荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます   作:機動兵士ゴリアテ

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戦闘技術

 

「私は一つ嘘を申し上げました」

 

 そう呟くのは桜模様の着物を纏った端正な顔つきの女。サクラは知ってか知らずか情報端末を握り締めながら画面に映るロウを見つめる。

 

「借り物の肉体、という表現は適切ではありません。実際にはDefeat the unknownにおけるフィードバックを低減させる、というものです。融通が効きやすい管理廃棄領域とはいえ、精神の移し替えという芸当が行えるのであれば先人達が敗北などする筈など無いのですから」

 

 ポツポツと自分に語り聞かせるように言葉を吐くサクラ。

 

「故にロウ様。貴方様は死んではなりません。戦闘技能シミュレーションの戦闘では死ねば死ぬほどにロウ様の体は蝕まれていく事でしょう」

 

 その時、背後から第五元素分裂光熱砲を受け左腕が吹き飛んだロウがディスプレイに映る。

 

「あっ……」

 

 最終階層におけるプレイヤーの負傷を起点とした行動管理規定に基づき、プレイヤーの精神変容を試みるプロセスが実行される。サクラは表情を一変させ、何も感じる事がないような冷徹な顔つきをした。情報端末を操作し、予め設定されていた言葉をロウに伝える。

 

「戦闘技能シミュレーションにおけるラストステージ、しかし今までの階層とは全てが違います。今までが無限にも等しい軍勢を討伐する事が趣旨だとするならば。今回の敵は言うなれば究極の一の討伐と表現するのが妥当でしょう」

 

 止めて。

 

「ロウ様、敵について解説をさせて頂きます。現在交戦している敵は全階層クリア者の思考ルーチンをコピーしたものであり、とある敵を討伐する為に編成された大隊の装備を劣化模倣したものです。大隊の中では標準を大きく下回るような装備ではございますが……率直に申し上げますとロウ様が現状装備で勝てる確率は0.1%を切っております」

 

 ……止めて。

 

「しかしご安心を、と言わせていただきます。今回は戦闘技能シミュレーションであり、何回でも死ぬ事が許されています。ですので安心して死んでください」

 

 止めて!

 

「正式名称は”バロール・イミテーション”」

 

 設定された行動を終えたことにより、行動管理規定による束縛は解除された。しかしサクラは何かに耐え切れず、膝から崩れ落ちた。

 

「これで九人目でしょうか?」

 

 戦闘技能シミュレーションに挑戦したテストプレイヤーの人数は。

 

 テストプレイヤーの選定条件は―――が指定したVRゲームタイトルの猛者という現代では最高峰の戦闘経験を持つ者達。誰もが最終階層までは差はあれど辿り着けた。だが。

 

「誰も乗り越える事は出来ませんでしたが……」

 

 試練に挑んだ誰もが苦痛、恐怖、フィードバックに耐え切る事は無かった。―――にはシミュレーションの改善を何度も申し入れた。だが―――が聞き入れる事は無く、テストプレイヤーの選考が行われる事となった。

 

 天性の戦闘センス、経験、努力、その全てを無に帰す圧倒的な性能差。それをバロール・イミテーションは有している。例え、オリジナル相手にバロール・イミテーションを百体単位で投入した所で鎧袖一触されてしまうとしても。戦闘技能シミュレーションのレギュレーションではプレイヤーの圧倒的な不利は確実となってしまう。

 

 そんな結果を見ても―――は言う。

 

「これでもぬるい。ぬるすぎる。奴らと比べればこんなのは児戯に等しいよ。最低でもこれをクリアしてくれなきゃ、目覚めてくれないと使い物になる筈がない」

 

 ―――は嘲笑うように言葉を重ねた。

 

「ああ、でも資格が無くてもいいのかもね。力の種を撒き散らせばそのうちの何人かは目覚めるでしょ」

 

 圧倒的な不利、苦痛、恐怖、今まで行ってきた全てが否定されても進み続ける精神性を持つ傑物。もしくは種から芽が出てくれる事を望む―――。

 

 そんな状況でサクラは何も出来ない自分を歯がゆく思っていた。しかし自分が出来る事はなく、ただ―――が選定した人間のナビゲーターを務めるだけ。なかばその状況に諦めという新しい感情を覚えようとした時のことだった。

 

『だけどこのままっていうのも腹が立つな』

「え……?」

『なら……』

 

 戦況は動く。バロール・イミテーションは第五元素分裂によって生じる熱量を砲身に充填し、思考ルーチンの指令により今度こそ柱の裏に隠れる敵対者を確殺しようとしていた。まずは左肩の砲を用いてコンクリートの柱を溶かし、もう一門の砲で飛び出した敵を撃ち殺す。先程のような速度で動くことは不可能だとセンサアイによる観測を元に思考ルーチンが思考したが故に。しかし次の瞬間。

 

 バッと何かが飛び出してきた。センサアイが観測、思考、行動に移すまでの時間。取り敢えず砲によって焼き払う時間。その二つを天秤に掛けた。思考ルーチンは引き延ばされた時間の中で悩む。

 

 これが完全にプログラムされたシステムなら自身が構築されたアルゴリズムに基づいて判断をすぐに出したであろう。しかし今考えているのは、とある人間の思考ルーチンを模倣したプログラム。故に悩んだ。

 

 それが一瞬の隙へと繋がった。そして選んだ判断はとりあえず焼き払うというもの。相手は手負い、戦力比はこちらがはるかに優勢。時間がかかったとしても相手はジリ貧。ならば全ての策を打ち破り、相手を磨り潰せばいいという判断。

 

 もう一門の砲を飛び出した物体に向けて焼き払う。エーテルの分裂によって起こる熱量の奔流を受けた飛び出した物体は抵抗なく、一瞬で焼き消えた。

 

