彼を変えられるのは自分だけがよかった。
彼に何かを与えるのは自分だけがよかった。
何も持っていなかった彼に。
私の名前は鬼龍院楓花。
唐突だが私には許嫁がいる。それも絶世の美少年だ。
だが私はこの少年と結婚することはない。
なぜならそれは、婚約がただの家の都合だからだ。
結婚することはない...はずだった。
『久しぶりだね、楓花お姉ちゃん!また会えてうれしい!』ニコッ
昔の彼は今のあんな感じではなかった。
もっと無機質で、無気力で。
何かが欠落しているような...いや、何かが欠落しているのは今の方か。
彼は昔から両親に『お前は天皇になるんだ。』と言われて洗脳とも言える教育により、人として大事なものを失っていた。
だから興味がなかった。
だが今の彼はどうだ?
人の心を持ち、人間らしく生きている。
この数年で何があったのか。
私はそこが気になってしょうがない。
私が変えられなかった彼を、誰がどうやって変えたのか。
あの救えなかった瞳に、いつ光が差し込んだのか。
いや、違うな。
私は
あの時一番近くにいた私が、変えれなかったのに。
あの瞳に、私が光を与えたかったのに。
その事実に気が付いた瞬間、私は理解した。
ああ、これが恋なんだと。
そして私は気が付くと、彼に逆プロポーズをしていた。
『翠、私と結婚してくれないか?』
自分でも何をしているんだと思った。
だが、こんな学校だ。またいつあの時の彼に戻るかわからない。
その時に、一番近くで彼を支え、彼を変えてあげれるように。
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翠side
長かったようで短かったような勉強会の日々も終わり、今日は中間テストの結果発表の日。
茶柱先生が教室に入ってくるなり、すぐに結果を張り出し始めた。
ボクの結果は全教科満点。
ボクが教えていた小野寺さん、沖谷君、は2教科満点を取っていて、松下さんは4教科満点を取っていた。
これならクラス上位の成績だと言っても過言ではないだろう。まぁ三日前に過去問配ってズルしたけどね。
「花萌葱~!過去問ありがとうなぁ!」
「ホント助かっちゃったよ!」
なんて囲まれて、過去問に対するお礼を言われる、ほんとは綾小路君の発案なんだけどな。
でも綾小路君は目立ちたくないみたいだし、言わないでおこう。
そしてボクを囲んでいた人たちも元に戻り、沖谷君、小野寺さん、松下さんと話していた。最近はこの四人でいることが結構多い。
「中間テストも終わったことだし、みんなでご飯でも食べにいこうよ!ボクが奢るしさ。」
「え、いいの?奢ってもらっても。」
「私たち勉強頑張ったし、ご褒美的な?」
「そういうこと。行けるなら今日の夜でもどうかな?」
「わかった、じゃあ授業始まるからまた後でね。」
そんな会話をし、授業を終えた後にみんなでご飯を食べに行くことになった。
「んっ、ここ初めて来たけど美味しいね。」
「ホントだ、これめっちゃうまい!」
「え~私も食べる~!」
「なんかさー、全員苗字呼びってのもあれだし、これから名前呼びにしない?」
「ボクは全然いいよ。じゃあこれから京介君とかや乃ちゃんと千秋ちゃんって呼ぶね。」
「わ、わかった。僕も翠君って呼ぶね。」
「ていうかさ、翠君がこの前一緒にいた女の先輩って誰なの?なんか逆プロポーズしたって噂だけど。」
「あー、楓花お姉ちゃんのことかぁ。」
「お姉ちゃん?姉弟なの?」
「いや、実の姉弟とかじゃないんだけど、昔の知り合いでさ。」
「へぇ、そうなんだ。で、逆プロポーズの噂ってホントなの?」
うぅ、どう答えよう。嘘つく理由も特にないけど、なんだか恥ずかしい。
「う、うん。ホントだよ?」
「わぁ、ほんとなんだ。どんな感じで言われたの?」
「えっと、『翠、私と結婚してくれないか?』って片膝立ちで言われた...かな...」
「なにそれめっちゃいいじゃん。」
なんて会話をしながら、ご飯を食べ終わり、その日は解散になった。
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ある日、少し用事があって校舎に残っていると、ある女子生徒を見かけた。
