荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます   作:機動兵士ゴリアテ

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記憶

 

 四年前。「Virtual Reality」と呼ばれる分野が加速度的に成長していた頃。僕は戦闘を行うとあるゲーム大会に選手として出場していた。ジュニア部門とはいえ、その大会はゲームタイトルーー「versus gloria」の中では最大のもの。

 

 僕は昔からゲームが大好きだったことが幸いして、かなりの実力を持っていたと思う。上澄みの中でも最高といって差し支えない実力、周りもサポートしてくれる最高の環境だった。

 

 大会として練習に練習を重ね、大会の中でも頭一つ抜けたような実力。それは結果として現れ、連戦連勝を重ねていた。全てが順調と言って良かった。

 

 大会も進み決勝戦。慢心も無く敗北はあり得ない。

 

 下馬評では僕が勝つとの声が多かったし、実際相手のプレイを見ていても勝てると思っていた。誰もが僕に注目し、僕は実力を証明する為に努力した。

 

 だが、負けた。最後の最後、勝利が確定する寸前で僕の体が限界を迎えてしまったらしい。

 

 大会を終えた後、病院で分かった事だが僕はもうこのゲームを、満足にプレイできるような体ではなくなってしまった。

 

……それは別に良かった。まだ激しい、コンマ秒単位の繊細な動きが求められるゲームが出来ないだけ。

 

 まだ別のゲームが出来るはずだ。僕は再起しようと努力した。

 

 だが僕は満足できなかった。一瞬の隙が敗北へと繋がる神経を擦り減らすようなひりつきという僕が求めていたものが得られなかったが故に。

 

 それに誰もが注目し、僕が最強を証明するという図式。それが僕の中で肥大化していたのかもしれない。

 

 一度敗北をした僕はレッテルを貼られ、誰にも見られない。大事な場面で敗北をした僕を誰も必要としなかった。

 

 まあ、思った事は単純だ。ふざけるなと思った。僕は最強に憧れるし、僕は最強だ。

 

 だがそれを証明する手段が今の僕には無い。

 

 ひりつきも証明する手段も無いゲームへ興味が薄れていった。

 

 そんな中、先生におすすめされたのが「Virtual Reality」というゲーム媒体。体への負荷は無く、意識さえあればラグが無くひりつく勝負が出来る。

 

 そんな感覚に僕は病みつきになったんだ。そして僕の「僕が最強を証明するという図式」が肥大化した成れの果て。

 

 肥大化した願望の発露が強敵を打ち倒すという行動に変わっていったんだ。

 

 それが僕、山田吾郎。今の生きがいは強敵を見つけ、殺し、僕の存在を刻みつける事。

 

 

◇◇◇

 

 

 そして今、Defeat the unknownをプレイしている僕の目の前にはある筈のない生家があった。

 

 どんなに無惨に破壊されていようと記憶を刺激するそれ。

 

 何か爆撃でも受けたように二階は崩れ落ち、コンクリートが剥き出しになって焼け焦げている。

 

 あまりに凄惨な風景。たまに戦争もので見るような感じの家に様変わりしている。……他はどうだ?

 

 パッと周りを見てみる。僕の家があるのなら他の家も同じなのかと。しかし。

 

「……何か違う気がする」

 

 当たり前だが他の家はそこまでハッキリと覚えているものでは無い。

 

 だがそれを加味しても周りの家は違うような気がした。

 

 それにこの辺りは特に攻撃としくは爆撃が酷かったようだ。僕の家らしきもの以外の家も悉くが損壊が激しい。

 

 故に判別を行いたくても判別は極めて難しい。特にコンクリート造りの家は残っているが、木造住宅の家に関しては損壊が酷すぎる。

 

 僕の家だって庭だったものと家の残骸、そしてそれを囲う塀のお陰で……。

 

「……あれ?」

 

 今気づいた僕の家と違うたった一つの、だが確実に違う点。それは。

 

「狩咲?」

 

 奇跡的に残っている塀に埋め込まれた表札の名前だった。

 

 当たり前だが僕の苗字は山田だ。狩咲という苗字とはまったく縁が無い。

 

 で、あるのならば。

 

「僕の家じゃ、ない?」

 

 表札のみが僕の記憶と違う。だが、それこそが僕の家じゃない事の証明でもある。

 

 そうだよね、普通。

 

「普通に考えれば僕の家がゲームに登場する事の方がおかしいもんね」

 

 最後に家を見たのが四年前。であるのならば、記憶は少しづつ朧気になっていく。

 

「偶然、似たような家が出てきただけ? それを僕が誤認した?」

 

