荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます 作:機動兵士ゴリアテ
バロールを倒した。その実感がもう動く事が無い残骸を見ると湧いてくる。ああ、最高だ!
でも損害も大きいという事を実感もしてしまう。戦闘中は鎮痛剤とアドレナリンのお陰で痛みを感じる事は無かったが、今になってズキズキと痛み始めてくる。というかマジで痛い。
「でも今はそんな事どうでもいい!」
痛いけど無理やりにでも無視する。そんな事よりもバロールの素材は絶対有用だとゲーマーとしての勘が囁いてくるからだ。僕は急いで床に落ちていた僕の左腕から銀のリングを外してバロールに向けた。
「っていうか、これどうやって使えば……あ、できた」
さっきは両腕を使っていたけど、片腕の今じゃどう使えばいいのか分からない。そんな事を考えてたら、勝手にリングのスキャニングが始まった。
あんなに強かった敵が青白い光と共に分解されていく。一つ、また一つと虚空に消えていく。だがその中でおかしな事が起こった。
ジジッという音がしたかと思うと、青白い立方体が僕の目の前に現れたのだ。
「なんだこれ?」
すると僕の呟きを聞いていたのか、サクラが疑問に答えてくれる。
『これはリングによって取り込まれた残骸物の一部、それが昇華されたものです。つまるところ、ドロップ品と呼ばれるものです。立方体に触れていただければ、実体化が行われます』
サクラの言葉に僕は思わず反応する。
「マジで!? 何が出てくるんだろう!」
思わぬ所でガチャのようなものに出会い、テンションが上がってしまう。と言うのも、僕もVRが普及する前に熱中していたゲームとは別でソシャゲと呼ばれるものも少しはやっていた。
だから何が出てくるか分からないコレはとてもワクワクしてしまう。
青白い立方体に手を触れる。触れた瞬間、賽の目のようにブワッと分解されたソレはとある形へと変容を遂げた。
「おー、カッコイイじゃん」
形作ったソレは剣の形をしていた。だがソレは剣という形ではあれど、形が決まっていなかった。
刀であり、直剣であり、レイピアであり、大剣であり、サーベルでもある。それはバロールという敵対者が用いていた異形の剣。
黒と灰色の刀身に、赤色の幾何学的なラインで彩られた剣の柄をソっと握る。すると脳裏にコイツの名前が浮かんできた。名は。
「近接戦闘対応型可変装甲ファンクション」
僕が考えればその通りに形を変形させてくれる剣。なるほど、なるほど。使い方を工夫すれば色んな使い方が出来そうだ。
「……だけど」
一つだけ言わせて欲しい。
「これ、装甲扱いなのかよっ!?」
確かに装甲を外して剣にしてたけども!
「イエス、と肯定させて頂きます」
あ、うん。なんともまあ、締まらない結末だった。
◇◇◇
「こんにちは、クソゲー」
ヘッドギアを外してみれば、部屋には夜の月明かりが差し込んできていた。
あれから僕はサクラの言葉を受け、一旦ログアウトする事にした。
『さて、見事戦闘技能シミュレーションをクリアされました。ロウ様。ですが一旦、ログアウトする事をお勧め致します』
「えー? どうしてなのさ、サクラ」
『ロウ様……。既に貴方様はDefeat the unknownにログインされてから七時間ほど経過されています』
「あっ……」
『やり過ぎ、という奴です。ロウ様』
「……はーい」
という訳なのだ。まさかゲーム側からさっさとゲームを止めろと言われるとは思ってもいなかった。こんな風にもっとやりたいという欲求が心の中で湧き上がって仕方のない事はなかなかない。
それはやりたいと思った時にはずっとやり続けていたからというのも理由ではあるが……。
「あんな非現実的なゲームはなかなか無いよ」
ひりつく勝負、現実のような痛み、倒しがいのある強敵。全てが僕好みの素晴らしいゲームだ。今さっきゲームからログアウトしたばかりなのに、すぐにでもやりたい気分だ。
特にあの” 近接戦闘対応型可変装甲ファンクション"。あれを早く戦闘で運用してみたい。リーチはどのくらいの長さまで伸ばせる? 可変までに掛かる時間は? 耐久度はどのくらいだろうか?
