フルダイブ修羅 ~リアルで殺人拳をマスターした僕がフルダイブMMOで無双したら続々修羅が集まって来た件~ 作:ジャントゥ
「はあー、本当に現実と変わらないんだなぁ」
天高く澄み渡る青空より降り注ぐ太陽の光が、空を眺めるコウガの頬を心地よく温める。
鼻孔をくすぐる草原の青草の匂いも、遠く見える山脈の美しさも、野生動物と戦うため国内外様々な場所を訪れた事があるコウガをもってしても、何ら違和感はない。
しかしこの世界は現実ではない。
空を行く白い鳥の群れ。よく見ればそれは鳥ではなく、竜だ。渡り鳥のように、竜にも遥か遠く目指すべき安息地があるのだろうか。
天頂にある太陽も、大小連なって二つ有る。
体感が現実と変わらないのに、常識が現実と食い違うギャップの大きさに頭がクラクラする。
「凄いな。普段ゲームなんて全然しないしフルダイブとかよくわからないけど、こんなに現実そのまんまなんだなぁ」
しゃがんで地面を軽く手で掘ると、太陽光で温められた地面は少し暖かく、掘った土は新鮮な土独特な匂いがした。
何もかもが現実味をもって存在する。
これがバーチャル…ゲームの世界とはまるで思えない。
超リアルな体感と超人的なアクション、魔法的ファンタジーを組み合わせ、
5000万を超えるプレイヤーを抱える超人気フルダイブMMO『バーサークブラッド』。
話は聞いていたがまさにもう一つの世界だと、コウガは驚嘆した。
頭に被ったフルダイブギアが脳にゲーム世界を認識させているらしいが、ただの高校生であるコウガに詳しい原理はさっぱり分らない。
ゲームの経験も、家にある古い家庭用ゲームで少し遊んだことがある程度。
頭のいい人たちは凄いものを創るなぁというところである。
「でもこれ、どうすれば良いんだろう?ゲーム始まったら待ってろって事だったけど……」
バーサークブラッドを教えてくれた友人の勧めに従い、ゲームのチュートリアルとかを全スキップした結果、いきなりこの草原にほっぽりだされたのだ。
キョロキョロと初心者丸出しで周囲を見渡すが、周りは草原が広がるばかりで、角の生えたやたらでかいウサギと戦う人影がちょろちょろと見受けられるが、何をどうしろ、という看板もない。
友人がゲームを案内してくれる約束で、スタート位置から動かなければいいと言われている。
ノンビリ待つかと草っぱらに座り込もうとして――背中によく知る気配が近づいてきた。
コウガはくるりと振りむいてその気配に挨拶した。
「おはようございま――あの、神楽坂さん、ですよね?」
「うん、おはようコウガくん。ふふ、リアルとは全然違うかな?」
気配の招待はコウガの想像通り、バーサークブラッドを教えてくれ、今日待ち合わせしていた友人――神楽坂 琴 (カグラザカ・コト)だった。
コウガと彼女とは高校で同じクラスになり、入学からこの一か月程クラスメイトとして関わってきた。
すでに見慣れた、と言っていい人物である。
しかし、学校での印象と全然違う。
リアルでミディアムボブの黒髪は銀色のメッシュが大きく入っているし、
普段はあまり意識しない――小さくて細いわりに出るとこは意外と出ている琴のシルエットが、黒い軽装に包まれてハッキリと浮き出ている。
黒いタイツと黒いショートパンツの組み合わせによって生まれた白い肌の絶対領域や、
腰や足に巻く小道具が差されたベルトのワンポイントがまた悩ましい。
なんというか……ちょっとエッチな……そういう趣向の人から見たらかなりエッチな女シーフと言った様相である。
幼げな顔の印象と肉感のギャップがエグい。
学校でのかわいらしい印象の琴がこんな恰好で来るとは、コウガは全く想像もしていなかった。
一瞬服装のことはやんわり諫めようと思ったが、本人が気に入っているなら遊びの場で言うだけ野暮だろう。事実似合ってはいる。エッチだが。
親切な同級生に性的なものを感じてしまった事が恥ずかしく、コウガはつい目を逸らした。
「あの、その……はい。メ、メッシュが入っているだけでずいぶん印象が違うんですね」
