荒廃した近未来探索VRゲームがいつの間にかインストールされていたけど全員刀で斬り捨てます   作:機動兵士ゴリアテ

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初めての崩域探索

 

 僕が初めて来た崩域。それは崩れ去った社会そのもの、その名前に恥じないようなフィールドだった。

 

 現実世界のような高層ビルや道路、ありとあらゆるものは破壊され崩れている。営みを送っていた痕跡は僅かにしか残っておらず、瓦礫は積み上がり蔦が絡まっていて年月を感じさせる。

 

 何故ここまで破壊されたのか、このゲームの背景というか設定も気になるところである。だが何がここまで破壊したのかは大方の見当はつく。

 

 それは目によって感じ取れる光の情報ではなく、耳によって感じ取れる音による情報だった。

 

 耳をすませばヘッドギアによって増幅された音が聞こえてくる。鋼鉄とコンクリートがぶつかるような特徴的な音。それは戦闘技能シミュレーションで戦ったネイチャーウェポンだろうと当たりはつく。

 

 最初から戦闘を始めて飛ばしていく必要性はあまり感じられない。今はフィールドを理解する方が大切だ。故に音がする方を避けながら脱出ポイントに少しずつ近づいていく。いきなり戦っては何が災いするか分からないし。

 

 僕が視界を右上の方に向けると白色の正方形が表示されている。しかし僕が歩けば黒い線が正方形に刻まれる。これは頭部に装着したゴーグル型の情報端末によるもので簡易的なマッピング機能があるようだった。

 

 ただ小学生が書いたようなマッピングであり白紙に鉛筆で書かれたような、一本線で表示されている。歩いた道にただ線が引かれるだけ。

 

「本当に簡易的なマッピングなんだなぁ……」

 

 だが無い物ねだりをしてる暇など無い。あるだけマシだし、有効活用していこう。

 

 そんな訳で割断されている道路の端を歩いていく。マッピングがある程度されるように。少しずつポータルの位置に近づきながら。

 

「一度死んだら終わりのゲーム。ある程度のリスクは抑えなきゃな」

 

 今回はゲームの仕様を理解するだけでいい。そんな思いが僕の心を占めていた。その為、ネイチャーウェポンは出来るだけ無視しようと思っていたのだが。

 

「っ!?」

 

 スカベンジドッグ等が道路の前方に五体。ゴーグルによって拡大表示された事で気づけたがヤツらは幸運にもこちらに気づいていなかった。

 

 足音を立てないように、急に激しく動いて認識されないようにゆっくりと瓦礫の裏側に移動した。瓦礫の裏からスカベンジドッグの様子を確認する。

 

 ヤツらは何か角が生えた牛の形をしたネイチャーウェポンの残骸を囲んでいる。しかしそれは同族意識のようなもので残骸を囲んでいるわけではなく、どこか食事を思わせるような囲み方だった。

 

 スカベンジドッグはその名の通り犬種型のネイチャーウェポンだ。しかし牛の形をしたネイチャーウェポンを囲んでいようが、機械であるヤツらは食事など出来るはずなど無い。

 

 どうするのだろうか、と思った次の瞬間。スカベンジドッグ達の口からコードのような細い触手が何本も出てきた。そしてヤツらの口から伸びているコードは牛の残骸に触れ、内部へと浸食していった。

 

 スカベンジドッグの目は明滅し、何かが行われている事は明白だった。

 

 すると甲高い犬の遠吠えが聞こえた。勿論、音の発生元は牛の残骸を囲んでいるスカベンジドッグ達。遠吠えをしたかと思うと、今度は鋼鉄を噛み砕く音が聞こえる。

 

 ヤツらが鋼鉄の残骸を今まさに食していていた。生物の習性を模倣すると言っていたが、ここまでするものなのか。というか、作り込みが凄い。

 

 凄まじい光景に見惚れいるとヤツらの体に変化が訪れる。戦闘技能シミュレーションで戦った犬種型のネイチャーウェポンである筈のスカベンジドッグには有り得なかった特徴。

 

 牛型の残骸にあった筈の角がスカベンジドッグに生え始めたのだ。

 

「別個体から学習して取り込んで成長するのか……そういう世界なのね」

 

 ゲームネタで鉄板の異常個体、イレギュラーと呼ばれるような存在も生まれそうな世界だ。最弱である筈のゴブリンが成長して世界最強みたいな。ちょっと楽しみだ。

 

 僕はスカベンジドッグ達に見つからない様に瓦礫と瓦礫の間を移動する。別にこいつ等とも戦う必要性は無い。

 

 強いて言えば行こうとしていた道は通れなくなるので遠回りが必要になるぐらい。

 

 うずうず。

 

「……無い筈なんだけど」

 

 鞘に納められた近接戦闘対応型可変装甲ファンクションを握りながら、ぐっと姿勢を傾ける。耳に神経を集中させてみても他に音は聞こえない。つまり近くにいるのはこいつ等だけ。