 口に出して意味を咀嚼すればする程にそう考える事が正しい気がしてきた。

 

 もしかして僕の独り相撲なのか。そう考えると虚しくなってきた。

 

「……とりあえず中に入るか」

 

 ここにいても仕方がない。僕は脳に直接訴えかけてくる感覚に従い、ポータルの元へ向かう事にした。

 

 ジャリ、ジャリとコンクリートの欠片や瓦礫を踏みしめながら家の中へと入る。

 

 半壊した家にはドアは無く泥棒がいれば入り放題だろう。尤も何も取れるようなものは無いだろうが。

 

 一応中と言えるだろう玄関に入った。しかし中は丸焦げ。下駄箱らしきものの中には焦げ付いた靴が何足か。

 

「こんなのアイテムになるのか?」

 

 手に取ってみて分かる。焼け焦げた靴は慎重に持たないと今にも壊れそうだ。

 

 サクラに事前に言われてた通りにゴーグル型の情報端末を操作してアイテムかどうか確認しても反応無し。

 

「レアアイテム、なんか無いかなー?」

 

 わざと言葉に出して気分を紛らわす。……でもまぁ、どうでもいいか。どうせ後、何年かの命だし。

 

 ポイッと靴を放り投げて進むことにする。

 

 廊下を渡ってリビングに着いた。二階が崩れ落ちているせいか、天井に穴が空き光が差し込んでいる。

 

 リビングをぐるっと見回せばインテリア等も焼け焦げてほぼその意味が無くなっている。

 

 ただ、そのインテリアの残骸らしきものの配置は僕の記憶にあるものとはまるで違う。

 

 テーブル、椅子、棚、テレビ。全てが砕け、焼け、壊れているが僕が使っていたものでは無い。

「やっぱり僕の知ってる部屋じゃないな」

 

 そのまま進んでいくと瓦礫に埋もれた階段があった。脱出ポイントの反応は二階から来ている。外から登ってもいいとは思うが……。

 

「ふんっ!」

 

 ビルダー弐式の膂力を活かし階段を塞いでいた瓦礫を引きずり出す。

 

 行く手を塞ぐものが無くなった階段を上がり二階へと上がる。既に二階は一階以上に酷く損壊している。

 

 部屋という区切りは既になく、二階があったんだろうなという事が分かる程度。天井は抜け、外と中を区切る筈の壁は焼け焦げた残骸が残るのみ。

 

「これが説明にあった脱出ポイントか」

 

 そんな中、拠点にあるポータルに似た少し簡素な作りのモニュメントがそこにはあった。

 

 損壊が激しい民家には到底似つかわしくないそれ。周りは焼け焦げ、埃にまみれているというのに脱出ポイントは汚れてもいなければ壊れてもいないが故に際立つ異物感。

 

 そこにある筈のないものがあるという違和感が凄い。

 

 そして一歩、脱出ポイントに近づいた時の事だった。

 

………………サザッ。

 

 テレビでたまにある砂嵐のような音がしたかと思うと透き通るような女性の声が聞こえてきた。

 

『よくぞここまでお戻りになられました、ロウ様。初めての崩域探索はいかがでしたか?』

「……サクラか」

『えっと? どうかなさいましたでしょうか?』

 

 こてん、と首を傾げるサクラ。

 

「いや、なんでもないよ!」

 

 ニコッと笑って底にある感情を覆いきる。別にこのゲームが嫌いな訳じゃない。ただ少しこのゲームが気味悪いだけ。

 

 ならばそれぐらいは飲み込んでこの神ゲーを楽しもうじゃないか。それぐらいの気概が無ければ後、数年やっている筈がない。

 

「それより、ほら。拠点に繋げて欲しいな」

『承知しました、ロウ様。これから旧軍区画廃棄領域に繋げます。足元にご注意下さい』

 

 空間が歪み始め、現れるのは青い光を放つ穴。中心は暗く、やっぱり不思議な色彩をしていて見るのは二回目だけれど慣れそうに無い。

 

「おっけー! ありがとうね、サクラ!」

 

 サクラに感謝は忘れない。NPC的な好感度的なシステムもあるかもしれないし、こういうのも大体ゲームの鉄板ネタである。

 

『え……は、はい。私はロウ様のナビゲーターですから』

 

 なんだかキョトンとしたサクラの顔が印象的だった。そんなサクラを見ながら僕は脱出口に足を踏み入れる。

 

『……あっ』

 

 そんな訳で僕の初めての崩域探索は終わった。それはDefeat the unknownが神ゲーだと再認識できるものではあった。

 

 だがなんだか得体の知れない気味悪さというものを内包している事を僕はなるべく考えないようにしていた。

 




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