荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます 作:機動兵士ゴリアテ
死をもたらす砲撃が僕に向けて撃たれてしまった。
振り返ってみれば今回の戦闘は相手の方が上手だった。初めに僕が油断して左腕を持ってかれてしまったところで勝負は決まっていたのかもしれない。
近接戦に移行してからも左腕が無い事が尾を引いた。バロールを右腕のみで叩き切ろうにも膂力が足りない。片腕が無い為に重心が違い、踏ん張りがききにくい。しまいには大事な場面で首を刎ねとばせない。
いやはや、このゲームを僕は舐めていた。今までのゲームと明らかに違うという事は分かっていたはずなのに。目の前に迫る熱の奔流を眺めながら自分がまける未来を幻視し、悔いる。
興奮と集中からか極限まで引き延ばされた思考。寸前に迫る熱の塊。直撃ならば確実に即死する代物。体制を崩して避けようにも今までの中で一番デカい砲撃。右に跳ぼうが、左に転がろうが関係のない面制圧。
理不尽かどうかと言えば理不尽だろう。だが今まで戦ってきた敵と比べ、強かったかと言われるとどうだろうか?
何故ならバロールよりも理不尽な敵など別ゲームタイトルで山のようにいたのだから。僕が倒してきた敵の数々が脳裏に現れる。炎の巨人、機械仕掛けの聖騎士、破壊の戦士、光翼を啄む鳥蜥蜴等々、思い出すだけでうんざりするような敵がいた。
そんな敵の数々を思い出していくと最後に現れたのは、バロールと戦闘するまで最新だった敵。その名は深獄龍アビス。僕が倒してきた敵の中で最も時間を掛けたと言っても過言ではない敵。あいつはダメージをほぼ通さず、遠距離魔法攻撃が効かないとかいう鬼畜仕様のせいで僕は即死ブレスを避けて……。
ふと思い浮かんだ選択肢。目前にまで迫る死を振り払うために出来る唯一の手段。回避、防御が通じないそれに対抗する方法。
それは僕が深獄龍アビスに用いた方法。即死ブレスを切り裂きながら進むという荒業。それは今の状況と酷似しているように思えた。
状況が違う。コンディションが違う。仕様が違う。何よりゲームが違う。僕の理性がその選択肢を否定していた。
だが、僕の体が、直感が、本能という勝利への渇望が。
その選択肢を肯定していた。
刀を今一度強く握る。体に意識を巡らせ、ただ刀を振るう事だけを意識する。敵を殺すために邪魔な障害物を切り開くというイメージ。腕を振り上げ、地面を強く踏みしめる。
体の状態は最悪。左腕は焼け落ち、足もボロボロ。体も疲弊しきっていて、深獄龍アビスの時のような万全の状態とは比べ物にならない劣悪さ。しかしそれは僕が成せない理由にはなれやしない。
そんな思いと共に刀を振り下ろす。
一閃。
それは僕が刀を振るってきた中で一番力が込められていなかったかもしれない斬撃。傍から見れば緩慢とした動きに見えるだろう、それ。
だが僕には。僕にとってみれば今までの人生で最高の一撃に思えた。
◇◇◇
サクラは信じられない物を見たような表情を作りながらディスプレイを見ている。
「まさか、目覚めたというのですか」
―――が望んでいた力の覚醒。蒔かれていた種はまっさらな土壌に根を張り、確かに今ここに芽吹いた。
ロウは確実に死亡する筈だった。バロール・イミテーションによる砲身の耐久度を無視した最大出力の第五元素分裂光熱砲。防御も回避もいかなる手段を用いても防ぐことが出来ない死の一撃。
死が迫る中、ロウは砲撃が当たる直前に刀を振り上げた。サクラは砲撃にのみ込まれたロウの姿を幻視する。だが結果は違った。
ロウが振り下ろした刀は今までの戦闘と違い、酷く緩慢だった。ゆっくりと、剣筋を確かめるような斬撃。
通常ならばロウの斬撃は何の成果も得られず、ただ光の奔流に呑み込まれていただろう。しかしロウが地に両足をつけ、立っているという事実が砲撃を凌いだという事を物語っている。
