さて、夜蛾学長が暴走した電動シェーバーに揉み上げを片方だけツルツルに持って行かれている頃。
尊い犠牲の元幸運を得た七海を先頭にした最優トリオの面々は、ほぼ確実に仙台のヌシであろうと思われる存在を尾行している……のだが。
「本当にあの子なのかな?」
「みたいやで? 確かに呪力 隠しとる。でもな確かに 目は疑うわ」
「どこからどう見ても、正真正銘幼稚園児ですからね……私も、この目で彼が指先から蝿を放つところを見ていなければ到底信じられませんでしたが」*1
というわけで、彼らが見つけたのは、仙台市にお住まいの虎杖悠仁くん5歳。5歳児とは思えない程の精度で呪力を隠匿し、それでいて七海が彼を発見した後に『蝿』に焦点を当てて調査した結果から『蝿を使役する謎の術式で呪霊を殲滅している』ことはほぼ確定しているという、どう考えても特級間違い無しな髪色ピンクの少年である。
で、本日は最終確認の為、彼を一日観察した上で3人全員が改めて『信じ難いが間違いなく呪術師』という結論に至ったところで、御宅を訪問して保護者の方——ちゃんと血の繋がった祖父が居るのは伊地知経由で行政に問い合わせて確認済み——と本人に事情を説明する予定だったのだが。
「帰ってきましたね、彼の家に」
「袋菓子めちゃくちゃ買ってるあたりは年相応っぽいんだけどね」
「ちゅうてもな えらい袋が 多ないか?」
「それは……お爺さんと食べるのでは?」
なんて、近所のスーパーからの買い物帰りな虎杖少年を結界術の応用で姿を隠しつつ見守っていた3人の眼前で「ただいまー! 爺ちゃんお茶!
* * * * * *
「————そういう訳で、私たちは呪術高専に所属する呪術師として、活動しています。今回は虎杖悠仁くんが私たち同様に呪術師であると見込んでこうして伺った次第です」
「呪術ねェ……」
「はい、信じ難いとは思うのですが……」
「いや。信じる」
「話が早いですね!」
「……倭助さん 心当たりが ありはるん?」
と、お招きにあがった虎杖家の茶の間で、湯呑みを手に虎杖倭助、虎杖悠仁の両名に呪術高専について説明する七海*2に対し、意外にも保護者である倭助の感触は、悪くはないものだった。
コレも幸運の力か? と内心に過ぎる七海だが、目の前にいる老人の真剣極まる表情にそう簡単な事態ではないことを察して、彼を含めた3人はひとまず倭助の話に耳を傾ける事にしたのだった。
「悠仁。こうなっちまったからには仕方が無ェからよ。今からオメェに話しとかなきゃいけなかったことを話す。コレはマジの話だ。————お前はな、悠仁。死人が孕んだ子だ。お前の親父はオレの息子、虎杖仁。ヤバいもんに手を出したツケが回って死んじまったが……お前もちょっとは覚えてんだろ? それで母親が————虎杖香織……いや、香織じゃねえ。オレの義娘になった香織は死んだ。死んだのに墓に入れる間も無く、頭に縫い目をつけて霊安室から戻ってきやがった。その後に悠仁、お前が出来て、生まれた。……俺はよ。死亡診断書に医者がハンコつくところまでこの目でハッキリと見てんだよ……だが……妻が黄泉帰ったせいで、仁の奴はおかしくなっちまった。あんまりに辛すぎて、香織が死んだってことを頭の中から消し飛ばしちまったんだろう。……だが。事実ってもんは変わらねえ。悠仁はバケモンの腹から産まれたんだ。だが、それでも仁の息子ってのも事実だろ? ……だからよ、悠仁。俺はお前が『人間としておかしいほど体が強い』のも『何か腹に飼ってる』のも知ってる。知った上でお前の爺ちゃんをやってる。それだけだ」
そう告げて一気に茶を呷る虎杖倭助。彼が語った内容に対し、その場にいた高専生3人の結論は『まず間違いなく何らかの呪詛師の仕業』で一致している。
だが、幾ら呪術師として才気煥発な悠仁少年でも今の話はキツいのでは? と彼の顔色を窺う3人だが、悠仁少年の表情は平静そのもの。だが、その表情の奥に、何らかの覚悟が滲んだのは、戦場に身を置く3人には見てとれた。
「父ちゃんの事はよくわかんねえけど……俺の母ちゃんが変だってのは、
「兄ちゃん……?」
そう訝しむ祖父に対し、虎杖悠仁少年が、意を決して告げるのは、高専生達が思わず飛び退いて臨戦態勢を取るほどの、衝撃の事実。
「俺の母ちゃん……いや、母ちゃんを乗っ取った奴? まぁでも乗っ取った方が俺の母ちゃんか。とにかく、母ちゃんの名前は『加茂憲倫』……兄ちゃん達は俺の事を呪術師に1番わかりやすく説明するならこう言えって言ってた。————俺は呪胎九相図10番・生前相『虎杖悠仁』だ。俺の中には、2年前に高専から喪失した全ての呪胎九相図が取り込まれてる」
その発言の直後、この場にいた最優トリオが学長である夜蛾に速攻で連絡を入れたのはいうまでもなく。
虎杖家の2人は、その後直ちに高専に護送される事となるのだった。