「ねぇ、一之瀬さん、ちょっといいかな」
ボクは一之瀬さんに声をかける。
「はっははは花萌葱くん!? どうしたのかにゃ!」
当の本人はすごく動揺してる。
「この後の試験の話だよ。まず前提として話すけど、伊吹さんと金田くんはCクラスから送られたスパイだよ。それでその二人を使ってCクラスのリーダー当てを失敗させる」
「....やっぱり、そうだったんだ。二人を使ってリーダー当てを失敗させるって、どうやるの?」
「まず、リーダーのキーカードを盗ませる。それでそのカードの持ち主をリーダーだと認識させるんだ。カードの偽装はできないからね」
「でもそれじゃあ、リーダーを当てられちゃうよ?」
「うん。だからそこでリーダーを変更するんだ」
「リーダーの変更? それはできないって...」
「先生にもらった資料によると『正当な理由がなければ』と書いてある。もうここまで言えばわかるよね?」
「....すごい。こんなの思いつかないよ」
まぁ、作戦の大筋は綾小路くんのものなんだけどね。
「こっちは堀北さんが体調が悪いらしくて、綾小路くんがなんとかしてくれるみたい。Bクラスは白波さんだったよね?」
「そうだね。体調不良って仮病でもいいのかな....」
「バレないものならなんでもいいと思うよ。発熱とかだとバレる可能性があるから、酷い頭痛だとかそういったものにしておいたほうがいいかな」
ボクがそう言うと、一之瀬さんは小さく頷いてからじゃあね、とだけ言い去っていった。これで恐らくBクラスもリーダーを変更し、前のリーダーを指名するCクラス、もしかしたらAクラスも指名に失敗するかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
無人島試験6日目、今日は天気が悪かった。空はどんよりした色に染まっており、湿気が多くじめじめとしていた。
「あの雲からしてもう一雨降るかな...」
さすがに大雨や強風はないだろう。もしあれば試験は即座に中止されるのも見え透いている。
なんて考えていると、平田くんが大勢の生徒を集め、最後の激励を飛ばしているのが視界に入った。最後の食料調達に参加する予定のため、ボクも後ろの方に行き班分けに混じる。
挙手制で班分けしていたため、ボクは誰でもいいので手をあげなかった。するとメンバーは堀北さん、愛里ちゃん、山内くんに綾小路くん。そして桔梗ちゃんというDクラスだけという班になった。
「あなたが余るなんてどういうこと? いつもの仲良しグループはどうしたの」
「あーうん、えっとそれはね?」
そう言うと桔梗ちゃんはそっと堀北さんに耳打ちした。
「実はみーちゃん、今日女の子の日でね.....。結構重たいみたいで、いつもすごく具合悪くなるの。それで他の友達はテントで付き添ってるんだよ」
盗み聞きしたわけじゃないんだけど、たまたま耳に入ってしまった。ごめんね王さん。
「体調不良と言っても生理現象はセーフのようね。当たり前だけれど。でも、なぜわざわざこのグループに? 他にも選択肢はあったはずだけど」
ちょっと言い方に棘のある言い方だなぁ。やっぱり堀北さんと桔梗ちゃんはお互い嫌い合ってるって感じだね...。
「折角だから堀北さんとお喋りしたいなって思って。ほら、この旅行じゃ全然話せてないじゃない? 夜もすぐに寝ちゃうし」
「必要ないことに付き合うほど私は暇じゃないから」
「意地悪だよね堀北さんって。寝顔はすっごくかわいいのに」
桔梗ちゃんが意地悪をするようにそう言うと、堀北さんは気を悪くしていた。
そんな傍ら、綾小路くんが伊吹さんに声をかけていた。どうやら伊吹さんにも来てほしいらしい。
「おーいいじゃんいいじゃん! なんかハーレムって感じだしさあ!」
そんな会話の後、ボクたちは森に入り進んで行く。
「んー......」
桔梗ちゃんが綾小路くんと堀北さんを交互に見て唸っている。
「どうしたんだよ櫛田ちゃん」
「綾小路くんと堀北さんって最初から仲がいいじゃない? で、その理由ってなんだろうなーって考えてたの」
「そういやそうだよなぁ。お前らって何で仲いいの?」
「別に仲がいいわけじゃないぞ」
「っていつも否定するけど、やっぱ仲いいってお前ら。っていうか綾小路って花萌葱とも仲いいよな!」
急にボクの話になった。確かに綾小路くんとはクラスの話をすることもあるし、個人的にも気になるからよく話してはいるんだよな...。
なんて思っていると、スパンと音がなり、身体の向きを変えると山内くんの頬が赤く腫れていた。
その後は2人1組で食料を探すことになり、7人と奇数だったためボクと山内くんと愛里ちゃんの3人の組になった。
探している最中、綾小路くんがキーカードをわざと落として伊吹さんに見せているのがわかった。堀北さんからは凄く睨みつけられているけど。
そして少し時間がたった後、山内くんは堀北さんの綺麗な髪に泥を被せ、塗りたくった後にこういった。
「うはははは! 泥だらけだぞ堀北! おもしれぇ!」
綾小路くんの指示なのはなんとなくわかるけど...ここまでやれって言ったのかな?
