荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます   作:機動兵士ゴリアテ

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こんにちは、世界

 

 キラキラと光る銀髪を持つ白い少女。瓦礫が散乱し荒廃した世界には似つかわしくない異物。そんな少女が白い部屋の中で、緑色の液体で満たされているガラスのような素材で構成された筒の中にいた。コポコポと音を立てる筒の中で瞼を閉じているその姿からでも分かる端正な顔つき。

 

 これは明らかに何かのイベントだと当時の僕は確信していた。そう、だから仕方ない。後から事の顛末を聞いたアイツに「脳筋?」と呟かれるわけが無いんだ。

 

「ふっ!」

 

 そんな事を当時の僕が考える訳も無く装備していた刀を振るう。刃は特に抵抗も無く、筒を叩き割った。ガラスは砕け散り、中から緑色の液体が音を立てながら流れ出る。

 

「これでイベント時短できるだろ。ヨシッ!」

 

 何がヨシなんだろうか? 今思い返してみても僕、馬鹿だろう。けどこれが結果的にこの行動が良い方向に向かうというのもまた事実。「むぅ……」と呟くアイツの声が隣から聞こえてくるけど、気のせいに違いない、うん。

 

「おーい、早く起きてくれよー。さっさと起きて僕にアイテムでも金でも何でもいいから渡してくれないか?」

 

 ペチペチと少女の頬を叩きながらアイテムの無心をする。……だって仕方ないじゃん? 僕はこれをゲームだと思ってたわけだし? 更に言えばハマってたわけだし? どうでもいいイベントはスキップに限るじゃん? そう、だから僕は悪くない。

 

 カチャリと何かを構える音がした。

 

 あっ……いやちょっとだけ悪かったかも。めっちゃ反省してる。

 

「……なんか言葉が軽い」

 

 いやいや、ほんとほんと。

 

「……ギルティ」

 

 いやいやいや! 本当だって! 反省してるよ、本当に。……だからさ、そのこちらに向けている銃口、降ろしてくれないか!?

 

 たまらず僕が振り返るとそこには白い少女が一人、ジト目を添えた不満気な顔つきでこちらを見ていた。その姿はディスプレイに映る僕がちょうど叩き起こした少女そのものだった。

 

◇◇◇

 

 「Virtual Reality」と呼ばれるそれは革命的な進歩を遂げていた。前時代のVRと違い、完全没入型へとステップアップしたソレは従来のゲームとは比較にならない市場の拡大を見せた。MMORPG、FPS、SLG、ADV等々、その数は止まる所を知らない。発売して直ぐに爆発的な人気を獲得した没入型VRに人々は、のめり込んだ。勿論僕もその一人。今まさに強敵との戦いに心を躍らせていている。

 

 地を震わせる轟音が鳴り響く。巨大な黒き龍がこちらを威嚇するように咆哮を上げる。

 

「タンク、タゲよろしく!」

「魔法職、打ち合わせ通りに!」

「DPSは強化ポーション飲んどきな!」

 

 今、僕がプレイしているのはとあるMMORPG。その界隈の中だと一番大きいと言って差し支えないタイトルだ。現在はエンドコンテンツである深獄龍アビスの討伐の真っ最中。深獄龍アビスを討伐する為に今までプレイヤーの誰もが途轍もない時間と労力、それに資金を費やしてきた。僕も今、深獄龍アビスを討伐せんとこの場に参加している。

 

「アビスの溜めモーションだ! 全体攻撃が来るぞっ!」

「ヒーラー。防護魔法とリジェネ、頼む!」

 

 あっ、チャンスだ。僕は衝動に身を任せ、駆け出した。

 

「おい、ロウ! 突出するな! さっさと防護魔法の後ろに隠れろ!」

 

 溜め攻撃モーションと同時に前に出た僕に静止の声が投げかけられる。けど、僕は敢えて静止を振り切ってさらに一歩前に出る。

 

 深獄龍アビスの口が光り、どす黒いブレスが繰り出される。広範囲攻撃であるブレスだが、恐れるべきはそのダメージ量。聖職者の防御バフが無ければ即死は避けられない代物。しかも一撃でも喰らえばバフを重ね掛けたタンク職であろうが体力の7割は確実に削られる明らかな調整ミス。そして深獄龍のブレスは近距離であればある程威力を増す代物で、実質的に距離を確実に取らなければ当たれば即死という理不尽極まりないもの。

 

