ある朝教室に入ると、水泳の授業が始まる日とはまた違った空気感に包まれる。
恐らくこの空気感はポイントが12000PPtしか支給されなかったことからくる焦りだろう。だから警告したのに~。
そう思っていると綾小路君から話しかけられる。
「花萌葱、いくつ支給された?」
「12000PPtだよ。綾小路君は?」
「同じだ。」
じゃあやっぱりクラス単位ってことであってたんだ。
このクラスは12000PPtの価値しかない。今はそう判断された。
「席に就け、朝のHRを始める。」
茶柱先生が紙を丸めたものを持って教室に入ってくる。
「せんせー、ポイントが12000しか振り込まれてないんスけど。毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?」
山内くんはまだ気づいてないっていうのか。クラスの7割は気づいているのに。
「いや、今月分はすでに振り込まれている。」
「えーでも、なぁ。」
「ポイントはすでに振り込まれた。額は間違いではない。手違いでこのクラスだけ少ないなどという可能性もない。」
「でも実際、88000足りないし。」
池君もなのか。結構周りから白い目で見られているがそれも気づかないんだな。
「お前たちは本当に愚かだなぁ。」
茶柱先生が声色を変えた。
Dクラスの面々は驚いた顔をしている。
そしてある生徒が反応して声を上げる。
「ははは、なるほど、そういうことだねティーチャー。理解できたよ、この謎解きがね。」
ある生徒とは何者でもなく高円寺君だった。
「簡単なことさ、私たちDクラスには12000PPtの価値しかなかった、ということだよ。」
「はあ?なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって......」
「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」
高円寺君はニヤニヤしながら茶柱先生に指先を向けた。
「態度に問題がありだが、高円寺の言う通りだ。」
教室がさらに騒がしくなる。
「先生、質問いいですか?」
平田君が手を挙げ、先生が許可すると平田君はクラスを心配するような表情をして話始める。
「額が減った理由を教えてください。でなければ僕たちは納得できません。」
多分一応の確認のためなんだろうな。平田君はなんでも人並みにできるが、そうじゃない生徒が多数いる。
「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数、391回。一月で随分とやらかしたものだ。この学校ではクラスの成績、評価が毎月振り込まれるポイントに反映される。査定の結果、お前たちは当初持っていた10万ポイントから8万8000ポイントを失った。今月振り込まれるポイントは12000だ。まあ、入学当初に気づいていた花萌葱のような生徒もいたようだが。」
急にボクの名前を出すからみんながこっちを見る。
「じゃああんとき花萌葱が言ってたことってホントなのか...?」
いや嘘だと思ってたの!?
「てかわかってたならもっとちゃんと言ってくれよ!」
クラスのみんながこいつ終わってんなって目で山内君を見ている。
「花萌葱にはある程度しか言わないよう口封じをした。ちゃんと言わなかったのではなく、それだけしか言えなかっただけだ。」
茶柱先生がそういうと山内君は黙りこくって座った。
そのあとも説明は続いた。CPtというものが存在し、それの上下に伴ってクラスが変動すること。このCPtは授業態度や素行でマイナスされ、試験でプラスされるそうだ。
現在のDクラスのCPtは120で、他クラスとは差があった。
そしてこの間やった小テストの点数も開示された。
ボクの点数は90点で、高円寺君より下で平田君より上でクラスの中では4番目だった。まぁまぁいいとこに
中間テストで赤点をとったら退学というのでみんな驚いていたが、普通勉強してたら赤点なんて取らないでしょ。
