荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます 作:機動兵士ゴリアテ
戦闘技能シミュレーション最終段階。最上階層とされるフィールドは人が隠れられそうな大きさのコンクリートの支柱が何本も立ち並ぶ広大な場所だった。
僕は意識を集中させて刀をすぐにでも引き抜けるように体制を整えながら敵の居場所を探る。前の階層で上層の音を拾おうとしたが微かな音すら聞こえず、今までの階層のように数えるのがアホらしくなる数の敵がいるわけではないと分かり、少し拍子抜けした。しかしその油断は直ぐに幻想だったと思い知る。
それに気づいたのは偶然だった。意識を集中していたが故に空気中に舞っていた埃がほんの少し焦げるような匂いがした事が功を奏した。ジュッという音がした瞬間、匂いのする方に目を向ける暇も無く、ただ本能が告げる嫌な予感に身を任せ態勢を崩して避けようとした。
「ぐっ!?」
軽い衝撃と共に左半身に感じる熱量の奔流。くそ、被弾した。敵はどこだ!? 刀を抜いて応戦を!
しかし僕は刀を引き抜く事は出来なかった。今すぐにでも刀を引き抜けるように手を添えていた筈なのに。僕の右手は空を切った。
「あれ?」
刀を引き抜こうとするが、その手が得物を握る事は無い。落とした? この僕が!? 敵からの次の攻撃を避けるためにその場から飛びのきながら床に視線を走らせる。
「……まじかぁ」
それは幸運と言えるのだろうか? 確かに一撃目で僕は死ぬ事は無かった。しかし攻撃を喰らわなかった訳でもない。現実は分かりやすい。僕の視線の先、そこには……。
『戦闘技能シミュレーションにおけるラストステージ、しかし今までの階層とは全てが違います。今までが無限にも等しい軍勢を討伐する事が趣旨だとするならば。今回の敵は言うなれば究極の一の討伐と表現するのが妥当でしょう』
僕の視線の先には左肩部分が焼け焦げた刀を握る僕の左腕があった。パッと僕の左肩に目を向けるとそこにはあるべき腕は無く、ただ焼け焦げていた。だが幸運にも焼け焦げているせいで出血は無い。
「……少し痛いな」
嘘だ。認識した瞬間、泣き叫びたくなるほどの痛みがある。さっきから思ってたけど痛みがあるなんて明らかにVRゲームとして異常だ。鎮痛剤の錠剤を口に含んで嚙み砕く。痛みが直ぐに取り除かれることは無いが、泣き言は言っていられない。何故なら僕が倒すべき敵が今すぐそこにいるのだから。
刀は諦め先程の射線から逃れるようにコンクリートの柱に隠れて回転式拳銃カラシスM01を引き抜いて様子を伺う。異変を一つも見逃さないように視界を、聴覚を、匂いを、触角を。全てを集中させる。
だがそんな事をする必要など無いと言わんばかりに音が鳴り響く。
ガンッ、ガンッ、ガンッとコンクリートを鋼鉄で踏めしめる音がフィールドに響き渡る。明らかに敵の足音だ。サクラが究極の一と評していた敵が柱のすぐ向こうに!