琴を不快にしないよう極力視線に気を付けようとコウガは内心誓い、服装以外の見た目、髪の方の話を振った。
「髪色を少し変えるだけで雰囲気が全然違うでしょ?昔はともかく、今はあんまり体系や顔つきをいじり過ぎると違法だからね。ディープフェイク対策法ってやつ。」
「ああ、だいぶ前にニュースで著名人への成りすましが話題になってましたっけ。ゲームの話だったんですね。なるほど、本当に現実の延長……なんですね」
「獣人とかなら自由が効くんだけど、人間種は顔つきも体系もリアル寄りが限界なんだ。一応私も体系の数字全部少しずついじってるけど、ほとんどリアルと変わらないし」
「そ、そうなんですか……」
いま目の前に見える琴の体のラインが現実と似通っていることを意識して、コウガはまた気恥ずかしくなった。何をこんなに意識しているのか。自分のやらしさが嫌になる。
「うんうん、リアルからチョットずついじって雰囲気変えないと、下手したら身バレしちゃうよ。コウガくんは……あれ、何も設定いじってない?」
「あ、はい。クリエイトモードとチュートリアルっていうのは、なんか全部飛ばせそうなのでスキップしました」
「わわ、クリエイトモードまでスキップしたの?じゃあほんとに身長から体重までリアルのままだよ。髪は後で変えられるけど体形は中々変えられないし――え、コウガくん、プレイヤーネームも『コウガ』にしてるの!?」
コウガのプロフィールデータを確認していた琴が困惑の声をあげた。
「何かおかしいですか?」
「おかしいっていうか危ないっていうか……」
フルダイブ世界の映像データを現実に出力するのは手間が掛かるが、出来ないわけではない。不特定多数が遊ぶゲームなのだから最低限の自衛は必須である。
現実世界でないから、ということで独特の危険もあるのだ。
プレイヤーネームを本名にするなどもっての外だ。
MMOの常識に疎いコウガに琴は眉をひそめる。
「あ、そうだ!コウガくんこれ着けて!」
「おわっ!ああ、ゲームだからか……神楽坂さん、これは?」
琴の腰につけられたポーチから、不意に明らかにその容量より大きいものが取り出された。
琴の手からコウガへと差し出されたそれは仮面――顔から頭までを包み表情を読み取らせない、攻撃的な印象を与える、フルフェイスの鉄兜ともヘルメットとも言える金属の仮面の装備である。
見た目は邪悪だ。とにかく邪悪だ。
「『悪魔騎士の仮面』っていうんだけど、頭全部すっぽり入るし……気休めかもしれないけどあげるから使って?」
「え、これを?」
見るからにハチャメチャに悪そうな仮面である。
人をぶっ殺してグハハと笑う悪党が着けるのが似合う鉄仮面だ。
とりあえず良い者が着ける装備には見えない。
体格のいい自分が着けたときの威圧感を想像してコウガは身震いした。
道ではち会えば、世の為人の為、抹殺しなければならないような悪者の姿である。
「今のままじゃ危なくて遊べないでしょ。その、バーサークブラッドはもうしないっていうなら仕方ないけど……」
「いえ、全く問題ありません。ささ、着けますよ。――これでいいですかね? 見た目怖くありません?」
是非もなし。コウガはさっと琴の手から仮面を受け取って被る。
意外なことに視界は全く塞がらず、着けている違和感もない。
そういうところもゲームらしいのだとコウガは納得した。
「大丈夫、大丈夫、すごく似合ってる! 後、これもあげるから着てほしいな……?」
「はい分かりました……?」
ついでに渡されたのは、なぜか黒いジャージである。
コウガにはなぜ黒ジャージを着る必要があるか分からなかったが、話の流れからして身バレ防止対策の装備なのだろう。
コウガは素直に着替えようとノージョブ初期装備の『ただのふく』を脱ぎ――
「エッッッッツツツ!!!!!!???」
「えっ!!??」
『ただのふく』と下の黒いシャツが一緒にまくり上がってコウガの腹筋が半ば見える状態になった瞬間、琴が突然叫んだ。
何かあったかとコウガは脱ぐ手を停めて周囲を見渡すも、変わりない草原である。
はてと思い琴を改めて向くと――