「ちっ、独断専行がよぉ……ヒーラー、蘇生魔法、用意だ」

「俺らは前に出て、ヘイト買う用意はしとくわ」

「……まぁ、いらん世話であるが、一応な」

「え? 大丈夫なんですかっ!?」

 

 深獄龍の攻撃が一瞬で目前に迫る。これに当たれば即死。それは変えられない。しかし僕にはこれがチャンスに見えたんだ。僕は携えていた刀を引き抜きながら、ブレスを切り裂き、受け流し、躱しながら前へと出る。しかしそれでも残り体力は僅か。直撃判定は避けたけど、どうやらエフェクトの判定が残っていたみたい。

 

「え?」

「はぁ、人外がよぉ……」

「相変わらずというか、何というか……ブレス着弾するぞ、対ショック用意!」

 

 やっぱり、深獄龍のブレスは全体攻撃ではあるが避けられない事はない。調査部隊が言っていた通り、黒龍のブレスはいくつもの点が集まった集合体。当たり判定が付随した点を刀で切り裂くことが出来ればブレスの当たり判定に穴が発生する。だからブレスからダメージを最小限に抑えることができた。

 

 プシューッという音と共に深獄龍アビスが蒸気を放出する。深獄龍の全体攻撃の後に発生する硬直モーション。これを待っていた。制作者はどんな頭をしているのか、深獄龍はかなりの曲者なのだ。まず前提として攻撃後の硬直モーション以外に攻撃したところでダメージはほぼ通らない。おまけに硬直モーション直後であろうが、魔法攻撃に対して絶対的な耐性を有しており物理DPSと比べると天と地ほどの差がある。

 

「さっさと死んでくれないかな、アビス。僕の時間の為にもね」

 

 僕がギルドのみんなより先に深獄龍に駆け寄り、片っ端から物理スキルを喰らわせていく。十八連撃、三連撃、両断、九連撃。出来るだけノータイムで物理スキルを繋げられるようにして深獄龍へとぶち当てていく。今までの戦闘と違い、確実にゴリゴリと黒龍の体力は削られていくが、味方が到着し始め攻撃の手が増えていく。しかし人数とは裏腹に体力の減りが目に見えて遅くなっていく。

 

「やっぱ、時間経過がきついな。みんな僕みたいに前に出てブレス避けた方がいいよ」

「お前みたいにアレを避けられるはずが無いだろうがっ!」

 

 深獄龍の硬直モーションはブレスを放った瞬間、一番防御が下がっている状態に陥る。しかしそこから加速度的に防御が回復していき、遂には元の糞仕様へと戻っていく。だからブレスの瞬間こそ、前へと出る瞬間なんだ。

 

「アビスの飛翔モーションだ! 一度距離を取れ!」

 

 少し時間が経つと退避の指示が飛んでくる。今回は僕も大人しく退避する。空を飛んでいる敵に対して近接物理DPSは無力であるが故に。……やりようが無い訳じゃないけども。

 

「ロウっ! お前、いい加減にしろよ!? なんで独断行動が過ぎるんだ!」

 

 リーダーがかなりカンカンの様子。リアルの身体モニタリング結果を忠実に表すように端正な顔つきをしてるリーダーの顔が真っ赤だ。

 

「僕なら耐えられる」

「ぐっ……」

「僕なら一番削れる」

「……」

「僕なら効率良く、どのギルドよりも早くアビスを殺せる」

「くそっ! 分かった、分かったさ! 俺の負けだ。分かったからさっさと深獄龍、殺るぞ!」

 

 うん、リーダーなら分かってくれるって信じてた。大好き。

 

「っ! クソがっ! さっさと行ってこい!」

 

 飛翔していた深獄龍は魔法職部隊が頑張って落としてくれたみたい。なら深獄龍、もう一度僕と殺り合おうか。刀を片手に握りしめ、どす黒い光を放つ怪物へと一歩足を踏み出した。

 

◇◇◇

 

 あれから一時間。最初でエフェクトの当たり判定も理解したので、特に体力が瀕死付近に行くことも無くなった。だからこそ深獄龍アビスが死ぬのは必然だ。黒き龍は最後に雄々しく咆哮を上げると力なく崩れ落ちた。体力ゲージも全てが削り切れた。多大なドロップ品、経験値が流れ込み、通知がうるさいぐらい流れ込んできている。恐らく運営が想定していた攻略時間よりもだいぶ早いんじゃないかな、と漠然と思う。 結構、満足だ。

 

 達成感と共に、ふぅーっと息を吐きだす。深獄龍は僕がやって来たゲームの中でもかなりの強敵だった。それ故にとてつもない労力、戦闘、経験。全てが僕の中で楽しく思い出せる。気づけば目の前でギルドの皆がお互いを称え合っている。

 

 うんうん、殺せてよかったよ。本当に。……だけど、僕の心にはぽっかりと穴が開いたような感覚がある。深獄龍アビスという目標が無くなり、敵として登場するエンドコンテンツ全てを終えたとあってはそうなっても仕方ないのかもしれない。そうだなぁ……するか!