全てが気になってしまう。別の事を考えようにも次の瞬間にはDefeat the unknownの事を考えてしまう。僕は一日目にしてもう、あのゲームの虜になってしまっていた。
「ああ、早く明日にならないかな?」
そんな時だった。
「おー、そうだな」
「あ……」
僕がいる病室に響いた女性の声。あー、死んだなぁ……これは。
「俺も早く明日にならないかなって思ってるぜ、なぁ吾郎君?」
「あはは……」
「久しぶりだなぁ、何週間ぶりだろうなぁ。おいっ!」
とても、とっても怒っている。それはもう噴火寸前の火山のように。白衣を身にまとい、茶髪の髪をブンブンと振りながら怒りを表しているその女性は。
「……久しぶり、学会が終わったんだね。せんせ。会いたかったよ」
「おう、俺も会いたかったぜぇ! お前に一発ぶち込んでやらないと気が済まなかったからなぁ!」
「あ、あはは」
そう、何を隠そうこの女性は僕の体の面倒を見てくれている先生。そんな人が僕に向けて怒り心頭となればもう笑うしかない。まあ、先生が起こっているのも無理はない。というか僕のせいな訳だけど。
一通り、怒りを吐き出した先生は僕に聞いてきた。
「ふぅ……で、なんで深獄龍アビスを倒した瞬間、お前はギルドを、というかゲームを辞めたんだ?」
そう、先生は僕が元々やっていたゲーム。その中で深獄龍アビス討伐ギルドを率いていた、僕がリーダーと呼んでいたキャラクターの中身と呼ぶべき人だった。先生はゲームでは男キャラを使っているが、現実では女性というタイプ。だが現実を知る人は、「……あぁ」と納得の声を上げる。それは先生の口調が少し、ほんの少しだけ強い事が理由だったりする。
だけど先生は口調とは違って本当は凄く優しいと思っている。だから。
「だって……」
「だって?」
「全クリしちゃったし、飽きちゃったからもういいかなって……」
「ほー、飽きちゃったねぇ……って、馬鹿じゃねえか! てめぇ!!!」
だから許してくれないかなって……。
「だってさ、仕方ないじゃん! もう倒せる強敵がいないんだからさ! それにもう次のゲームは決めたんだ!」
「はぁ? お前、あんなにあのゲームにハマってたじゃないのかよ?」
「まあハマってはいたけど、もっと面白い神ゲ―を見つけたんだよ」
「……お前がそういうなんて珍しいな。何て名前のタイトルなんだ?」
お、先生が食いついた。先生自身もかなりのゲーム好きだからね。神ゲー情報には目がない様子。
「んー、それは内緒」
「は? それは一体何でなんだよ?」
だって痛みがそのままフィードバックされるゲームなんてヤバさの塊だからね。しかも勝手にインストールされている代物ともなれば先生はゲームに目がなくても、大人として僕のやってる事を止めるだろう。
だからこそ教えられない。
「はぁ……まぁ、それはいいさ」
ガシガシと頭を掻きながらポケットから小箱を取り出した先生は僕が座っているベッドにそれを投げた。
「うおっと。なにこれ?」
「なにってそりゃあ、お前の薬だよ」
渡されたのは"クリアランス製薬"という文字が目立つ水色の箱。中を開けてみれば、水色の粉薬が入っていた。
「うへぇー。これ、苦手なんだよね」
本当にこの薬は苦手なのだ。体が拒絶してくるような、そんな味。初めて飲んだ時なんかは、吐いてしまうぐらいには酷い。
「話は聞いたぞ。今日の分、まだ飲んでなかったんだってな。騙されたと思って、いいから飲んでみろ」
「はーい……」
うへぇと思いつつ、飲んでみる。嫌だなぁ。って、あれ?
「どうだ?」
思った感覚が来なくて思わず変な顔してしまった僕に向けてニヤリと笑いながら聞いてくる先生。
「……全然、平気だよ。これ、どういう事?」
「提携しているクリアランス製薬が調整した新しい薬だそうだ。認可はされてて、これから一般販売されるそうだが……この調子だと平気そうだな」
「うん、全然大丈夫。体が拒絶してくるような味じゃなくて、凄く透き通るような味」
我ながら味にしては変な表現だとは思うが、そう表わすしかない味だ。体の中を駆け巡るというかなんと言うか、とても飲みやすい。
「その様子だと平気そうだな。なら、俺は戻るぞ」
「え? せんせ、帰っちゃうの?」
「お前が薬を飲まないから、態々来てやったんだ」
感謝しろ、と言いながら先生はドアに手を掛ける。しかし、ふとこちらを振り返ると先生は口を開いた。
「まー、あのギルドに関しては気にするな。こっちで上手くやっとくから」
「せんせ! ありがとう!」
今度こそ部屋を出ていく先生を僕は見送った。
ふー、と息をつきながら部屋を眺める。VRヘッドギアや薬箱が目につくが、他には何も無い白い部屋。
そんな部屋の中に降り注ぐ月の光。そんな光の源を見つめようと視線を上げる。
「え?」
ジジッ、ジジッという雑音が聞こえた気がした。聞き慣れない、機械が故障したかのような音。
「なに、あれ?」
僕の視界に映る綺麗な満月。だが月の後ろにはゲームの表示がバグったように月がもう一つあるように見えた。
「……疲れてるのかな?」
瞼を擦り、もう一度空を見上げてみる。
「気のせいか」
そこには月は当たり前だが一個だけ。機械が故障したかのような雑音も聞こえず、元通り。
「なんも無いし、明日に備えて寝るか」
布団に包まり、頭を枕の上に乗せる。目を瞑れば段々と意識は薄れていく。
あぁ、明日が楽しみだ。
………………………………………………………………………ジジッ。