 

「目が合ったらバトルしないとね」

 

 目、合ってないけども。なんなら相手はこっちを認識していないけど。

 

 ビルダー弐式の稼働率を弄り、こちらが負傷しないギリギリを見極め、最高速を出せる用意をする。止血帯や鎮痛剤、最低限の物資をポケットに入れ、バックパックを降ろして戦闘態勢へと移行する。

 

「よーい、ドン!」

 

 人としての常識を超えた膂力によって一瞬で最高速へと加速する。スカベンジドッグ達は足音に反応してこちらに反応するがもう遅い。

 

 ファンクションを引き抜き、一閃。

 

 バロールが使っていた異形の剣。刀に変形させて振るったファンクションはスカベンジドッグの一体を抵抗なく切り裂いた。

 

「次」

 

 返す刀で体勢の整っていないスカベンジドッグを一体、行動不能へと陥らせた。

 

 しかし残りの三体は違う。同胞が二体切り捨てられる間に攻撃へと体勢を整えて、間隔をずらしつつ全てが僕に飛びかかって来た。

 

 僕の刀のリーチからして二体は切られるが、残りの一体は確実に飛びかかれる配置だ。見事だ、ただの獣という訳では無いと言うことがよく分かる。だけど。

 

「伸びろ、ファンクション」

 

 僕の意識を反映したファンクションはその姿を変形させ、刀身の長さを倍に変化させる。本来なら重心が急に変化して対応が難しいが、ビルダー弐式の出力のおかげで無理は利く。

 

『斬鉄』

 

 腕をしならせることにより刀身を加速させる技。別のVRMMOタイトルで使用していた技だけど、使い勝手が良くて僕が再現した技。

 

 刀身は加速され、スカベンジドッグ三体を一閃。ファンクションはその切れ味を遺憾なく発揮する。斬り払われた鋼鉄の獣は例外なく上下に分断された。

 

「アイテム回収はしとくか」

 

 警戒を怠らないようにしながらリングに触れ、スカベンジドッグ達の残骸を回収する。賽の目のように分解されていくその様は中々見慣れるものではない。

 

「……何も聞こえない、か」

 

 リングに触れて物資を回収している間もヘッドセットによって増幅される音に集中する。一秒、二秒、三秒。だが聞こえるのは草木を揺らす風の音のみだ。足音は聞こえない。僕は戦闘態勢を崩してさっさと移動する事にする。

 

 足音は聞こえなくともどんな敵がいるかは分からない。サクラの説明であった犬種型のネイチャーウェポン以外にも蜘蛛の形をしたものがいた。ならば鳥類のようなネイチャーウェポンがいた所で不思議では無いし、銃という遠距離攻撃が可能な武器が実装されているこのゲームでは警戒してしかるべきだ。それにこっちが聞こえなくとも、相手が聞こえていて今まさに戦闘音を聞きつけて接近している可能性だってある。

 

 故にさっさと移動するのが最適解だと思う。気分は死ぬ事が許されないバトルロワイヤルのゲームをやっている気分。心はひりつき、気分は高揚する。

 

 ビルダー弐式の脚部に掛かっている稼働率を下げ、無理のない範囲で道を駆ける。視界に映る風景はコマ送りのように移り変わっていく。

 

 崩れたビル、断線した線路、遊具が壊れた公園、折れ曲がったマンホール、ドアが吹き飛んでいる家、半壊したコンビニ、窓ガラス散乱するスーパー。

 

 全ての風景がこの世界が崩壊している事が分かる。何があって、何が原因で、何で壊れたんだろう?

 

 戦闘とは別の、好奇心という欲が刺激される。僕はゲームに戦闘を求めてはいるけど、他の要素を求めない訳でもない。どちらが大事と聞かれれば戦闘の方が大事だけど。

 

 ただ今は関係ない。今はただ脱出する事を意識する。……さっき戦闘を始めてしまったけれども。

 

 そんな事を考えている間にも脱出ポイントに近づいていく。

 

 既に僕がいる場所は住宅街へと場所を移していた。全てはビルダー弐式のおかげではあるけれど。

 

 そんな中、辿り着いた脱出ポイントであるポータルがある場所。

 

「これは……」

 

 そんな筈は無い。そんな訳は無い。そうである筈が無い。だって現実的じゃない。これはただのゲームである筈だ。

 

 しかし僕の視界に映るそれ。それは確実に僕の記憶を刺激していた。

 

「……ある筈が無いじゃん、普通」

 

 だっておかしいだろう? 僕の視界に確かに映るもの。それは。

 

「僕の家が何であるんだよ?」

 

 僕の体に巣くう病魔が悪化するまでの間に住んでいた家。破壊されていようとも分かる僕の家。それが今、ゲームにいるはずの僕の前に現れたんだ。

 

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