ボクは今、豪華客船の上にいる。
夏休みに入り、先生がバカンスに連れて行ってくれると言っていたが、間違いなくなにかあるだろう。
だけど今無駄に警戒してもしょうがないし、とりあえず今を楽しもう。
「やっぱりプールっていいね~。」
「そうだね、かや乃ちゃん。これだけ暑いとプール苦手な人でも入りたくなるんじゃないかな?」
「それはあるかも!」
なんて会話をしながら、京介君、かや乃ちゃん、千秋ちゃんの三人と遊ぶ。
この三人とは、中間テスト以来一緒にいることが多くなった。
仲良くなればなるほど、自分が隠し事をしているのが後ろめたくなる。
まぁ、隠しているのは
その後も遊んでいると、お腹がすいたので、皆で洋食屋に行くことになった。
京介君とかや乃ちゃんは高そうだと言っていたけど、千秋ちゃんはそんなに動揺していなかった。
それどころか、食事の際の礼儀作法はそこらのお嬢様と何ら遜色なかった。
千秋ちゃんはボクの視線に気づいたのか、目が合う。
「ん、どうしたの?翠くん。」
「いや、千秋ちゃん礼儀作法でも習ってたのかなと思って。」
「少しだけね。でもそんな大層なものじゃないよ。」
そう言う千秋ちゃんは少し悲しそうな表情をした。
「葛城さん、あいつらDクラスですよ!」
明らかな敵意を感じ、そちらに視線を向けると、とても高校生には見えない貫禄の髪がない生徒とその取り巻きがいた。
「弥彦、やめておけ。」
「でも葛城さん!こんなところにDクラス風情が居ていいんですか!」
Dクラスに何かされたのかな、あの生徒は。
「私たちはAクラスだ。Aクラスに恥じない行いをしろ。」
ここに須藤君とかいなくてよかった。多分彼なら手が出ていた気がする。
「あんま長くいるのもあれだし、出よっか。」
ボクはそう言い、三人とレストランを出た。
その後は解散となって、ボクは一人船内を意味もなく歩いていた。
すると見覚えのある金髪オールバックが目に入る。
「おや、これはレディーボーイじゃないか。」
「高円寺君、すっごく濡れてるけど...なにしてたの?」
「そんなに私が何をしていたか気になるのかい?可愛い子猫ちゃんだ。」
そう言ってボクを壁の方へと追いやる。
他人から見たら肉食動物が草食動物を捕食するようにも映るだろう。
これなにが目的なのさ。
「子猫ちゃんって、はぁ。」
「ため息をついて、お疲れかな?レディーボーイ。それなら一緒にスパにでも行かないかい?」
と言ってきたので、高円寺君のよくわからない行動を無視してスパに行くことにした。
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スパってこんな感じなんだ。
なんて思っていると、服を脱がないといけないらしい。
えっ脱ぐのか...。
まぁ変なことされるわけじゃないし、大丈夫だよね。
なんて思ったのも束の間、ボクを施術してくれるのは、様子のおかしい施術師さんだった。
「へへ...ショタだ...かわいい...」
「えっと、じゃあお願いします...。」
大丈夫なのかな?と思ったが、一先ずボクは施術台にうつ伏せになる。
「んっ...きもちぃ...。」
我慢していても、声が漏れてしまう。
「レディーボーイ、その声はわざとやっているのかい?」
「わざとなんかじゃ...ひゃぁっ!...。」
急に脇腹を触られたので変な声を出してしまう。
「こ、ここが弱いんだ...へへ、かわいい...。」
施術師さんが小声でなにか言っているが、よく聞き取れない。
「あの、体調でも悪いんですか...?」
心配で声をかける。
もし体調が悪いなら、すぐ休んでもらわないと。
「あっだっ大丈夫です!...へへ、心配してもらった。」
またなにか言っていたが、大丈夫と言っていたので心配はいらないのだろう。
「あっ...ん...やっ...。」
施術を続けてもらっていると、背中にドロっとしたものが垂れる感触があった。
「ん...?」
背中を見てみると、施術師さんが鼻血を出していた。
「だっ大丈夫ですか!?やっぱり体調良くなかったんだ...。」
ボクが身体を起こし焦っていると、施術師さんはさらに勢いよく鼻血をだした。
「...レディーボーイ。今の自分の姿を見たまえ。」
そう言われて気が付いたが、ボクは紙の下着を履いただけで、ほぼ裸同然の姿で施術師さんと近い距離にいた。
高円寺君を施術していた方も、ボクの方をみて顔を赤くしている。
「わっわあぁ!?///ダっダメ!//見ないでください!!///」
ボクは慌てて身体を隠す。
施術師さんはどうやら気を失ってしまったらしい。
結局その後、スパの経営者さんと施術師さんが謝りにきてくれたが、自分にも責任はあったと伝えてなんとか帰ってもらった。
高円寺君はいいものを見せてもらったと言ってどこかに行ってしまった...。
ホントにあの人よくわかんないなぁ。
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「ではこれより、今年度最初の特別試験を行いたいと思う。」
雲一つない青空、綺麗に澄み切った海水、日光に照らされ高温になった砂浜、後ろには生き生きとした緑が広がっている。
そんな環境の中、真嶋先生が言ったことは一部を除いた全員を大きく混乱させただろう。
