季節は秋。夏を越え、高専の学生*1が再び交流戦に向けて活動し始める中、高専は一つの大きな節目を迎えようとしていた。
「3年制に移行ぅ?」
夜蛾に呼ばれて説明を受け、最初にそう素っ頓狂な声を上げたのは、寝耳に水だと言わんばかりの五条悟。その両脇で席に着く学友達も、浮かべているのは一様に驚いた様な表情だ。
「そうだ。その関係で今年は3年生と4年生が卒業を迎える変則的な形式となる」
「しかし、なぜ————いや、でもそれはそうか。学生にしておくのは惜しいという事ですか?」
「そうだ。傑の言う通り、『最強』『最優』の両世代に4、5年のモラトリアムじみた学校教育を強いるよりは呪術師としての業務に専念させるべし、だそうだ。今後の世代についても小学校と中学校の運用開始により、高校卒業相当まで教育すれば十分に教育可能だと判断された」
「え〜、じゃあ高専から追い出されるんですか私達?」
と、眉をハの字にして困ったなぁと主張する家入だが、そんな彼女の質問に対して、夜蛾は否、と首を振る。
「いや、希望者は教員として採用する様取り計らった。お前達の進路は聞いていたからな」
「先生ナイス! じゃあ授業なくなる分得じゃん!」
「悟は暇そうだったからね、座学」
「ま、私も別にいいかな〜。就職先あるなら食うには困らないしね。あ、先生、医師免許取りたいんでズルとかできません? 学長権限で」
「ハァ……お前達は相変わらずだな全く……硝子の件は考えておこう。あと悟、卒業までのあと半年は普通に授業をするからな?」
「えぇ〜、もう良いじゃん今から卒業でさ」
「良いわけないだろうが」
そう言って溜息を吐く夜蛾だが、その表情が少し柔らかなものなのは、誰の目にも明らかで。
入学から4年を共に過ごした夜蛾学級にも、別れの時が迫っていることを誰しもが感じているのだった。
* * * * * *
そんな中、所変わって日下部学級こと最優トリオは、同じ様な話の後に、互いの進路について話し合っていた。
「直哉は実家だよね?」
「まぁそやね。次期当主やし そうなるな。卒業したら 京都帰るわ」
「寂しくなりますね。……と、私が言うのも変ですが」
「変なこと 別にないやろ 同期やし」
「七海は冥冥さんみたいにフリーの呪術師やるんだっけ?」
「ええ。表向きは探偵事務所でも名乗ろうかと。ここ暫く血眼で人探しをしていましたから、真似事ぐらいは出来るでしょう」
「探偵か 似合いそうやね 七海君」
「そういえば、冥冥さんって表向きは何屋さんなのかな?」
「あの人は 占い師やね 本業は。フィナンシャル プランナーとか その辺も 資格持っとる 筈なんやけど」
「そういえば、独立の相談をした際に占いめいたことを言われましたが、それが本業だったとは知りませんでしたね」
「相談て 何頼んだん あの人に」
「事務所の開業場所について相談しただけですよ。その時に『新しい自分になりたいなら北へ、昔の自分に戻りたいなら南へ行きなさい』と言われたんですが。今思えば占いっぽかったなと」
「へぇ! それで、七海はどうしたの?」
「東京にしました」
「南でも 北でものうて 東やん。位置から言えば、現状維持か?」
「ですね。私は元来後ろ向きですが、まぁ今もそれなりには楽しんでいるので」
「なるほど! 僕は高専に残るつもりだし、東京に居るなら七海には時々会えるかもね!」
「まぁそうですね。それに直哉なら東京-京都間の距離など有って無い様なものでしょうし、会おうと思えば幾らでも会えるのでは?」
「まぁそやね。それに任務で 関西に 来る時とかも あるんとちゃうか?」
「確かに! お酒飲める様になったら飲み会とかも良いかも!」
「まぁ興味はありますね」
「北欧の 血ぃ引いとるし 七海君 ザルなんちゃうか 酒呑める量」
「ああ、なんかわかるかも」
「まぁ遺伝的にそうなる確率は高いかもしれませんが……」
などと、将来の展望について語る彼らは、呪術師としての在り方をしっかりと己に律しつつも、同時に紛れもなく、18歳の少年なのだった。
* * * * * *
さて、その日の夜。高専からそう遠くない飲み屋において、酒を酌み交わす大人達の姿があった。
「卒業まで後半年ともなると、流石にあのバカ共が生徒でも寂しくなるもんですね」
「ああ。……こうして揃って卒業できる事など、滅多にない事だからな」
「確かに。俺の時は俺だけ卒業でしたからね。学長の時は?」
「私も、1人で卒業した口だ。入学式と同じ顔ぶれで卒業する世代は、もしかすると初かもしれん」
「……京都の坂田世代より下では、学生の死者は無し。その原因が学生頼りってのは不甲斐ないですけど、まぁ教員からすりゃ救われた気分に勝手になっちまいますよね……」
「……直哉には感謝だな。悟と傑だけではこうはなっていない」
「? そうなんすか? 外から見てると五条も夏油も『俺達最強!』って感じの生意気な糞餓鬼ですけど……」
「2人、というのは存外脆い。傑は真面目すぎる所があったし、悟は浮世離れし過ぎていた。そのあたり、直哉はなんというか……『俗』だろう?」
「まぁ、強くなる事にはストイックで、礼儀はしっかりしてる奴っすけど、普通ですよね。性根が。エロガキですし……冥冥に鼻の下伸ばしてるの丸わかりですもん」
「ああ。それが、傑と悟には良かったんだろう。今のアイツらは、傑は良い意味で不真面目になったし、悟は良い意味で俗っぽくなった」
「まぁ、そうっすね」
なんて、話し込んで酒盃を傾ける夜蛾と日下部。そんな2人の晩酌の席に、ガラガラと店の戸を開けて加わるものが、また2人。
「お、もうやってるんだ。待たせちゃったかな?」
「いや、まだ言われてた時間には早いぐらいだろ」
「お、来たか。九十九と伏黒はどうだ最近」
「酔ってんのか日下部。主語何処だよ? ……まぁ、悪かねえんじゃねえの。天内はアレはアレでシゴキ甲斐が無いでもねぇ」
「だね、流石は私の生徒。才能はバリバリだよ」
「ほー、アイツらが卒業したら俺も一丁見てみるかな、元星漿体の腕前」
「おお! 良いね! シン・陰流は私が教えたから、同門の先輩として扱いてあげてよ! 日下部篤也は現代のシン・陰流にて最強なんでしょ?」
「誰が言ってんだそんなもん!?」
「最強世代と最優世代と冥冥ちゃんが言いふらして回ってたよ?」
「あのバカ共!」
なんて、頭を抱える日下部に笑う、教師組。此処数年の穏やかな呪術界を、誰よりも噛み締めている彼らの穏やかな酒宴は、夜遅くまで続くのであった。