「花萌葱くん、よかったら放課後ポイントを増やすための話し合いをしたいんだけど、参加できそうかな?」
「うん!この後は何もないし、参加しようかな。」
なんて思っていた矢先、
『1年Dクラス綾小路くん、花萌葱くん、担任の茶柱先生がお呼びです。至急職員室まで来てください。」
「ごめん平田君、行けないみたい。」
「ははは、これはしょうがないよ。」
「そう言ってくれるとありがたいよ~。」
「花萌葱、一緒にいかないか?」
綾小路君が来てくれた、ボクの方から一緒に行かないか聞こうと思ってたからちょうどいい。
「いいよ!一緒に行こ。」
職員室に入ると、星之宮先生が声をかけてきた。
「あ~!翠くんじゃな~い。元気にしてた?」
ぐいぐい近づいてくる。この人裏あるのわかりやすいなぁ...あっちょっと綾小路君、逃げないで。
「そういや佐枝ちゃんに呼び出されてたんだっけ、なんかやっちゃったの?」
「ボクは身に覚えがありません。綾小路君は?」
「俺もないな。」
「へ~綾小路君って言うんだ~。君結構イケメンだねぇ。」
星之宮先生が綾小路君に絡んでいると、茶柱先生がやってきた。
「星之宮、また私の生徒にちょっかいかけているのか。」
「いろんな生徒にちょっかいかけるけど、私は翠君一筋だよ!」
ボクも綾小路君も反応に困る。
「はぁ...二人とも、着いてこい。」
「茶柱先生、ボクたちなんかやっちゃったんですか?」
「口答えするな、黙ってついてこい。あと星之宮はついてくるな。」
「え~!私も翠くんの秘密話聞きたい~!」
こんなやりとりをしていると、ストロベリーブロンドの髪の女子生徒が入ってきた。
「君たち、Dクラスの生徒だよね?名前は?」
「ボクの名前は花萌葱翠だよ!」
「綾小路清隆だ。」
「花萌葱さんに、綾小路くんね!私はBクラスの一之瀬帆波っていいます!よろしくね。」
多分またこれ勘違いされてるな。
「一之瀬、花萌葱は女子の制服を着ているが男だぞ。」
綾小路君がフォローしてくれた。そのコミュ力、自己紹介に生かせなかったのかな?
「えっそうなの!?ごめんね花萌葱くん!気づかなかったよ!」
「大丈夫だよ、一之瀬さん。ほとんどの人が気づかないから。」
そんな会話をした後、茶柱先生に連れられて少し離れた進路指導室に入る。
「それでボクたちは何の用で呼ばれたんですか?」
「それなんだが、少しこちらに来い。」
ボクたちは給湯室に入れさせられる。
「なるほど、お茶を沸かせばいいんですね、ほうじ茶でいいですか?」
やっぱ綾小路君コミュ力ないわ。
「余計なことはしなくていい、私が出てきていいというまで物音を立てずにここで大人しくしていろ。破ったら退学にする。」
理不尽だ。
と思っていたら誰かが進路指導室に入ってきた。
「率直にお聞きします。なぜ私がDクラスに配属されたのでしょうか?」
「本当に率直だな。」
「入試に至ってはほとんど解けたと思っていますし、面接でも大きなミスはしていません。少なくともDクラスになるとは思えないんです。」
「それは私が知ったことじゃないな。なんだ?堀北はAクラスに上がらなければならない特別な理由でもあるのか?」
恐らくそれは兄のことだろうな。
「...今日のところはこれで失礼します。ですが私が納得していないことだけは覚えておいてください。」
「わかった、憶えておこう。あぁ、そうだった。二人指導室に呼んでいたんだった、お前にも関係のある人間だぞ。」
この人やり方がきたないよぉ。
「まさか...兄さん!?」
「出て来い、二人とも。」
ガチャリとドアを開けて恐る恐る部屋を出ると堀北さんはこっちを睨んできた。
「私の話を聞いていたの...?」
「いや...話をしているのはわかったが何を話しているかはわからなかったな。」
どうやら白を切るつもりらしい。だがここで白を切れば茶柱先生が壁が薄いとかいってバレそうだからここは綾小路君を犠牲にして逃れよう。南無三。
「ごめんね堀北さん、聞こうとして聞いたわけじゃないんだ。」
綾小路君、さっきボクが星之宮先生にぐいぐい来られてるときに逃げたよね?それのほんのお返しだよ。だからそんな捨てられた子犬みたいな顔しないで。