「期間はこれより一週間、8月7日の正午に終了となる。」
こんな無人島に一週間。これらの状況から察するに遭難時等の模擬試験...なのかな。
「君たちは寝泊まりする場所はもちろん。食料や―――――――――――
そこから説明されたことを要約すると、食事、洗濯、寝床の用意、それらすべてを自分たちでこなさないといけない。
急にこんな環境に放り出されてもただの高校生じゃなにもできないし、むしろ今ある人間関係を悪化させる可能性まである。
そしてなにより、この後が重要だった。
各クラスは300ポイントと、飲食物やトイレに遊び道具等無数の物資が書かれたマニュアルが与えられる。このポイントでなんでも交換できるそうだ。
だが残ったポイントがそのままCPtに加算されるそうなので、つまるところポイントの節約をしろとのことだ。
この試験のテーマは『自由』らしい。まさにそうだと思う。
ポイントを節約し、二学期に備えるもよし。他クラスに契約を持ちかけるもよし。
AクラスやCクラスはアクションを起こすんじゃないだろうか。
のような説明がなされ、あとは各クラスで担任から説明を受けるよう指示された。
そして今、茶柱先生のもとにDクラスが集まっているとこだ。
「今から全員に腕時計を配布する。試験中、この腕時計を許可なく外すことは認められていない。これには時刻だけではなく、GPS機能、体温、脈拍の計測など、様々な機能が搭載されている。非常事態に備えて、学校側にそれを伝える手段も用意されている。緊急時には迷わずそのボタンを押せ。」
まぁさすがに国が運営してる学校だから試験で死人でもでたら大変だもんね。
「非常時って、熊とかでたりしませんよね?」
「仮にもこれは試験だ。結果を左右する可能性のある質問には答えられない。」
「う......そんな風に言われると怖いじゃないっすか。」
野生動物で命を脅かし兼ねないものは排除されてると思う。むしろ住みやすいように手を加えたり、野菜や果物を植えてるかもしれない。
「危険な動物はさすがにいないと思うよ。もし襲われて生徒が怪我でもしたら大問題だ。単純に僕たち生徒の健康管理を目的としてるんじゃないかな? 無人島に放り出す以上、学校も安全性を確保しないといけないだろうし。」
平田君の言う通りだ。こういうクラスの中心人物が皆を安心させてくれるとありがたいな。
「でも、身に着けたまま海とか入って大丈夫なんスか?」
「問題ない。完全防水だ。それに万が一故障した場合には、直ちに試験管理者がやってきて代替品と交換することになっている。」
抜かりはない、か。
「茶柱先生。僕たちは今からこの島で1週間生活するとのことですが、ポイントを使わない限りすべて僕たちで何とかしなければならないということでしょうか。」
「そうだ。学校は一切関与しない。食料も水も、お前たちで用意してもらう。足りないテントにしてもそうだ、解決方法を考えるのも試験。私の知ったことじゃない。」
茶柱先生がそういうとクラスの女の子たちに戸惑う様子が見られる。さすがに睡眠をとる場所さえ不確定だと不安が立ち込めるものだ。
「大丈夫だって。魚でも適当に捕まえてさ、森で果物でも探せばいいじゃん。テントは葉っぱとか木とか使ってさ。最悪体調崩しても頑張るぜ。」
ポイントを残そうとするのはいいけど、体調を崩したときの罰則とかは考えないのかな。
「残念だが池、おまえの目論見通りにいくとは限らんぞ。配布されたマニュアルを開け。」
平田君は指示通りマニュアルを開く。
「最後のページにマイナス査定の項目が載っている、まずそこを読んでみろ。それはこの特別試験を象徴する非常に重要な情報になる。生かすも殺すもお前たち次第だ。」
そこには、『以下に該当するものは、定められたペナルティを科す』と書かれていた。
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・著しく体調を崩したり、大怪我をし、続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる。
・環境を汚染する行為を発見した場合マイナス20ポイント。
・毎日午前8時に行う点呼に不在の場合、一人につきマイナス5ポイント。
・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のPPtを全没収。
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うーん、一番下の罰則が一番厳しいね。まぁ当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
「お前が無茶をするのは勝手だが、もし10人の生徒が体調不良に陥ったなら、それで我慢と努力はすべて泡と消える。一度リタイアと判断されれば試験中に復帰することもできない。強行するときはそれを覚悟しておくんだな池。」
釘を刺されて一部が困惑している。
さすがに1ポイントも使わずにこの試験を乗り切るのは困難だと思う。
だからあくまで必要最低限だけポイントを使って、あとは節約するのが王道っぽいかな。
あっじゃあこんなのなんて面白いんじゃないかな。
【――――――――――――――――。】