「ねぇ、綾小路くん。あれってあそこまでやれって言ったの?」
「いや、泥をかけてくれと言っただけだ。塗りたくれと言った覚えはない」
山内くん...。
特に収穫なくベースキャンプに戻ったあと、泥だらけの堀北さんはとても不快そうにしていた。
「早く洗った方がいいよ、堀北さん。相当ドロドロだよ.....」
「そうね.....さすがにこの状態は辛いわ」
そう言ったあと、堀北さんは山内くんに睨みを利かせながらこう言った。
「あなたのことは一生恨むから。覚悟しておいて」
「おお、おれ、俺は、や、やったぞ。約束、約束は守れよなぁっ!」
約束...なにを対価に約束したんだろ。
「大丈夫だ。試験が終わったら必ず教える」
教える...勉強ではないだろうし...山内くんなら.....女子との繋がり....メールのアドレスかな?
「あちゃ、でもシャワー室は無理みたい....」
やはり皆探索が終わると汗を流したいのかシャワー前に集まるため、非常に混んでいる。
「少し歩くが川を使ったらどうだ? それなら手っ取り早いだろ」
「......そうね。それ以外に方法はなさそう」
綾小路くんはこれで風邪を悪化させて伊吹さんにキーカードを盗ませるつもりなのかな。
その後、5分ほどすると堀北さんは戻ってきた。さすがに風邪を引いた身体に川の水は堪えるだろう。かなり辛そうにしている。
「......花萌葱くん、頼らせてもらってもいいかしら.....」
そう言ってボクを呼び、綾小路くんも連れて森の中に入った。
「どうしたんだよ。また森に入って食べ物でも探すつもりか?」
よく言うよ。風邪を悪化させてキーカードまで盗ませた張本人が。
「.....これは私の油断。ミスだと自覚したうえで話すこと。いい?」
「ミス?」
「........盗まれたのよ」
「ま、まさかおまえの下着が盗まれた、とか言わないよな?」
「....綾小路くん?」
ボクが少し怒った素振りを見せると綾小路くんはしゅんとしてしまった。
「違うわ。もっと最悪ね。盗まれたのは......キーカードよ。完全に不覚だったわ」
発熱している身体でここまで弱った精神。正に心身ともにボロボロであると言えるだろう。
「あなたたちを信用したからこそ話したのよ。犯人の可能性がある人物なんて絶対に相談しないから。死にたくなるほど屈辱的な話だしね....」
この件で堀北さんが頼れる仲間が必要だと感じてくれればいいが、完全に潰れてしまう人もいる。万が一堀北さんが潰れてしまうことがあったらDクラスは昇格することはないだろう。
「大失態ね....」
「悪いのは盗んだ人だよ、堀北さん。体調が悪くても、泥だらけでも、盗む人が居なければ盗まれなかった」
「だとしても責任問題よ。私のことは関係ないわ」
とても悔しそうにしている。
「一秒たりともカードを手放しちゃいけなかったのよ。なのに私は.......」
「自分を責めるな。慰めにもならないと思うが、お前は精一杯やってたと思う」
「今はとりあえずみんなに知らせないほうがいいね。先に何があったか把握しよう」
「ええ.....私もそう思うわ」
「私が疑う人物は2人。軽井沢さんか、伊吹さんのどちらか」
「残念だが確率は低い。軽井沢はずっとシャワー室の前にいたぞ」
「間違いない.....?」
「うん、ボクも見たよ。それに軽井沢さんとよくいる2人も同じだしね」
「そうすると、伊吹さんが犯人である可能性が高い、ということになるわね。今朝彼女にはカードの存在を知られた可能性があるし、あまりにタイミングが良すぎるもの。だけど盗み出すのは非常に危険な賭けだと思わない? キーカードにはリーダーの名前が刻まれているんだから見るだけで十分のはずだもの。わざわざペナルティを犯す真似するかしら」
「それはタイミングを見て伊吹に聞けばわかることだ。伊吹を疑うのなら目を離さないほうがいい。持ち逃げされるのが最悪のシナリオだろ?」
「そうね。でもごめんなさい、先に戻ってもらえるかしら。すぐに後を追いかけるから」