「先生...なぜそんなことを。」
「必要だと感じたからだ。さて、二人を指導室に呼んだ理由を教えようか」
茶柱先生は俺たちの方を向く。
「私はこれで失礼します。」
「まぁまて堀北。最後まで聞いておいた方がお前のためになる。それがAクラスにあがるためのヒントになるかもしれんぞ。」
堀北さんの動きがとまり、戻って椅子に座る。
「手短にお願いします。」
ほんとにAクラスに上がりたいんだなぁ。
「お前らは面白い生徒たちだな、綾小路、花萌葱。」
「茶柱、なんて奇抜な苗字を持った先生ほど面白い男じゃないですよ、俺は。」
なんで茶柱先生を煽っているんだこの男は。
「ほう、綾小路。お前の隣にいる花萌葱という苗字を持った奴の方が面白いと思わないか?んん?...まぁいいテストだけで言うなら綾小路の入試の全教科の点数は50点、今回の小テストの点数も50点。これが何を意味するかわかるか?まったく、つくづく面白いやつだ。」
なんかボクに飛び火したし。あと全部50点は適当すぎないか。すぐバレるよ、現に今バレたし。
「偶然って怖いっすね。」
「これが偶然すべての結果が50点になったと?意図的にやっただろ?」
本当にその通りだと思う。これに関しては弁明のしようもないね。
「偶然です。大体証拠なんてありません。仮に試験の点数を操作したとしても俺に意味なんてないですよ。」
「そうやって白を切っても意味はないぞ。数学の問5の正答率は学年で3%。だがお前は完璧に解いている。一方で問10は正答率76%、普通簡単な方を間違えるか?」
「世間の普通なんて俺には知りませんよ。本当に偶然です。」
「次は花萌葱だ。お前に至っては成績優秀、スポーツ万能。まさに文武両道だな、そして人当たりや容姿も学年トップクラス。そんなお前がなぜDクラスにいる?」
「それにこいつはこの学校で初めて初日でSシステムについて看破した。」
「ボクがDクラスにいる理由はボクも知りませんし、学校のことについては風の噂で聞いただけです。」
「そうか、職員室で言っていた【『この学校は実力で生徒を測る』と言っていたことから導き出しました】というのはなんだったかなぁ?それに花萌葱、お前のポイント残高を堀北と綾小路に見せろ。」
「えぇ?...まあいいですけど...。」
ボクはそう言い、ポケットから端末を取り出して堀北さんと綾小路君に見せた。
ボクの端末に書かれている約229万PPtに二人は目を見開いて驚いている。
「花萌葱は割と素直だからいいが、綾小路、お前の割り切った態度には敬服を覚えるが、将来苦労することになるぞ。」
「当分先になると思いますので、その時になったら考えますよ。」
「まぁともあれ綾小路は底が知れないし、花萌葱は学年で見てもかなり優秀な方だ。Aクラスに上がる際は二人の存在はかなり使えるかもしれないな。」
ボク優秀だって。えへへ。
「色々言いたいことはあるけど...まずは、綾小路君はどうしてこんな訳の分からないことをしたの?」
「だから偶然だ。隠れた天才とか、そんな設定もないぞ。」
答え言っちゃってるじゃん。君相当できるでしょ。
「どうだかなぁ。ひょっとしたら堀北や花萌葱よりも頭脳明晰かもしれないぞ。」
「勉強は好きではありませんし、頑張るつもりもないですし。だからこんな点数なんですよ。」
時間だと言わんばかりに指導室から追い出され、堀北さんから問い詰められる。
「花萌葱君はどうやってこんなPPtを取得したの?まさかあなた...身体を売って...!?」
「してないよ!ボクそんなに援交してるように見えるかな!?」
『見えなくもない(わね)。』
酷い話だ。
「それはそうと、綾小路君は強制として、花萌葱君ははAクラスに上がるために協力してくれるのかしら?」
「うん。できる限りのことはするよ。」
「本当になぜ花萌葱君と私がDなのかしら。」
「ていうかなんで俺は強制なんだ?協力するとは一言も言ってないが。」
この後のことは言うまでもないので、ボクはそそくさと寮に帰った。
翠くんのおかげで0CPtを免れました。