フルダイブ修羅 ~リアルで殺人拳をマスターした僕がフルダイブMMOで無双したら続々修羅が集まって来た件~ 作:ジャントゥ
「ポムさん……」
ダメージを表す赤いエフェクトが、キラキラとコウガの腕の上を流れる。
ポムボムゼリーの短刀の一撃を、肩で受け止めた結果であった。
その流れる血は今日、コウガが『バーサークブラッド』で初めてまともにダメージを受けた証だった。
しかし、その僅かなダメージの対価は余りに大きい。
「今遊んでいる暇はないんですよ……!!」
ただでさえ恐ろしい光を放つコウガの瞳の黒い星が、更におぞましい光を発する。
仮面をつけているため、その表情は見えない。
だが、心弱き者ならそれを見ただけで自死を選びかねない殺意の籠った眼光。そして吹き荒ぶ死の気配。
「これが、これが本物の『全殺流』か!」
だが、ポムボムゼリーはそれに怯えない。むしろその目に闘志を燃やし、これこそ本懐と血を高ぶらせる。
ポムボムゼリーは、そもそも最初からコウガが『全殺流』だと看破していたのだから。
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ポムボムゼリーは、現実では忍者の家系であり、現職の忍者でもある。
別にいまどき分身の術を練習したり、まきびしを撒いたりするわけではない。
あらゆる武装、時には銃、ドローン、パワードスーツまで使い、権力者の邪魔者を処理する事を生業とする、現代まで生き残り洗練された歴史と科学のハイブリッド忍者である。
その蓄積された歴史の中に、『全殺流』の記録も3度あった。
曰く、鬼の王。
人を狂わす魔性を持ち、その怪力で鎧武者5人を素手で縦に引き裂き、時の権力者をくびり殺したという。
曰く、現人神。
人ではある。が、人の枠の外に在る者。30人の敵を、一人も怪我させることなく制圧したという。
曰く、超人。
人並外れた怪力、不死身じみた体力、そして陰ることのない精神力。一族総出で取り込もうとしたが、逆に一族の女が一人、『全殺流』の男に惚れてついていったという。
時代が下るにつれ化け物から人間へと認識が改められてはいるが、それでもその内容は現実味がなかった。
最後の記録でさえ、一族の忍者20人が護る座敷牢を素手でぶち破り、女を攫って悠々と脱出するという冒険小説じみた内容なのである。
だが、それでも一族の中で『全殺流』は常に事実だった。
恐るべき、この世に間違いなく存在する埒外の怪物、それこそが『全殺流』。
幼きポムボムゼリーにとって、そして現在も日々殺しの技の鍛錬に励む求道者のポムボムゼリーにとって、『全殺流』とは憧れでありーーそうありたいと思う、見果てぬ夢であった。
それが、単なる気晴らしのフルダイブゲームで会えるなんて、思ってもいなかったのだ。
一族の記録では、『全殺流』は一目で分かるとされてきたが、それは正にその通りだった。
トランクルームエリアのコンテナの影から少女を抱える悪魔のような仮面の大男を見て、一目で『全殺流』だと直観した。
その鍛えられた肉体から無造作に放出されている目に見えぬ死の気配。
何人もの人間を殺し、自分と同様に死と暴力を生業にする人間すら屠ってきたポムボムゼリーであっても足がすくむような冷たい気配が、仮面の男を中心に渦巻いていた。
こんな気配をもつ生き物が、単なる人間の訳が無い。
そして咄嗟に繰り出した起爆札を、本来避けられるわけがないタイミングで、その上人一人抱えたままの状態で避ける異常すぎるバネ、反応速度で確信した。
仮面の男こそが1000年無敗の伝説の存在――『全殺流』なのだと。
文字通り、千載一遇のチャンスだと思った。
バーサークブラッド内であれば、仮に負けても死なずに済む。
あの伝説の存在に憂いなく、現実からゲームまでひっくるめた自分の技をぶつけるチャンス。
ここを逃せばもう一生その機会はないかもしれない。
今日この怪物がバーサークブラッドで無茶苦茶するだけしてやめる可能性はないではないのだから。
ポムボムゼリーは現状最高の戦闘プランを思案した。
間合いの外からチクチクと攻める手はあったが、ハッキリ言って無駄だろう。