「うん、わかった。先に戻っておくね」
そう言ってボクと綾小路くんは一足先に拠点に戻った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「一之瀬さん、そっちはどう?」
ボクは拠点に戻った後、Bクラスの現状を知るため一之瀬さんに話しかけた。
「あ、花萌葱くん。こっちは上手くいきそう。とりあえず今日の夜にリーダーを変えるつもりだよ」
「そっかそっか。こっちも上手くやれそうだよ」
そんな会話をしていると、拠点内の空気に違和感を感じた。
「なんかあっちのほう騒がしいね、何かあったのかな?」
どうやら仮設トイレの裏で火災が発生しているらしい。そのため拠点はてんやわんやになっている。
そして堀北さんも戻ってきたようで、綾小路くんと合流している。
堀北さんは伊吹さんが火事を起こしたと思っていたようだけど、伊吹さんの表情を見て言葉を失っていた。
なぜならその際の伊吹さんの表情は、何が起こっているのかわからない他の生徒と同じだったからだ。
「マニュアルが燃やされたの?」
「うん、どうやらそうみたいだ。誰がこんなことを.....」
「......次から次へと......」
「僕の責任だよ。マニュアルは鞄の中に保管していたんだ。テントの前に積んであったし、昼間だから誰かに盗られたりするなんて思いもしなかったんだ。でもまずはきちんと消火しないと......」
平田くんは犯人探しをしたくないのか、火元を消すために水を汲むようだ。その際、暗い表情をしながらなにかを呟いていた。
「ねぇ、誰がこんなことしたわけ? うちらのクラスに裏切り者がいるってこと?」
拠点では、軽井沢さんや他の生徒が睨み合う形で2つに分かれていた。
「何で俺らを疑うんだよ。下着の件とこれとは別問題だろ?」
「わかんないじゃない。それを誤魔化すために燃やしたりしたんじゃないの?」
「ふざけろよ、んなことするわけないだろ」
「ちょっと待ってみんな。落ち着いて話し合おう」
平田君はみんなの中心に入り、仲裁をする。
「もう無理。まじで最悪。このクラスに下着泥棒と放火魔がいるなんて最低よね」
「だから俺らじゃねぇって。いつまで疑ってんだよ!」
平田くんはいつの間にか仲裁することをやめ、立ち尽くし雨に打たれていた。
「つか寛治、伊吹ちゃんの姿みえなくね......?」
その言葉を聞き、皆が探し出す。
「もしかして、この火事の犯人って.....」
「怪しい、よな。火事なんて起こすとしたら、それってやっぱり......」
拠点の中にはとても嫌な空気が流れている。そんな空気を表すかのように雨が強くなる。
「やば。とりあえず話し合い後にしようぜ。いろいろ濡れると大変だ!」
「平田、指示をくれ!」
平田くんは先ほどと変わらず立ち尽くして、雨に打たれている。
「どうして......どうしてこんなことになるんだ.....これじゃあの時と同じだ....」
あの時.....平田くんはずっとそれに怯えているんだ。
「僕は――――何のために、今までなんのために......」
「おい平田なにやってんだよ!」
今の平田くんには明らかに生気が宿っておらず、力がないため咄嗟にボクが指示をだす。
「火事の犯人は今は置いておこう。今すぐ荷物と服を濡れないようにして、何人かで固まって動いて。視界が悪くなってるから足元も気をつけて」
みんなはその指示通りに動いてくれたので、すぐに落ち着くことができた。
「平田くん、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だよ。心配させてごめんね」
そう話す平田くんはどこか弱弱しく、どこかすぐに消えてしまいそうな感じがした。
展開的にわかるかもしれませんが次回で無人島試験終わります。
オリ展開についてどう思いますか
-
非常に良い
-
良い
-
普通
-
面白くない
-
非常に面白くない