その生徒はデジカメ片手に写真を撮っているようだ。
「あれ、佐倉さん?」
「えっ花萌葱君...?」
「こんなところで何か撮ってたの?」
「あ、あのね。私―――――――
佐倉さんがしてくれた説明によると、佐倉さんはグラビアアイドルというのをやっていて、ブログにあげる写真を撮っていたらしい。
「えっと佐倉さん、なんでそんな大事なことをボクに教えてくれたのかな...?」
正直これって他人に打ち明けるにはリスクが高いように思うんだけど...。
「そ、それは...花萌葱君は変な目で見てこないから...」
変な目...?ああ、そういうことか。
「そっか。変な目で見る方がおかしいだけで、ボクは普通だよ。」
ボクがそう言うと、佐倉さんは少し下を向いて悲しそうな表情をした。
「でも、話してくれてボクは嬉しい。それと佐倉さんのこと、もっと知りたいな。」
この日から、ボクと佐倉さんは少しずつ仲良くなっていった。
そして来たる7月1日、CPtが増えているのであれば、4月以来のポイント支給日になるのだが。
「ポイント、支給されてないなぁ。」
ボクの端末には約259万PPtの文字が。
4月から毎月チェス部に行き、賭けで少しずつ増やしていってるため、ちょっとずつ溜まってきたのである。
教室に行くと、やはり皆騒然としていた。
話によると、Dクラスだけでなく、1年のCクラスのポイント支給も止まっているようだ。
耳に残っているのは茶柱先生が言っていた『それまでにポイントが残っていたらの話だ。』という言葉。
何かトラブルが起こっていてそれの審議の最中かなにかなんだろうか。
まぁ思考に没頭していてもなにも解決しないため、いつかは説明してくれるだろうと、その日は特に考えずに一日を終えた。
翌日、説明がされた。
それは須藤君がCクラスとの間で暴力事件を起こし、相手側のCクラスが訴えを起こしたとのことだった。
これを聞いてクラスは須藤君に大激怒。
「須藤君、なにがあったの?」
「あいつらが呼び出してきて、先に手をだしてきたんだ!正当防衛だ!」
恐らく呼び出して手を出すところまでは本当なのだろう。だが問題は相手に危害を加えたかどうかだと思う。
こういう事件は生徒会で持つのか、それとも教師たちが持つのか、それ自体これからの学校生活においてかなり重要になってくると思う。
そしてたまたま隣を見てみると、なんだか苦しそうな様子の佐倉さんがいた。
他のみんなは気づいていないみたいだったのでそっと近づく。
「佐倉さん、大丈夫?とりあえず休めるところに行こっか。」
ボクはそういって廊下の階段まで連れてきた。
なぜ保健室に行かないのかって?
それは星之宮先生がいるからだ。決してボクがちょっぴり苦手だからとかいう理由ではない。決して。
「佐倉さん、須藤君の件でなにか知ってたりするの?」
「わ、わかるの?花萌葱君。」
「なんとなくね。」
ボクはそう言いながら蠱惑的に微笑む。
「...実はね...私、須藤君たちが喧嘩してるところ、見ちゃったの。」
なんとなく察してた。
須藤君の話になった途端俯いてたもんね。
「私、どうすればいいのかな...?」
「佐倉さんはきっと、巻き込まれたくないって思ってるよね。」
「!...う、うん。すごいね。」
「だったら、佐倉さんの好きなようにしたらいいと思うよ。」
「私の、好きなように?」
「うん。佐倉さんが巻き込まれたくないと思うなら、誰にもこのことは言わなくていいと思うし、逆に言わなきゃダメだと思うなら、こっそりでも平田くんや堀北さんに言えばいいと思う。」
「っ!...なんでそこまで、私のことを...?」
「だってボク達、友達でしょ?友達の意思を尊重するのは当たり前のことだよ。」
「そっか、もうちょっと自分で考えてみるね。」
そう言う佐倉さんは憑き物が落ちたような、肩の荷が降りたような顔をしていた。
そして結局、堀北さんに目撃者だと名乗り出て、審議に参加することになったそうだ。
正直早く特別試験まで行きたいんで、須藤の暴力事件はちょっと駆け足気味にします。これに関しては更新が遅い自分のせいなんですけどね。