相手は一人で同時にうん十人相手にする怪物。近接職の自分一人で行う遠距離攻撃など、無意味同然。
とにかく自分の手持ちで最も強力な攻撃ーー薄く赤く輝く愛刀『狂犬牙』の一撃が必要であった。
『狂犬牙』ーー常時効果で自身の攻撃力と行動速度を30%上昇させる代わりに、防御力を15%下げるという効果と、発動効果で短時間の間自身の攻撃力と行動速度を60%上昇させる代わりに防御力を30%下げるという超攻撃的な性能をもつレジェンド武器である。
これと攻撃スキルを合わせれば『全殺流』の反応速度を振り切り致命的な一撃を与えられる可能性がある。
たが、『狂犬牙』はあくまで短刀。その間合いは余りに短い。
だからあえて何も気が付いていないふりで『全殺流』へ近づいた。
近づいた瞬間殺される可能性があったが、それは賭けだ。
そしてそれにポムボムゼリーは勝った。
仮面の男――コウガから『全殺流』の名前が飛び出した時はやはりという確信と興奮のあまり吹き出してしまい、演技が難しいほどだったが、それでもさも単純なPvP以外他意がないように振る舞うことに成功した。
見事コウガの警戒を解き、ポムボムゼリーはその瞬間にコウガの首へと狙いをつけて『狂犬牙』を自分の持つ最高攻撃倍率の攻撃スキル、『死閃』で突きこんだ。
『バーサークブラッド』にHPの概念はない。VITはあくまで頑丈さを表すステータスで、急所に完璧に攻撃が決まれば一撃死することは珍しくなかった。
いわんや、ポムボムゼリーの力量で、ゲーム的なステータスの下駄、スキルのバフ込みで放たれたそれは既に神速の域。
(取ったぞ『全殺流』!!!!)
少女を抱え両手が塞がれた状況では咄嗟に防ぐことも出来まい。
発動効果を使用したことを表す、通常より濃い赤のオーラを放つ短刀の一撃は必殺の一撃としてコウガーの首へと閃きーーそしてあっけなく防がれた。
ダメージを表す赤い血を模したエフェクトが、キラキラとコウガの腕の上を流れる。
コウガは目線を外したまま身体を少し捻り、短刀の当たり所を肩とすることでその必殺を凡庸な一撃へと変えたのだ。
抱える少女を庇うようにしていなければ、そもそも当たりすらしなかっただろう。
「ポムさん……今遊んでいる暇はないんですよ……!!」
ただでさえ恐ろしい光を放つコウガの瞳の黒い星が、更におぞましい光を発するのをポムボムゼリーは見た。
仮面をつけているため、その表情は見えない。
だが、心弱き者ならそれを見ただけで死んでしまいそうな、殺意の籠った眼光。そして吹き荒ぶ死の気配。
「これが、これが本物の『全殺流』か!」
ポムボムゼリーは、もう内心笑うしかなかった。
スキルや魔法、アイテムの発動を表すエフェクトも、コウガからは出ていない。
意識、視線、呼吸を外した不意打ちの一撃を見もせず最適解の方法で凌ぐーー。目隠しをしたまま弾丸を避けるような神業を、目の前の男はしれっとやって見せたのだ。
これは確かに鬼や魔の類だ。人の勝てる相手ではない。
何て愉快だ。畏れと共に愉悦が走る。
『狂犬牙』の発動効果はまだ切れておらず、ポムボムゼリーはまだ攻めることはできた、だが。
「グウッ!?」
「む、見切られた……?」
「ウハハ! 馬鹿やろうがこんなもの見切って避けられるか!!!」
ポムボムゼリーの鼻先をコウガの蹴り上げが通り過ぎた。
そのまま前に出ていれば、首から上が丸ごと無くなっていたのは間違い、鋭い――鋭すぎる、下から迫るギロチンのような蹴りだった。
勘働きのままに瞬間後ろに飛んでいたのが幸いした。
しかし、その動きはただの偶然だ。コウガの動きの起こりさえ感じていない。
『全殺流』への畏れから後ろに下がっただけであった。
だが、値千金の一瞬である。
「『アクセラレーション・トリプル』!!、 『空蝉』!!」
更に行動速度加速バフと物理攻撃回避スキルを起動したポムボムゼリーは背後にあった複数の鋼糸の上を跳躍し、陣の奥一本の上へと舞い戻る。
(とにかく一度距離を取る! そして『狂犬牙』のクールタイムをやり過ごし、スキルと罠でたてなおせばまだ勝負は分らん!!)
