さて、そんなこんなで五条の新技お披露目が終了すれば、次は夏油の順番なわけで。
一応黝も晧も夏油自身の目算では領域展開でなんとかできそうな気はするものの、そもそも今の五条悟相手だと展開前に倒されるのが目に見えている以上、夏油が抱く危機感も中々に大きい。
そんな彼が鍛え上げた努力の成果とは————。
「歌姫先輩、私は
「そうなの? いや、でも呪術の勉強なら色んな術式見るのもアリでしょ。今日はこのまま見学するわよ」
「なるほど。じゃあ遠慮なく。————術式反転・精霊創術」
そう。五条と直哉に対抗するにはまずタフネスが足りないと判断した夏油は抽象的かつ感覚的な硝子のアドバイスを必死に解読し、ついに反転術式を会得したのである。
その結果獲得した術式反転こそが、
そんな術式反転の実験第1号はというと……。
「何それ傑。ナビィ? *1制服今から緑に染めとく?」
「いや、
「アッハッハ! 可愛いじゃない夏油! ぷふッ!」
「歌姫先輩バカウケじゃん。良かったね〜夏油、お披露目大成功だよ?」
「まぁ、美々子と菜々子にも好評だったからね……なんとなくこういう反応になるのは予想してたよ……」
「ちょっと女子〜! 傑泣いちゃったじゃ〜ん!」
「うわウザッ」
なんてやり取りの通り、夏油が呼び出したのは、輝く光球に妖精らしい翅が生えた手のひら大の小さな『正の呪力で出来た霊的存在』。
術式名の通りなら『精霊』というらしいこの霊体は、文字通り呪霊とは正反対な存在であり、基本的に人間には有益なもの。蝿頭から生み出したこの個体の場合、憑依されるとちょっとばかり気分が良くなる程度の効果しかないのだが、果たしてコレが更に上位の呪霊だった場合どうなるのか?
というのが、今回夏油がわざわざ放課後のグラウンドを使用して術式の試運転を行う目的だ。何が起こるか判らない以上開けた場所で実験しよう、というわけである。
「というわけだから悟、ヤバかったら処分を手伝ってくれ」
「はいはい。まぁ大丈夫だとは思うけど任せといてよ。今の俺、
「ああ。4、3、2、1、そして特級の順に試すつもりだよ」
「マジ? 特級も行くんだ。傑の手持ちにいる特級ってなんだっけ?」
「特級仮想怨霊『口裂け女』、特定疾病呪霊『疱瘡婆』、特級仮想怨霊『化身玉藻前』、特級仮想怨霊『トイレの花子さん』、ぐらいかな。今回は口裂け女とトイレの花子さんを掛け合わせてみるつもりだよ。ちょっとキャラ被ってるし。*2」
「確かにな。……じゃあまずは4級から?」
「ああ。行くよ————精霊創術!」
そう告げて、宙を泳ぐ魚めいた呪霊とイソギンチャクめいた呪霊を掛け合わせる夏油。混ざり合う2つの呪霊が夏油の掌の上で白い呪霊玉となり、それを夏油が飲み込む事で儀式は完了。改めて夏油がその成果を呼び出してみれば、そこにいたのは眩く輝きながら宙を泳ぐ金ピカのデメキンであった。
「うーん。ある程度元の呪霊の要素は残るのかな?」
「水生生物的な意味で? ……何か能力とかあんのそいつ?」
「いや、元が4級だからね。特には。ただ、周囲に正の呪力を振り撒いているから、呪霊除けにはなるかもね。蝿頭ベースのやつと同じで、触るとちょっと気分が良いし」
「マジ? 俺も触って良い? ……あー、なんかリラックス効果的な感じはあるかも……歌姫、コレ貰っといたら? 生理の時いつもイラついてるじゃん」
「殺す」
「今のは殺して良いですよ歌姫先輩」
「ほら怒りっぽい。な、傑。歌姫に渡しとこうぜ?」
「いや、今のは悟のせいだろう……? でも確かに、何かしら役に立つなら、憑けておくのは良いかもしれない。次の3級が上手くいったら一度試してもらおうかな。先輩、レビューお願いしますね」