『ロウ様、敵について解説をさせて頂きます。現在交戦している敵は全階層クリア者の思考ルーチンをコピーしたものであり、とある敵を討伐する為に編成された大隊の装備を劣化模倣したものです。大隊の中では標準を大きく下回るような装備ではございますが……率直に申し上げますとロウ様が現状装備で勝てる確率は0.1%を切っております』
「へぇ……」
『しかしご安心を、と言わせていただきます。今回は戦闘技能シミュレーションであり、何回でも死ぬ事が許されています。ですので安心して死んでください』
サラッととんでもないことを言っているサクラに何か言い返す前に敵の姿が見える。ゴーグル型端末が情報を表示させようとするが、敵がいるだろう場所はノイズで塗り潰され何も見えることは無い。
「邪魔だな」
ゴーグルを手に銃を握り締めた右腕で取り外し、ゴーグルを投げ捨てる。晴れた視界に映った姿に思わず笑いが込み上げてくる。
「……アハッ」
そこにいたのは暴力の化身とでも言うべき存在。ビルダー弐式とは全く違う、戦闘を行い相手の命を刈り取る為の殺戮機構を備えた悪魔。厚い装甲を身にまとい、身の丈以上の砲身を両肩に装備し、頭部に存在する赤い一つ目のセンサアイが光るソレは最早サイバネティックスーツなどでは無く、全身を覆うパワードスーツと呼ばれる相手の鏖殺だけを考えた代物だった。
『正式名称は”バロール・イミテーション”』
いやはや倒しがいの塊のような敵だ。
「まあ試すだけ試してみるか」
コンクリートの柱の裏から銃身を出し、右手で構えたカラシスM01をバロールの赤く光る瞳に向け、撃鉄を起こし引き金を引く事、三回。回転式拳銃であるカラシスM01に装填している弾数は八発。僕は左腕が物理的に使えない事もあり、銃弾の再装填なんて出来ない故に三発に留めて様子見をする。
対してバロールはロウを認識しても避けようとする挙動すら見られない。必然的にバロールはカラシスM01から放たれた三発の銃弾を自らのセンサアイで受け止めた。だが。
「あー、やっぱ火力が足りないよな。見た目的に」
銃弾は鈍い音と共に全て弾かれる。あー、どうしようかな。眼が弱いっていうのは割と鉄板だと思ったけど、そんな都合行くわけも無し。どう攻略するか、そんな事を考えた始めた時だった。
瞬間、熱が迸る。コンクリートの柱は沸騰しドロリと大穴を開けて溶け落ちる。
「やばすぎっ!?」
僕は溶け落ちたコンクリートの柱から飛び出し、別の遮蔽に隠れようと行動を起こす。するとバロールが遊びは終わりだと言わんばかりに動き出す。砲身が僅かに動き、こちらを照準に収めようとした。
「させるかっ!」
僕はカラシスM01に残っていた銃弾を赤い瞳に一発、今まさにこちらに照準を向けようとする両肩の砲身に二発ずつ打ち込む。バロールは避ける事なく放たれた銃弾を全て弾いた。
だが、僅かに意味はあった。照準をこちらに向けようとした砲身に衝撃が走り照準を補正する時間にコンマ秒単位で猶予が生まれる。そして赤い瞳に銃弾をぶつける事により目つぶしとして僅かに意味を無理やりにでも作った。おかげで。
「刀ゲットだぜ、って奴かな」
別の障害物の裏に隠れた僕は先程落とした特殊カーボン製軍刀CS-16を拾うことが出来た。ビルダー弐式の稼働を限界値まで持っていく事でどうにか間に合った。
そして次の瞬間、また放たれる熱の奔流。空中に舞っていた埃は焼け落ち、コンクリートは沸騰する。すぐに次の障害物に移動しようとしたが、少し嫌な予感がした。理由など無いが、あのような相手が何もしない訳が無いだろうというVRゲームで培った戦士としての勘。だからこそビルダー弐式の脚部稼働率を限界以上に引き上げる。
ギシッという音を立てるビルダー弐式を一瞬眺めた後、次の障害物の場所を見定めて大きく飛び掛かる様に飛び出した。グチャリと明らかに人体からしてはいけない音が足からした気がした。
だがすぐそんな事は言ってられなくなった。髪が焼け焦げたような匂いと熱をちょうど頭の裏から感じた。柱に飛び込んだ後に髪を確認してみれば少し焼け焦げている。ちらりと柱裏からバロールを確認してみれば、なるほど。
あいつは柱をどかす砲撃と僕自身を攻撃する砲撃の二段階に攻撃を分けたらしい。その証拠に先程は同じ方向を向いていた両肩の砲身が別々の方向を向いている。
次の行動をどうするか、それが問題だった。バロールは差行動を変え、僕の動きに対応してきた。今度も同じような動きをしようものならバロールはそれを見切って砲撃を喰らわしてくるだろう。
「それに……」
僕が視線を下に向けるとそこには血に濡れた僕の足、そして火花を散らすビルダー弐式の脚部があった。設定されていた稼働限界を遥かに超えた駆動はサイバネティックス―ツ本体、そして使用者である僕の肉体に大きな損傷をもたらしたようだ。確実に先ほどの速さを保った移動は不可能だ。
「だけどこのままっていうのも腹が立つな」
思い出すのはサクラが放った言葉。
『何回でも死ぬ事が許されています。ですので安心して死んでください』
ふざけるな。僕は勝利が欲しいんだ。負けを積み重ねた上での勝利なんてくそくらえ。僕は全てを喰らい、飲み干して上に行く。時間なんて掛けてられない。僕の命が尽きるその時まで、全てに僕を刻み込んでやる!
「なら……」
僕は行動を開始する。全ては勝利の為に。