 

「まあ、何とかなるだろうし、ヨシッ!」

「んー? どうしたんだー。ロウ?」

 

 同じDPSとして動いていた一人が僕に聞いてくる。

 

「いや、ちょっとね」

 

 うん、考えれば考える程、この考えがいいものに思えてきた。ならばリーダーに話さないと。即断、即決、即行動!

 

「なぁ、リーダー?」

「俺らは最強……あ? どうしたんだ、ロウ?」

「あ、いやね。物は相談なんだけどさ」

「おお? ロウが相談とは珍しいじゃないか。なんだ、言ってみろ」

 

 僕から何か話すとあってリーダーは珍しそうに僕に問い返す。

 

「いや、僕らってエンドコンテンツを全部終わらしたじゃん?」

「あー、まあ確かにそうだな」

 

 それがどうしたと言わんばかりのリーダーの顔。……そっか、リーダーは強敵を倒し尽くした寂しさとは無縁なのか。残念だな。

 

「だから、僕……」

「だから?」

「僕、このゲーム引退するわ! じゃあな、リーダー!」

「はぁっ!? あっ、おま、ちょっ!」

 

 アイテム全ドロップのボタンと共にブチリと切断。音が切断されるような音を最後に静寂が戻ってくる。五感はVRからリアルへと戻される。

 

 まず始めに感じたのはツンとした薬の匂い。そして遅れてやってくる体の、明らかに命を削る類の痛み。もう痛みとの付き合いは長いとはいえ辟易としてしまう。

 

「こんにちは、クソゲー」

 

 つるりとした感触のヘッドギアを外すと途端に視界に広がる白い部屋。右に目をやれば点滴に繋がれた僕の右手が。左に目をやれば僕の脈を表示し続ける大きな機械。そして突き付けられる現実。

 

「現実はどうやったって糞だ。どんなに努力しようが意味がない」

 

 先天的な体の虚弱。そして僕を今も襲い続ける複数の病魔。余命はあと何年か。そう言われた時、僕は全てが無意味に見えた。これまで頑張ってきたリアルの全てが崩れ去るような音がした。

 

 僕の名前は山田吾郎。今の生きがいは強敵を見つけ、殺し、僕の存在を刻みつける事。

 

「さてと、次のゲームでも探すか」

 

 ヘッドギアを頭につけ、内蔵された検索エンジンを使って次のゲームを、強敵と戦えるようなゲームを探す。なんだかメッセージアプリがうるさいが無視だ、無視。

 

 病院で検査を受け、投薬をされ、ゲームを探す。そんな日々の繰り返しだった。

 

 そんな感じでゲームを探していた時、ふとゲームライブラリの中で目に留まったものがあった。

 

『Defeat the unknown』

 

「ん? なんだ、このゲーム。入れた覚えなんて無いぞ?」

 

 直ぐに検索エンジンを使ってこのゲームを検索する。しかし出てくるのは英訳や映画、本などゲームと関係ないものばかり。ましてやウイルスなのかとも疑ったが、そんな情報も出てこない。

 

「……へぇ」

 

 ゾクリとした感覚。インストールしていないのにいつの間にかインストールされていたどう考えたってヤバい代物。けど、どうせ後何年かの命。何をやったって誰の気にも止められないだろう。

 

「なら、やるしかないよな」

 

 ゲーム起動画面を起こし、『Defeat the unknown』を選択する。

 

「ゲーム、スタート」

 

 本人確認の為の音声認証を終えた途端、視界が暗くなると同時に突如現れるウィンドウ。

 

「ん、なんだ? ……貴方は世界を救う覚悟がありますか?」

 

 そこに書かれていたのは世界を救う覚悟はあるかという問い。

 

「世界を救う? いいじゃん、雰囲気が出てて」

 

 ウィンドウには”yes”と”no”の選択肢のみ。なら、答えは簡単。

 

「勿論、世界なんて救ってあげるよ。どんな敵だって倒してみせる」

 

“yes”の選択肢を押した僕は『Defeat the unknown』の世界に足を踏み入れた。

 

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