フルダイブ修羅 ~リアルで殺人拳をマスターした僕がフルダイブMMOで無双したら続々修羅が集まって来た件~ 作:ジャントゥ
「――凶熊頭透拳!」
「GUGOAAA!?」
殴りぬいた掌底に伝わる、頭蓋骨を傷つけず脳のみを振動で破壊した感触。
命を奪った確信をしつつ、修多羅荒我(スタラ・コウガ)は残心をとった。
殺した相手――エゾヒグマ、北海道に生息する全長2.3mにも達する日本最大の肉食動物――が、雪の積る大地にゆっくりと俯けに倒れ伏すのを確認する。
気絶とは違う、脳が完全に破壊されたものがするおぞましい痙攣がヒグマに奔るのを確認した後、コウガは残心を解いた。
「勝った……」
ヒグマの乗用車さえ貫き破壊する巨爪により、荒我の黒のジャージはずたずたに引き裂かれていたが、コウガ自身の肉体には傷一つさえなかった。
ヒグマの攻撃――牙、爪、そしてその巨体そのもの――その一撃必殺のあらゆる全ての攻撃を刹那で見切り、服は裂けても肌に触れさせなかった結果である。
コウガも必死ではあったが、結果としては余りに呆気ない勝利であった。
精々、春を待つ北海道の冷気が火照る体に少し冷たい程度の被害しかない。
「カカッ!よくやったぞ、荒我」
コウガとヒグマの戦いを瓶から直で酒を飲みながら近くで観戦していた着流しの老人がコウガに声を掛ける。
コウガも大きい、2m近い巨体であるが、その老人はさらに大きい。
明らかに2mを超えており、白髪、白髭の容貌であるものの、その筋骨隆々の体の威圧感は
老人というより鬼のそれである。
老人の名は修多羅羅号(すたららごう)、荒我の祖父であった。
「カカカ!これで荒我も晴れて『全殺流』の後継だな。いや、めでたいめでたい!」
鬼瓦のような顔を歪めて、心の底からうれしそうに笑い酒をあおる羅号。
コウガはこの、1000年続く殺人拳『全殺流』に人生を捧げた祖父が好きだった。
今だまぐれ勝ちさえ出来ないその強さはもちろん、その強さから来る自信、余裕、優しさを尊敬していた。
そんな祖父が破顔して喜ぶ姿は、単純にコウガの胸を熱くさせた。
『全殺流』後継の儀式、『熊殺し』の為に、わざわざ春休みを犠牲にして北海道まで山登りしにきた甲斐があったとコウガは思う。
「本当に、大したものだ。俺が『熊殺し』出来たのは、20を超えてやっとこよ。
それも一撃くらったし、10代で、しかも一撃を当たらずとは荒我は俺を超えた天才よなぁ!」
「いやー、一撃くらっても熊に勝てるほうが凄いと思うけどな……。 爺ちゃんの時代と比べれば栄養状態や普段の生活の質が良いんだから一概に才能の差とはならないんじゃない?今だって僕、爺ちゃんに勝てないし」
祖父の孫バカに、コウガはクソ真面目に答える。コウガにはそういうところがあった。
「いいや荒我、お前は天才だ。それもただの天才ではない、『全殺流』の千年無敗の歴史において最高の天才よ!自信を持て!爺ちゃんが保証するぞ!!カカカ!!」
「なんか無茶苦茶持ち上げてくる……。ま、多分一応才能は有るんだなぁ程度には思っておくよ」
「荒我よぉ……もっと爺ちゃんの言葉を真に受けてくれよう……」
軽口をあしらわれて寂しそうな顔をする祖父をしり目に、コウガは倒れ伏すヒグマの死体を背負う。
一度人里近くに降りてきた熊で、どうしたって人間に駆除される定めであったが、命を奪いあった相手の死体を野ざらしにする気はなかった。
「……ありがとう。今まで戦った相手の中で一番死を感じて……一番面白かったよ……。僕が死んだらあの世でも戦ってな……」
背中の上で、どんどんと熱を失うヒグマに別れを伝える。
コウガは生命の尊さは知っていたが、同時に戦いを愛しており、それはコウガの中で無理なく両立していた。生き物の本質は闘争である。そのうえ相手の命と同様に、自分の命も天秤に載せていたのだからフェアであろう、と。
つまり、コウガは若干狂っていた。
「今夜は熊鍋よなぁ!爺ちゃんの友達の猟師がバラシてくれるからよう。楽しみにしておけよ!」
「爺ちゃんうまいもん食うと更に酒飲むからなぁ。年なんだから内臓とか気をつけてよ」
「カカカ!今日は『全殺流』をお前が継いで安泰となったハレの日よ!飲まずにはいれん!浴びるほど飲むわい!」
「……もう、いつも飲んでるでしょうが……」
重さ300キロを超えるヒグマの死体を背負い雪道を歩くコウガだが、その足元に不安はない。
常識的に考えて雪に深く突き刺さるハズの足も、精々20cm埋まる程度におさまっている。
尋常ならざる膂力。尋常ならざる体重操作術である。
雪山の麓まで先導する祖父の背中を眺めながら、祖父の上機嫌と裏腹にコウガは少し寂しい気持ちになっていた。
祖父は『全殺流』を自分が継いで安泰になったと喜んでくれている。
それはいい。それを喜んでくれることはコウガも嬉しい。
だがしかし、今、西暦2050年の平和な世の中で、人だけならずあらゆる生物を、果ては鬼や妖怪まで素手にて抹殺することを目的とする流派など活きる機会があるだろうか。
コウガ自身の事を言えば、人と戦うことも動物を殺すことにも抵抗はない。
むしろもっと苛烈な状況に追い込まれ、危険な相手と戦ってみたい程だった。
刃物、銃器を問わず武装した人間と、1人2人と言わず50人100人と同時に戦い、自分の鍛えた技が、『全殺流』の積み重ねた歴史がどれ程通用するか試してみたかった。
想像するだけで心が踊り胸が高鳴る。
だが、その夢が叶うことはあるまい。
コウガは若干狂っていたが、十分に社会性も身に着けていた。
『全殺流』が十全に活躍する様な社会は多くの人にとって地獄のような世界である事は理解できる。
『全殺流』も、自分も、祖父も、日の当たる所で評価されることはなく、されるような場面も来るべきではないだろう。
祖父とて分かっているはずだ。祖父は『全殺流』に人生を捧げたが……塀の中に入った事こそないものの日陰側の人生を歩んできていると聞いている。
理性の面では分かっているが、大好きな祖父が、『全殺流』がこの世に必要のない物のように扱われているようで、それがコウガには寂しかった。
「でもま、仕方ない仕方ない。平和が一番だものなぁ」
天頂に輝く太陽の光を地面に積雪が反射するまぶしさに目を細めながら、祖父に聞こえないようにコウガは独り言つ。
その言い方はとても優しい声色で、まるで祖父の人生と自分の人生を慰めるような音があった。
未来はともかく、とりあえず今は熊鍋を楽しみにすれば良かろうと。
修多羅荒我はある意味、自らの人生を既に諦観していたのであった。
修多羅荒我、15歳。高校入学まで後わずか、そして人生最後の平穏な春休みであった。
暴力大好き、戦闘大好き、気軽でジャンクな小説を目指しております。
金、女、暴力暴力暴力、くらいの割合の作品になる予定なのでよろしくお願いいたします。
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