仙台のヌシこと虎杖悠仁少年の保護から、かれこれ1週間。
紆余曲折*1を経て高専の寮で暮らし始めた悠仁にとって、この数日は激動の日々だった。
まず一番衝撃だったのは、『あ、悠仁のお爺ちゃん肺にガンあるんじゃね? 硝子〜! 急患!』と初対面でいきなり言い出したグラサン白髪の青年の一声で、凄い格好*2の女生徒が手から反転術式を放って祖父の肺に生じた初期のガンを全快させたことだ。
で、その次に衝撃的だったのはやはりパンダだろう。『紹介しよう、パンダだ』『おっす悠仁、パンダはパンダだ! よろしくな!』という一切の情報がない自己紹介をされたのだが、数日が経っても未だによくわからない存在である。
そして最後に、この平成の世に刈り上げテクノカットというヘアスタイルのニューウェーブを巻き起こしている夜蛾正道学長の存在。
まぁ聞けば悠仁捜索の為に幸運をナナミン*3に譲ったせいで不幸に見舞われて揉み上げを剃っちゃったらしいのだが、悠仁が東京はすげえなあと間違った感想を抱いてしまったのも仕方が無いだろう。
そして、現在。寮生活にも慣れてきた悠仁は、同い年の伏黒恵、来栖華、夏油菜々子・美々子*4の4人に誘われて、子ども組の鍛錬に混ぜてもらっていた。
「押忍! よろしくお願いします!」
と、元気よく挨拶するジャージ姿の悠仁に対し、まず声を掛けてくれたのは、呪術小1年の中心人物であり、高専に居る子供達のリーダー格でもある禪院姉妹。
「お、悠仁も今日から参加か。良いのか? 私は年下でも手加減しねえよ?」
「嘘ばっかり。お姉ちゃん年下どころか人間を本気で殴ったことないじゃない」
「いや、それはそうだろ。私だって殺人犯にはなりたくねえよ」
なんてやり取りをする姉妹の姿は可愛いフリフリのドレス姿だが、悠仁はそんな彼女達の何気ない体幹の制御などから、真希の発言が『ガチ』であると即座に看破し、高専に来て以来感じ続けている呪術界のレベルの高さを再び感じて気を引き締める。
まぁ、実際は高専だけ異常にレベルが高いだけなのだが、そんな事を呪術界に詳しくない悠仁が知る由もない。
そして、そんな悠仁の緊張を悟ってか、ポムポムと肩を叩いてくれるのは、パンダ。そしてトゲピーこと狗巻棘と、サイボーグ少年の与幸吉である。
「ま! 緊張すんなよ悠仁! お前特級だし大丈夫だろ!」
「
「まぁ棘の言う通りだな。俺も初めは緊張した。すぐに慣れるさ」
「いや、言う通りって、オカズしか言ってないんじゃ……」
「それにも慣れるさ」
「マジ?」
なんてやり取りで場が和んだところで、いよいよ鍛錬が開始され、悠仁は伏黒恵のお姉ちゃんである伏黒津美紀から、基礎的な体術を習うこととなった。
「よろしくね! 悠仁くん! 恵と同年代の男の子って初めてだから、仲良くしてあげて!」
「うす!」
なんて会話から始まったその鍛錬はしかし、ガチもガチ。父親である甚爾と従兄弟叔父の直哉によってしっかりガッツリ基礎を仕込まれている津美紀は、非術師の少女ながら呪術を交えない拳法の腕は真希に次ぐ実力者であり、幾ら弱冠5歳にして大人並みのフィジカルを持つ悠仁であっても、拳法の基礎を知らない身では手も足も出ない強敵だ。
もちろん、呪術を使えば話は別だがそれでは訓練にならないため、今回は身体能力だけで津美紀の薫陶を受ける悠仁なのだった。
* * * * * *
一方その頃。呪術界で一躍時の人となっている『加茂憲倫』こと『Q』の首領『ウェッセン』は、秘匿されたアジトにて2人の女性に話を持ちかけていた。
「というわけで、指名手配のせいで表立って動きにくくなっちゃってさ。いやぁ参った参った」
「何が参っただ。貴様のせいだろう。……それで、私を受肉させた要件はなんだ、羂索」
「あらやだ、裏梅ったらせっかちね。私と貴女だけって事は、どう考えても宿儺絡みじゃないかしら?」
「万、お前如きが宿儺様の関係者ぶるな」
「恋人はバリバリの関係者でしょ」
「冗談は顔だけにしろ」
「まぁまぁ2人とも仲良くしようよ。君達にはこれからママ友になってもらうわけだし」
「「は?」」
と、『裏梅』『万』と名乗る2人の女呪詛師達から絶対零度の瞳を向けられるウェッセンだが、怯むような事はなく、彼は今回彼女達を冥府から呼び戻した理由をあっけらかんと口にする。
「いや、しっかりバッチリバージョンアップした宿儺の器を10体ほど作ろうかと思ってさ。母胎は適当に用立てようかなと思ったんだけど……君達に声掛けないと怒るかなーってね」
「なるほどね。私がちゃんと10人産んであげるから安心しなさい羂索」
「馬鹿を抜かすな万。宿儺様の器を御育てするのだ。私が適任だろう。離乳食も作れぬ貴様に用は無い。私が10人産む」
「いや、2人で半々ね。同時妊娠で安全を見るなら五つ子がギリだから。これは器の調整を私が行う以上譲れないよ。今回は宿儺の指から抽出した情報をベースに君達の卵子に手を加えて『宿儺に相応しい肉体』を用意しなきゃなんだから。試作はもちろんしてるけど、結構調整が難しくてね」
そう告げて、羂索が持ち出すのは、ホルマリン漬けの胎児標本。
2対4本の腕を備え、四つの目と腹部に開いた大口を持つその姿は間違いなく2人のよく知る存在の『胎児の姿』であり、ウェッセンが述べる計画が、絵空事では無いことを匂わせる。
「で、さっきも言ったけど、君たちが仲良くしてくれないとお腹の子の発育に差し支えるかもしれないし、そもそも乳の数的に母親が1人だと何人かの宿儺には粉ミルクを飲んで貰う事に————」
「なら大丈夫よね裏梅。私達大親友だし」
「そうだな万。2人で仲良く宿儺様の器を産んでお育てしよう」
「————うーん、このイカれっぷり、やっぱり平安生まれは違うね。ま、話が早くて助かるよ。今年中には最終段階まで調整した『新型の器』の作成法を仕上げられると思うから、それまではせっかくだし手伝ってくれるとありがたいかな。ここ最近、死滅回游をもっと盛り上げようと思って色々頑張ってるんだけど、猫の手も借りたいぐらい忙しくってね」
「羂索、さてはそちらが本題だろう。貴様と私は宿儺様復活の為に協力しているに過ぎない事を忘れるなよ?」
「昔っから調子良いわよねえコイツ。……まぁ良いわ。どうせ断っても無駄なんでしょ。手伝いぐらいしてあげるわよ」
そんな調子で話が落ち着いた呉越同舟な平安呪詛師達。呪術界の闇の底で暗躍する彼らの計画は、豪華な参加者を見込んでの盛大なものへとバージョンアップを繰り返し、その業と呪いを深めていくのであった。