荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます 作:機動兵士ゴリアテ
「ん? ここは……?」
黒い空間から一転し、視界に飛び込んできた白い光。一瞬の時間の後に目の前の光景が見えてきた。
「へー、なんか幻想的だ」
初めに目を引いたのは苔がびっしりと生えた白と緑の壁に青空。それから水が流れる用水路。何かに使われ、そのまま朽ち果てたような印象を受ける場所だった。
「さてさて衣装はどんな風に……って、共通アバターじゃない!?」
自分の衣装を確認しようと両手に目をやれば、そこにあったのは慣れ親しんだゲームアバターの屈強な腕なんかでは無かった。ラバースーツのような何かに包まれた白く、細く、吹けば飛びそうな腕だった。
「まさか僕の身体データが反映されているのか?」
通常のVRゲームにおいて当たり前だが、実際の容姿が使われることは無い。どんなゲームであっても共通アバターを設定しておけば、キャラクリエイトをとばしてゲームをプレイすることが出来る。その為いつも僕は共通アバターを使用していた訳だが、このゲームは……。
「考えても仕方ない……まずは探索か」
頭を振り思考を止める。いくら考えても答えの出ない意味のない事。そんな事に時間を使うよりゲームに集中することにした。
しかし少し待ってみても何もポップアップやウィンドウ、それに案内役が出てこない。ならばここから何かしら情報やアイテムを得なければストーリーが始まらないんだろう。
「さっさとイベント進行したいんだけど、何を見つければいいんだろうか?」
という事で、個の朽ち果てた遺跡らしきものを見て回ってみる。やっぱり苔はどこを見てもびっしりとあって、他にも草木が床を割って生えてきている光景は長い年月が経っている事を感じさせる。
しかしよくよく注目して見てみると苔や草木に隠れているが何か機械のような物が結構置かれている。
「こういうのってボタンを押したら何かが始まるのがテンプレなんだけど……反応なしか」
適当にポチポチとボタンを押してみても反応は無い。いやはや困ったものである。さっさと進まないと時間を浪費してしまう。ちょっとだけ早歩き。すると広場に出たようで、開けた場所に着いた。
「ん? なにこれ、モニュメント?」
中央に存在するモニュメントとも、台座とも見て取れる白い立方体。上面に取り付けられている水晶体を中心に幾何学的な紋様が施されたソレは明らかに他とは違う雰囲気を醸し出している。
僕はモニュメントをもっと近くで見ようと歩き出す。すると何かが足に引っ掛かり、カランと蹴とばした音がした。
拾い上げたものをよく見てみれば、ちょうど手首に付けられそうな銀色のリングだった。物は試しという事でリングを左手首に付けてみる。カチッという音と共にリングが嵌った。
「お?」
リングに幾何学的な光が一瞬走り、光が伸びた。光の先に目を向けるとそこにはモニュメント。リングから発せられた光は水晶体に向けて伸ばされていた。
今度こそモニュメントに近づいてみれば、今度はモニュメントに光が宿る。水晶体を中心に幾何学的な紋様をなぞる様に光は広がる。そして光はその勢いをそのままに広場を伝い、光がそこら中に広がっていった。
突然、ウィンという電子音が鳴った。音の鳴る方に目を向けてみれば空中に映像が映し出されている。
『Defeat the unknownの世界にようこそ! これから貴方様は探索者として荒廃した世界を探索し、装備を強化し、技術を鍛え、これから迫りくる未知の敵に備えていただきます』
モニターに映るのは桜の模様が特徴的な着物を身に纏う端正な顔つきをしたピンク髪の女性。
『私は貴方様のナビゲーターを務めさせて頂く事になる旧軍区画廃棄領域管理AIのサクラと申します』
自身をAIだと名乗る女性はニコリと笑い、話を続けた。
『登録名ロウ様には初めに簡単な説明を、そして戦闘技能シミュレーションが実施されます』
「へー、戦闘系のゲームなのか。これ」
『イエス、と回答させて頂きます。Defeat the unknownでは崩域と呼ばれる領域を探索し、崩域に生息する敵性存在の討滅、補給物資の収集、廃棄領域の修復、強化が主な行動目標として挙げられます』
なるほど。つまりはモンスターを狩って、アイテムを集めて、拠点を作るゲームというわけか。どんな戦闘システムなのかはまだ分からないけど、エンドコンテンツのような強い敵と戦える機会もありそうだ。これは楽しくなりそうだと思わず口を開けてニヤリと笑う。
『……理解をして下さったようですので話を進めます。Defeat the unknownには様々な敵性存在、装備、仕様が存在しますが、それらについては戦闘シミュレーションを用いて理解を深めて頂きます』
「おっけー。ならその戦闘シミュレーションとやらはどうやったら出来るのかな?」
『ご安心を。ロウ様が現在付けているリングにお触れ下さい』
僕はサクラに促されてリングに指先を触れさせる。すると次の瞬間、暗転。今までいた白い遺跡が消え去り、今にも崩れそうな部屋の中に僕は居た。
「ここはどこ?」
『ご安心を、ロウ様。拠点の機能である戦闘技能シミュレーションを開始させました。現在、ロウ様は虚数空間で構築された借り物の肉体を用いて存在しております』
「借り物の肉体?」
言っている事は理解できる。ようするにチュートリアルだろう。しかし借り物の肉体という言葉の意味が分からない。
『イエス。貴方様の肉体は旧軍区画廃棄領域に存在します。戦闘シミュレーションとは言え、実際に敵性存在のデッドコピーが存在する為です。Defeat the unknownでは貴方様の肉体はただ一つのみ。もし貴方様を構成する命そのものが尽きればDefeat the unknownへのアクセス権限を失うでしょう』
「ほーん……ってまじ!?」
『大マジ、でございます。故の廃棄領域、故の説明、故の戦闘技能シミュレーションです』
「なるほどなぁ」
いやはやとんでもないゲームである。勝手にダウンロードされるし、勝手に身体データの取得がされているし、挙句の果てには一回でもミスって死ぬとゲームを二度と遊べなくなるらしい。本当に胡散臭くて危険そうだ。……だけど。
「そこがいい!!!」
『疑問、を提示させて頂きます』
「あっ、いやいや気にしないでいいよ。こっちの話だから」
『……承知しました。貴方様のこれまでの戦闘データをもとに装備の選定は済ませております。装備内容に関してはリングに触れることにより確認を行えます』
「どういう……あぁ、そういうこと」
どういう事なのか気になって触れてみたら分かった。僕が現在身に着けている装備の名称、内容、使用方法などが頭に入ってきた。僕が身に着けている装備は近接タイプのようだ。特殊カーボン製の軍刀CS-16を筆頭に、ただの作業着のようにも見える土木作業用のサイバネティックスーツビルダー弐式、第八区画治安部隊で使用されていたという回転式拳銃カラシスM01、バックパック、止血帯、鎮痛剤などがあった。
『それでは戦闘技能シミュレーションを始めさせて頂きます。ご武運を』
そこから始まったこのゲームで初めての戦闘。
僕は今まで色々なゲームを行ってきた訳だ。その中でも強敵と呼ばれるものの類は全てを討伐してきた。だからだろうか? 僕はこの戦闘においても強敵を求めていたにもかかわらず、油断していたのかもしれない。
まさか、あんなにも死に近づく事になるとは思いもしていなかったのだ。