荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます 作:機動兵士ゴリアテ
ガタタッ、ガタタッ、ガタタッ、と鋼鉄で造られた獣が走る音がする。ヘッドセットによる増幅された音からして同じ階に存在する最低でも三体の獣がこちらに向かって来ている。それに上の階にも微かに足音がする。確定で敵性存在がいる。どうやって効率良く殺そうか。そんな事を考える暇もなく、足音の主が身に付けているゴーグル型情報端末によって強調表示されて見えた。
瓦礫が散乱し今にも崩れそうな廊下を疾走するのはネイチャーウェポンと呼ばれる敵性存在の模造品。ゴーグルによって視界の端にネイチャーウェポンの詳細な情報が表示される。
『先程からロウ様に接近しておられる生物、ネイチャーウェポンは生物の身体構造や習性の解析、模倣を行い成長していく機械生物です。現階層においては崩域に多く根付いている犬種型ネイチャーウェポン、通称”スカベンジドッグ”を採用しております』
そんなどこか呑気なサクラの語りを聞きながら戦闘が始まる。大型犬ぐらいの大きさを有する鋼鉄の獣が命を刈り取ろうと襲い掛かる。
僕は特殊カーボン製軍刀CS-16を引き抜きながら突出していた一体をサイバネティックスーツの稼働を限界値まで上げて頭から両断する。なにせ相手は鋼鉄で造られた堅物。僕が使っている特殊カーボン製軍刀CS-16で斬ろうにも切れ味が悪く、サイバネティックスーツの稼働率を最大限高めなければならなかった。
刀の軋む音と共に一体目を処理したが休んではいられない。直ぐに後続のスカベンジドッグが二体、勢いよく飛び掛かってきた。
「ふっ!」
右に一歩ずれる事で左側から飛びついて来たスカベンジドッグを避けつつ、返す刀で一体を叩き切る。勢いそのままに二つに分断された鋼鉄の体が勢いよく壁にぶつかる光景を視界の端に捉えつつ、最後の一体に体を向ける。
「ガアアアアアアッ!」
攻撃を避けれられたスカベンジドッグは刀を振り切った態勢の僕の隙を見逃さず、もう一度飛び掛かってきた。
「流石に慣れたよ、もう」
僕は思わずそんな言葉を漏らしながら、腰に装備していた回転式拳銃カラシスM01を引き抜き、引き金を引いた。轟音と共に軽い衝撃……とも言えない感覚。ただの作業着のようにも見える土木作業用のサイバネティックス―ツである筈のビルダー弐式はその性能を遺憾なく発揮しているようだった。
放たれた一発の銃弾は空気を切り裂きながらスカベンジドッグの顔面に命中。銃弾は弾かれるような事も無く、内部構造を破壊し尽くし機械生物と分類されるソレは行動を停止させた。
動きを止め、意識を集中させる。シンと静まった空間に微かに聞こえる物音。それは何か固いもの同士がぶつかり合っているような音。
「上に三体……いやこれは四体か? 左フロア側に固まってるな」
敵の増援を警戒しての集中。しかし同じ階にいる事は無い、もしくは潜伏しているが故に今すぐ戦闘になる事は無いと判断し、動きを再開させる。
『リングを残骸に向けて操作の実行をしてみて下さい』
サクラの声に促されて動きを停止させたスカベンジドッグ三体を見つめながら、僕の左腕に装着していたリングに手を触れる。すると僕の意を受け取ったリングが動かぬ鋼鉄の残骸に向けて光を放つ。
SF映画で見るようなスキャニングと呼ばれることになりそうな光を放つリング。すると残骸は賽の目のように青白い光と共に分解されていき、虚空に消えていった。
『おめでとうございます。ロウ様。先程のネイチャーウェポンから鉄等の資源および拠点稼働に転用可能なエーテルが微量に検出されました。今回の様に崩域では敵性存在からも資源や物資、エーテルと呼ばれる燃料を得る事が出来ます。ご留意ください』
リアルタイムで情報を更新していくサクラに思うところが無い訳ではないが……まあいい。
「……おっけー。つまり敵は殺し尽くせばいいんだよね。分かりやすくていいじゃん!!!」
敵は殺せば殺すほど良いらしい。なら出来るだけ殺せるように努力しようか。僕は更なる敵を求めて一歩踏み出した。