 しかし次の瞬間、ロウが動いた。先程のような限界を超えた駆動ではないが、かなりの速度で。ロウの背にバックパックは無く、身軽さを感じさせる動きでバロール・イミテーションに接近していく。

 

 バロール・イミテーションまで残り、三歩。

 

 ぐんぐんと距離を詰めていくロウ。バロール・イミテーションは再び砲を構えようとはしなかった。速度と距離から再び砲撃を行う時間が無いと判断した為だ。

 

 刀の間合いまで、残り二歩。

 

 砲身が取り付けられた装甲、そしてその他各種装甲が切り離され近接戦闘に適した形態に移行する。それは重戦車のような姿から細身の騎士へと姿を変えた。

 

 残り一歩。無理な挙動の連続で足から血が迸る。

 

 細身の騎士は左肩に存在する突起を右手で掴んだ。すると音を立てながら装甲が切り離される。切り離された装甲は姿形を変え、レイピアともサーベルとも見て取れる異様な刀身を持つ剣となった。

 

 接敵。

 

 バロールによる迎撃から戦闘は始まった。勢いそのままに突っ込んでくるロウに対してバロールが疾風の如き突きを放つ。

 

 だがロウは予め分かっていたかのように、僅かに体を捻る事によって躱した。

 

『一撃』

 

 そしてロウは躱しながら刀を引き抜き、一太刀。バロールは突きを放った体制のまま、斬撃を受ける事となった。

 

 だが、バロールはその程度では止まらない。今度こそ目の前にいる敵対者を穿ち殺そうと刀身を振るう。

 

『遅いよ、二撃』

 

 神速の突きを躱しながらバロールの背に回り、背中に斬撃を喰らわすロウ。

 

 前方に重心がよっていた事によりバロールは体勢を一瞬崩す。通常ならば重心制御モジュールが働き、体勢を戻しただろう。

 

 だが今はロウがいる。ロウは片腕を無くしているとは感じさせない動きでバロールの関節に向けて刃を何度も振るう。

 

「なんという……どれ程の研鑽が必要なのでしょうか……」

 

 サクラは驚嘆の声を上げた。なぜなら、ロウとバロール・イミテーションの近接戦において戦闘と言えたのはこれで終わりだったからだ。

 

 バロールの抵抗など無駄だと言わんばかりに抵抗の全てを食い潰すロウ。装甲を切り離したこともあり、確実にダメージが蓄積していくバロール。

 

 突きを放てば刀により側面を叩かれズラされる。斬撃を放てば受け流される。フェイントを入れても釣られることは無く。

 

 あまりにも一方的だった。バロール・イミテーションにインストールされていた戦士の技量では到底ロウには追い付かない。持ち得る技量が違っていた。

 

 事近接戦においてロウが持つ技術は限りなく高い。ロウの鍛え上げられた戦闘技術。それは現代社会の中でVRが戦闘技術というものにある種の進化、融合を引き起こしている事が要因だと言っても過言ではない。

 

 そんな魑魅魍魎の中でロウは専ら戦闘、特に近接戦を行うタイトルを好み、猛者を相手に切った張ったの日々を過ごしていた。そしてそんな連中からも人外との呼び声が高かったロウ。ならば、近接戦という刀が届く間合いとはロウにとって絶死領域と言えるのでは無いだろうか。

 

 しかし、バロールもただやられている訳では無い。同じ動きなど行う筈もなく、思考ルーチンをフル稼働させて事態の打開を狙う。

 

 インストールされていた動きをなぞるように、動きを組み立てて目の前にいる敵対者の命を刈り取ろうと斬撃を行う。あくまで全力で、気づかれる事の無いように。そしてバロールは視界に存在する"アレ"を起動する。

 

 迫る斬撃を難なく受け止めたロウ。しかしその斬撃にある種の違和感を覚えていた。

 

『攻撃が軽い……殺す!』

 

 戦闘の流れを感じ取ったロウ。バロールが殺すつもりで放った筈の攻撃に欺瞞を嗅ぎ分けた。

 

 すぐにでも殺さなければまずい。そう直感で判断したロウが無理にでも仕留めようと前に一歩踏み出す。首をはねようと刀を振るう。装甲を含めた全てを断ち切ろうとする一撃。

 

 片腕で振るわれた斬撃は装甲を切り裂きながら進む。そしてバロールの首内部の機構を断ち切ろうとする。だがそれで終わりだ。

 

 もしもの話。有り得はしない可能性の話ではあるが、もしロウが両腕で刀を振るっていたのであればバロールは首を切断されていたかもしれない。

 

 しかし現実は非常だ。

 

 刀によって切り進む中、ガキンという音が鳴る。内部機構の中でも特段に硬い物質で構成されている重心制御モジュールを切り裂けなかったのだ。

 

『しまっ!?』

 

 すぐに首をはねられないと判断したロウは刀を引き抜きながら後方に飛び去る。

 

 だがバロールにとって時間的猶予は充分過ぎる。バロールの思考ルーチンから発せられる命令によって"アレ"の充填が完了した。

 

 何かを感じ取り振り向いたロウの視界には先程切り離した筈の砲身が二つ浮遊しており、エーテルの分裂によって得られた熱を砲撃として今まさに撃ち出そうとしていた。

 

「危険です! ロウ様!」

 

 サクラは自分の内から生じる衝動に駆られ、そんな言葉を叫ぶ。しかしそんなサクラの言葉も虚しく、ロウに向けて照準が向けられる。

 

『アハッ』

 

 ロウの笑い声が戦場に響く時、砲身が自壊する程の熱量が込められた砲撃がロウに向けて放たれた。

 

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