――服が戻りきらずチラ見えするコウガの腹筋部分に視線を釘付けにさせていた。
言葉を失い顔を真っ赤にして腹筋をガン見する琴の様子は尋常ではない。
恐る恐るコウガは声をかけた。
「神楽坂さん……?」
「え!!! ア……、あはは、急に脱ぎだすからびっくりしちゃった……」
「あ、そうか、なるほど……」
山奥や森など、戦いの前後に野外でもさっさと着替えることが多いコウガには思い至らなかったが、普通着替えるなら、男でも人目を避けて影くらいには入るものか。
そりゃ突然男が目の前で脱ぎ始めたらびっくりするし怖かろう。
「ごめんなさい神楽坂さん。大変失礼致しました……」
「や、や、……ご、ごちそうさまでした……。脱いでも普通に着替えられるけど、装備やスキンの切り替えは着けたいアイテム持ったままポップアップを触ればできるから、服を直接脱ぐ必要はないよ……」
コウガがジャージをもそもそ触ると、確かに装備するかの確認ポップが出た。
コウガは顔から火が出る思いだった。
女性が装備を切り替えるとき一々その場で着替えるわけもなし、ここにも仮面の視界やポーチの容量のようにゲーム的なご都合が用意されていると想像できてしかるべきだったのだ。
『全殺流』の修行ばかりしていたせいか、どうにも自分は常識知らずらしい。気の付くものならこうはなっていないだろう、本当に恥ずかしい事だとコウガは反省する。
気を取り直しとりあえずポチリとポップをタッチすると、着ていた布の服が光り、いつの間にかコウガは黒ジャージに着替えていた。
琴の口から聞こえた「あっ……」というどこかもったいないことをしたような響きの声は、もちろんそんな意味はなく、コウガの無神経さに呆れた声に違いない。
「神楽坂さん、これは……」
「エッッッ…ジが効いてるね。いいよ……すごくいい……!!」
そのコウガの姿は、褒め上手の琴でさえ無理やり誉め言葉を絞りだす有様だった。
個性(エッジ)が効きすぎて独創性が奇怪の域まで切り込んでしまっている。
着替えた黒ジャージはやけにぴっちりしていて、息苦しくこそないものの、コウガの筋肉質な肉体で内側から破裂せんばかりにパッツパツ。
これが俺のダイナマイトボディだ!と自己主張をするそのシルエットに、そのうえで悪魔騎士の仮面の無機質で冷たく攻撃的かつ感情を読ませないデザインが、不吉なアンバランスさを醸し出している。
先の布の服状態と比べれば、貧相な服の仮面のヤバイ悪党から、何もかもがすごく奇怪な仮面の怪人にジョブチェンジしているに違いない。
地獄の筋肉ジャージ仮面。
道ではち会えば何されるか分からなくてダッシュで逃げ出すべき異常者がここに誕生した。
琴の瞳に反射する異常な自分の姿を確認し、コウガはげんなりした気分になった。
本来こんな怪物は生まれてはいけないし、生まれてもすぐ葬り去るべきである。
しかし――このピチピチジャージは琴がコウガの為にわざわざくれた物。
そもそも自分が規格外に大きいためにきっとこんな状態になっているのだ。
琴が良しと言うのにゴチャゴチャ言うなど道理に反するとコウガは思う。
(修業が足りないな、僕は。こんなことで心を乱して……。よし、いいように考えよう。こんな変な恰好の男が近くにいるなら、かわいい神楽坂さんでもナンパされることはないだろう。今日楽しく遊ぶための工夫なんだこれは、うん)
自前の切り替え、割り切りの良さで現状を無視することをコウガは選んだ。
現実逃避である。
そもそもこのバーサークブラッドをはじめたのは、別におしゃれをするためではない。
「ま、ま、僕の恰好はこれで良いとして――神楽坂さん、僕、早速モンスターと戦ってみたいんですけど、どうすればいいんでしょうか?」
ーー修多羅荒我はこのゲームに『全殺流』で戦う相手を探しに来たのだ。
暴力大好き、戦闘大好き、気軽でジャンクな小説を目指しております。
金、女、暴力暴力暴力、くらいの割合の作品になる予定なのでよろしくお願いいたします。
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