◇◇◇
暗い空間に灯る明かりが一つ。見渡す限り黒に塗りつぶされている中で唯一の灯であるディスプレイをジッと見つめる桜の模様が入った着物を着る女性。その女性が見つめる画面には戦闘に転用する事など考えられている筈が無い土木建築用のサイバネティックス―ツを用いて敵を惨殺していく一人の男だった。
山田吾郎――ロウが戦闘技能シミュレーションとして意識のみ転送されたソレは達成者がほぼいなかった代物。回数を重ねるごとにフィールドの拡張と共に指数関数的に敵性存在が増加、強化されていくプログラムであり、デッドコピーと言えるか甚だ怪しいもの。むしろオリジナルを超えていると言っても差し支えないものであり、第五元素たるエーテルを使用した対高純度アンノウン殲滅特化大隊の隊員達が専用装備を持ち出したと言われたもの。
しかしロウはそんな事実をものともせず夥しい数の敵性存在を捌き切っている。戦闘技能シミュレーションの初め、ロウはサクラからの説明を受けた。そしてサイバネティックス―ツの出力や設定を調整し、自分が最適に使えるだろう状態に今までゲームで培われた勘で持って行った。。そして初めての戦闘を淡々と処理したロウ。
ここでサクラが観測していた中で初めて感じた衝撃。それは戦闘を終えた直後。天井を突き破り襲い掛かってきたネイチャーウェポンに対応することが出来ずに死ぬかと思われたロウ。しかしロウの適応能力は完全にサクラの想定を超えていた。
結果としてロウが死ぬ事は無かった。今までのゲーム経験からあたりをつけたロウはサイバネティックス―ツの使い方、音による敵の位置の把握を行い、的確に敵性存在を斬り、穿ち、撃ち殺していった。
土木建築用のビルダー弐式の癖が強く繊細な制御が効きにくいサイバネティックス―ツを使い、特殊カーボン製軍刀であるが故の切れ味の悪さをものともせずにだ。
卓越した空間認識能力、天性の戦闘センス、異常なまでの適応能力の片鱗を感じ取ったサクラは感嘆の声を上げた。
「素晴らしい、と申し上げさせて頂きます。ロウ様、貴方は深獄龍アビスの実質的討滅者としてDefeat the unknownのテストプレイヤーに選出されました。―――もこの結果には喜ぶことでしょう」
後ろから音を最低限に抑えながら奇襲した蜘蛛型ネイチャーウェポン”タラクト”の一撃を寸前で気づいたが避けきれず、左腕に切傷を受けたロウ。しかし傷をものともせずに超反応を見せ、タラクトに斬撃を喰らわせる。
「想定外、と言うべきでしょうか?」
結果はタラクトが停止した。タラクトは本来、重装甲の戦車とも言われるような化け物。特殊カーボン製の刀と土木建築用サイバネティックス―ツでは装甲など叩き切れるはずも無かった。
だがロウは戦闘技能シミュレーションを進めていく過程で一つの気づきを得ていた。
『やっぱこれ、装甲を叩き切る必要なんて無かったんだな……それにしても痛たたた……。鎮痛剤、飲むかぁ』
スカベンジドッグやタラクトといった一山いくらの雑兵を叩き切るという事は装備が充実していれば簡単だろう。しかし現在の装備で何体も切り捨ているという作業を行うのは確実に不可能だった。
故にロウは敵の構造上、装甲が脆くならざるを得ない箇所を狙う事にした。
「関節の切断、タラクトを含めた戦闘技能シミュレーションにおいて現状装備の最適解と言える戦法であると評価します。これからロウ様には現状装備とは比較にならない装備を整えて頂く必要があるとは言え、劣悪な装備を用いた戦闘経験はロウ様の糧となる事でしょう。喜ばしい事だと認識します」
そう言うとサクラは手元に携えていた情報端末を用いてロウとの通信を繋げて口を開いた。
「ロウ様」
『ん? どうしたの、サクラ』
階層を制圧したロウは止血帯を用いて左腕の処置をしながらサクラからの呼びかけに答えた。
「次がラストステージ、と称される階層です。貴方様のご健闘をお祈りいたします」
サクラはただ祈る。ロウがこのゲームとされている世界において生き残ってくれる事を。ただひたすらに。