「あー……いやわかんねえよ傑の例えも」

 

 そう言って、首を捻る五条悟に対し、助けの手を差し伸べたのは他ならぬ 魔虚羅(まこら)だった。

 

『五条悟が理解可能な比喩表現を検索。……遊戯王で言えば通常の呪術や物理現象は『サイクロン』同様対象を取る効果です。しかし今回は『つり天井』の様に対象を取らない破壊効果を発動しました。結果、五条悟の呪術的防御を一切無視し空間ごと五条悟を切断しました』

「あー、わかる様な判らんような……要は切断という行為に関して術式対象を空間そのものに拡張したのか。で、空間がぶった斬られてるから、中にいる俺も諸共斬られたと。……シュレディンガーの猫を実験中に箱ごとぶった斬って殺すみたいな感じ? いや、コレも微妙に違うか…… 魔虚羅(まこら)、それまた後で見せてよ。裸眼で観るからさ」

『術者の許可が必要な要請であると判断します』

「マジ? 恵、 魔虚羅(まこら)に許可出してよ」

「WiiとスマブラX買ってくれたら良いよ」

「こら恵! またゲーム機ねだって!」

「うるせぇな。津美紀は関係ねぇだろ、俺の式神だし」

「お姉ちゃんなんだから関係大アリですぅ〜! もっと別のものにしなさい!」

「はぁ……だってさ。じゃあ遊戯王の話題出たし、遊戯王の最新パック*9ダンボール1箱分で良いよ」

「よし任せろ!」

 

 などと騒がしくなるグラウンドの面々。そんな中、ポツリと一言、家入が「五条の両手足(エクゾディアパーツ)回収するのやっぱ私? *10」とこぼしたことで、五条のあだ名が暫く『封印されしエクゾディア』になるのだが、それはまた、別の話であった。

*1
彌虚葛籠と簡易領域と落花の情は似て非なる防御技術なので多重展開は中々に至難の業。 魔虚羅(まこら)の場合そこに灰原雄の十八番である防御結界まで足している。

*2
インファイト版紺輝覇顕(ブルーレイ)の事。

*3
真依ちゃんメイスの的にされがちなので

*4
『E=mc^2』により質量とエネルギーは等価性を持つため

*5
調伏に使った釈魂刀と天逆鉾。

*6
魔虚羅(まこら)が会話できる様になった際に甚爾が即座に呪具に関する情報を口止めした。恵は口止め料としてDXキバットベルトを買ってもらった為 魔虚羅(まこら)にしっかりと厳命している

*7
真顔。諸々のトラウマが甚爾相手にある五条は割と本気で怯えている。ちなみに、甚爾の全力殴打の威力がそこまで高いのは魂を知覚して魂の輪郭諸共相手をブン殴っている為なのだが、 魔虚羅(まこら)が指摘するまでは甚爾自身も調伏の際の超威力の蹴りの原因を把握していなかった。もちろん今では理解しているので狙って出せる。

*8
環境が環境なので、グロ耐性が高い子供ばかりな為この反応で済んでいる。

*9
クロスローズ・オブ・カオス

*10
死体処理的な意味で

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