ロウが振り下ろした刀にはエーテルの分裂によって生成された熱を断ち切るような性能は無い。つまりは必然的にロウ自身の力という事になる。それはつまり。
サクラが顔色を変えて情報端末を操作すると、そこには種が起動状態である事を示すステータス情報があった。
「……あぁっ! あああっ!」
サクラの心と呼ばれる部分が激しい感情に襲われる。その感情を言い表す言葉をサクラは知らないが、今はただその甘露に打ち震えていた。
『アハハ! そろそろ終わりにしようよ!』
そしてロウは敵に向けて走り出す。フラフラするその足に力を込めて。その命を刈り取る為に。
そんなロウを見ながらサクラは自身の心を落ち着ける為に言葉を出して状況整理を行う。
「ふぅ。……バロール・イミテーションの戦闘能力は43%の低下が見られます。ロウ様も目覚めたとはいえ左腕の損傷、体力の損耗が著しいです。……戦況は五分五分と言ったところでしょうか?」
バロールはもはや死に体と言っても過言では無い。主力装備である砲身は二つとも消耗度外視の一撃によってもはや撃つ事など出来そうもない。近接戦闘では首は落とされかけ、間接にしても何度も斬撃を受けた事もあって動きが悪くなっている。
しかしだからといって相手を殺すという目的を諦めるという理由にはならない。センサアイは油断なくロウを視界に収め、異形の剣を突きの形で構える。ジェネレーターを今一度フル稼働し足、腰、腕、間接、全てに力を行き渡らせた。思考ルーチンはロウという敵を最大の敵と見定め、ロウとの戦闘において学習した戦闘経験、インストールされた戦闘技術を結集させる。
全ては敵対者の為に。しかしそれだけでは不足過ぎる。敵を殺すためには戦術が足りない、技術が足りない、工夫が足りない。故に足りないものは想像し、補填し、継ぎ合わせる。殺すという一点を突き詰めたロウという最高の敵対者へ送る技。
『零』
そしてそれは成った。データによって構成された人形による至高の一撃。
「なっ!? 戦闘教練機が喋る筈、あり得ません……」
腕を肩と同じ高さで大きく引き、突きを放つ。相手の防御を貫通させ心臓を穿つ技。相手が避ける事は想定せず、ただ速度と威力を追求した一撃。
ただ速く、ただ強く、ただ一点を貫く。相手が技術で上回っているのならば、こちらが上回っている性能を徹底して相手に押しつける。そんな思考プロセスから生まれた技だった。
対するロウ。バロールが行った突き。その真意を直感で読み取った上で取った行動。それは。
『斬鉄』
真っ向からのガチンコ勝負。左腕がないロウが放てる最速、最高の技。腕を限界まで大きく引き絞り、振り下ろす技。
腕をしならせる事によって鞭のように剣速を加速させ、剣先に至ってはビルダー弐式の出力も相まって音速に至るかもしれない速度。
そして『零』と『斬鉄』はぶつかった。己が至高と最高がぶつかり合うプライドバトル。突きという点と斬撃という線の戦い。拮抗は一瞬、しかし崩れるのも一瞬だった。
ピシリと何かが割れる音がする。その音の源は異形の剣であり、軍刀でもあった。お互いが喰い合うように刀身が削れ、亀裂が走っていく。
だが止めない。お互いが相手を殺す決意を胸に技を振り抜く。そしてそれは一方へ確定的な破滅を齎した。
斬撃。
これまで主人の命令を遂行し続けていた特殊カーボン製軍刀CS-16。あまりにも無理をさせ過ぎたそれは命尽き、刃を崩壊させていく。
しかし最後の命令を確かに果たしていた。
ロウの『斬鉄』が異形の剣を喰い切り、重量制御モジュールすら歯牙にもかけずバロールの胴体を切断した。
ズルりとバロール・イミテーションの胴体が地に落ちる。
「あぁ、本当に……」
そんな敵対者の様子を見ながら言葉をゆっくりと吐き出すロウ。
『僕の、勝ちだ』
サクラが見つめるその先には。
「貴方は、救世主となられるのですか?」
世界を救う、もしくは破壊する救世主と呼ばれるかもしれないナニカがそこにいた。