鋼糸は単なる足止めの罠なだけでなく、ポムボムゼリーの空中の足場としても作用する2重の武器、そして更に秘密がある。
「『全殺流』、悪いが俺の力試しに付き合ってもらうぞ!」
「僕が『全殺流』と理解して挑もうというんですね……。いいでしょう、『全殺流』の1000年無敗の歴史に挑まれて逃げたということは一度としてありません。存分に力を尽くしてください」
悠然とコウガも答える。
こんな問答時間稼ぎだとわかっているだろうに、それに付き合う凄まじい自信だ。
いい男だ。
1000年無敗と謡うだけはある度量だ。
こうでなくてはとポムボムゼリーは笑った。
「琴さんすいません、本気でやります、少しだけ時間をください」
「コウガくんの腕のなかなら2時間でも3時間でもいいよ…?」
「いやそこまでは。精々3分くらいですからーー舌を噛まないように気を付けてくださいね」
言うが早いかコウガがポムボムゼリーを追って当然のように鋼糸の上を跳躍する。
なぜ出来るのか、などポムボムゼリーは思わない。
『全殺流』ならば女子供を抱えた状態でも、自分と変わらぬ速度で鋼糸の上を跳べておかしくは無いのだ。
ポムボムゼリーはコウガに追いつかれないよう、何度も苦無やら時限起爆札で妨害しながら鋼糸の上を何本も渡る。
コウガがそれを無傷で凌ぎ、攻防を何度か繰り返す。埒が明かない無為な時間。
しかしそんな時間はすぐに終わる。
「――大体分かりました。行きます」
ポムボムゼリーの視界からコウガの姿が消えた。否、鋼糸と鋼糸の間を、超高速で跳躍したのだ。
化け物じみた機動力だが、それはポムボムゼリーの狙い通りだ。
ポムボムゼリーの背後の複数の鋼糸、コウガが攻めを掛けるに都合のいいソレは、すべて他の鋼糸とは違う本来ワイヤーブレードとして使うための鋼糸だ。足場として使えば足を負傷し、そうでなくても隙はできる。
元々戦闘能力の差は歴然で、勝利を狙うなら一点掛けしかない。
『狂犬牙』のクールタイムはすでに完了している。発動。
他のスキルも効果時間内だ。
首筋を走る痛みのような危機感知スキルが、コウガが後ろから迫ることを伝える。
「『死閃』!!」
『死閃』ーーポムボムゼリーが持つ技の中で最も攻撃力補正が高く、なおかつ発動速度が早いスキル。発動後一時的に防御力が下がるが、狂犬牙の効果を考えれば今更だ。
振り向きざまに技を放った『死閃』の一撃は、先に不意打ちしたときよりなお速い。
果たして、コウガは狙い通り後ろのワイヤーブレードの上におりーー何事もないように、ポムボムゼリーを迎え撃つように真っすぐと立っていた。
なぜ、どうやってワイヤーブレードの上に立てるのかと疑問が生じーー
「隼瞬殺脚!!」
ポムボムゼリーの『死閃』がコウガに届くよりも早く、コウガのギロチンのような蹴りが
ポムボムゼリーの肉体を断ち切った。
忍者大好き!!
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