「私で人体実験するな!」
「まぁそう言わずに。多分大丈夫ですって」
なんて、クズ2人に精霊を差し向けられて嫌がる庵歌姫だが、彼女はその後夏油が生み出した3級精霊*3をいたく気に入り、人体実験の被験体に志願する事となる。*4
その後、2級精霊は爬虫類っぽい呪霊2体を組み合わせた結果、縁起の良さそうな蓑亀の姿になり、1級精霊は『屋内空間を結界に見立ててループさせる術式*5』と『毒を撒く術式』という一見接点がなさそうな2体の呪霊を掛け合わせた結果、『解毒効果のある結界を張る』という限定的ながらそこそこ使えそうな術式を持つ茶色いモリゾーみたいなゆるキャラになったりとかなり面白い変化が見られる中で、次はいよいよ特級を用いた実験。
流石に五条もふざける事なく『晧』を展開して有事に備えるその中で、夏油の掌の上で特級2体が『精霊玉』へと変換され、それを呑んだ夏油が、即座に特級精霊を召喚する。
口裂け女とトイレの花子さん。その2体が掛け合わさり、生み出されたその精霊は、花子さんらしいおかっぱ頭に口裂け女らしい裂けた大口を備え、両者に共通する『赤い衣服』を纏ったもの。
が、赤いと言ってもどう見ても『着物姿の少女』という他ない純和風なその風体は、全体的にはトイレの花子さんとも口裂け女とも全く異なるものだ。
「傑、大丈夫そうか?」
「ああ。制御できてるよ。体感だけど、特級から蝿頭まで一貫して制御に支障は全く感じなかった。既に取り込んである呪霊を前提とした術式だからかな。それと————基本的に生み出した精霊のスペックは把握できるし、特級同士を掛け合わせたりして強力な精霊を作ると『名前』もわかるみたいだね。この子は特級仮想精霊『座敷童子』、らしいよ?」
「あー、確かに言われてみたら座敷わらしだわコイツ。……面白い術式持ってるしな」
「ああ。『幸運の収奪と分配』の術式みたいなんだけど……概念的すぎて試し難いな」
「じゃあ、歌姫ついでだしラッキーにして貰えば?」
「五条アンタ、マジで私のこと舐めすぎだろマジで」
「ははは、じゃあ悟の幸運をちょっと取って歌姫さんに渡そうかな」
「マジか傑」
「よっしゃ夏油! それならバッチこいよ! 多めにふんだくりなさい!」
なんてやり取りの末、座敷童子に五条悟の幸運の3割を奪って庵歌姫に付け替えるように指示した夏油だが、悲しいかなその場ではさっぱり効果が分からず、精霊の能力はイマイチなんなのか分かりづらい、という悲しい結果と相成った。
————筈だったのだが。
その日の夜までの間に五条が柱やタンスの角に何度か小指をぶつけたり、風呂場で滑って尻餅をついたり、自販機に千円札を呑まれたり、食べたかった方の定食が品切れになったり、といったプチ不幸に見舞われまくった挙句、寮のベッドで寝ようとしたらベッドの脚が折れて最悪な寝心地が実現した事で事態の重大さが判明。
その反面、歌姫が晩酌の酎ハイ缶についていた懸賞シールに何気なく応募したところ、後日西武ドームでのビュッフェサービス付きプレミアムエキサイトシート観戦券を獲得し、ついでに歌姫が応援しているライオンズがこの年全国制覇*6を達成することとなるのだが、どこまでが『座敷童子』の能力だったのかは正確には不明のままであった。
ただ、この能力の有効性が確認されたことで、夜蛾の幸運を徴収し、果ての無い『仙台のヌシ』探しに奔走している七海建人に幸運を付与するように夜蛾正道本人から指示があり、仙台組にちょっぴりラッキーが付与されたのであった。
その後、夜蛾が五条同様に日常の不幸に見舞われまくったのは、言うまでもないことである。