私は自分が嫌いだ。
「お前は特別なんだよ、輪。お前こそ私たちの一族が求めてきた存在だ。」
「貴女が生まれてきて本当に良かった!」
父親と母親は毎日のようにそう言った。私はそんな両親ととても優しい村の人たちが大好きだった。
そんな皆んなが私を特別だと言った。
村の集大成だと。この村は、君が生まれるために作られたのだと。
馬鹿みたいに私はそんな自分を誇りに思った。
日光は浴びると激痛が走り、内臓が欠けているせいで呪力無しでは満足に走ることもできない体だったけど、
「お前の天与呪縛は、本当に素晴らしいね。まさに天からの贈り物だ。それのおかげで、私たちは役目を果たせたんだ。」
その一言で、私は幸せだった。
馬鹿みたいだ。特別ってことは、
「ねえ父様、母様!どうして!?どうしてこんなことを!」
「お前が…もっと特別になるためだよ。」
それだけ、不幸も寄せ付けるってことなのに。
…昔の悪夢を見て目が覚める。布団からのそのそと顔を出すと近くの机からペットボトルを取り、水を一口飲んだ。
「あー…くそ。またあの夢見ちゃった。」
時刻は朝の4時。朝焼けがぼんやりと辺りを照らしている。肌がチリチリと痛む。
某京都の私を育ててくれた楽厳寺さんの屋敷の一室。
今年で15になる私は、今日から京都校の一年生として学業に励むことになる。
私はいつもの和服に着替えると、寝癖を整える。私の髪の毛は黒髪のストレートなので、長くても寝癖がつきにくいのはありがたかった。
次に洗面所で顔を洗う。冷たい水が顔に刺さる。
光の差さない薄暗い道場で静かに座禅を組み、日課を始める。
「領域展延」
領域をいつものように展開して、幕のように周囲に張り続ける。
…そのまま今日始まる学園生活の始まりに思いを馳せる。…大丈夫かな。私、加茂さん以外の同世代とほとんど話したことないけど、ちゃんと馴染めるかな。ぼっちになったらどうしよう。
そんな雑念混じりでソワソワしていると、わずか1、2分ほどで連続して展延が切れてしまう。
「…雑念が入っちゃったな」
「朝から精が出るの、輪。感心感心。」
そう言いながら楽厳寺さんが引き戸を開けて入ってくる。
彼には7歳の頃引き取られてから世話になっている。厳しくも優しくも指導してもらい、私生活でも世話になった。
私の大好きなお爺ちゃんだ。
「楽厳寺さん、おはようございます。」
私は立ち上がってそう会釈をする。
「輪は鍛錬も欠かさず、礼儀も忘れんの。時間も守る。本当に感心するわい。世の若人にも見習ってほしいものじゃのう。」
そう顎を擦りながらしみじみと言う。…私の術式を知っている人は、私に上部だけのごま擦りをしてくる人が多い。
無理もないんだけど。
私の術式は『垣間見呪法』
下衆な名前の通り、下衆な術式だ。
私の好感度によって、相手の力を上下させるものだ。シンプルにそれだけなんだけど、その変化する量が私の場合呪力のせいで尋常ではないらしく、大嫌いな相手は問答無用で心肺機能も維持できないほど弱り死に至る。
上層部はそれゆえに信頼している楽厳寺さんに私を預けた…らしい。
現に、かつて準一級だった楽厳寺さんは、今では一級の上位に位置する…らしい。
ごま擦りしてくるのは主にその上層部の人なんだけど。バレバレすぎて笑ってしまうが、楽厳寺さんは違った。私が馬鹿なことをしたら本気で叱るし、だからこそ素直に褒めてくれる。私はそんな彼が大好きだった。
「とくにあの…クソガキにはな。」
「ははは…」
その一言で誰を指すのか分かってしまう。彼だ。五条悟だ。あの人には独学で不完全だった領域展開を習得する上で、一度指導しに来てもらったことがある。
曰く、大人で領域展開できるのが彼と所在のいまいち掴めない九十九さんという人しか居ないらしく、仕方なく彼に指導を依頼したらしい。
私は彼が嫌いではなかった。苦手ではあるけど。
「へえ。君の呪力特性、面白いね。まるでゴムみたいだ。」
「ありがとうございます。打撃や斬撃にも対応できるように、普段から鍛えてますので。」
「…いいね。その呪力量でまさに鉄壁の守りだ。」
彼は組手の途中でそう嬉しそうに言った。
彼の打撃は今までで一番重かった。
最強の術師というのは伊達ではないのだろう。でも私の弾力のある呪力で防げないほどでは…
「それじゃ、次は、本気で殴るから、頑張ってね」
「は?」
その後、私はしこたま本気で殴られた。あのラッシュの感触は未だに忘れられない。
最初は1発のつもりだったらしいが、それも耐えたのに嬉しくなってラッシュしてしまったそうだ。
しこたま吐いたし内臓の欠けている部分が痛んで一日中寝込んだ。
「あのクソガキに指導を頼んだのが間違いだったの…」
「いや、でもおかげで領域の発展まで身につきましたし、実力は上がりましたよ。」
「それはお主の実力じゃ。日々弛まぬ鍛錬を続けたな。」
そう忌々しそうに楽厳寺さんは言う。
…彼は本当に五条さんと馬が合わないようだった。
まあ見れば分かるが。五条さんは絵に描いたような軽薄な雰囲気がある。厳格な楽厳寺さんと相性が良いわけもない。
「今日は早めに飯にしよう。今日からお主も我が京都校の学生じゃからのう。」
「…はい!緊張しますね…」
私がそうこぼすと、楽厳寺さんはくつくつと笑い、笑顔で言った。
「大丈夫じゃよ。お主の実力は既に学生とは比べ物にならんほどじゃ。気後れすることなど何もない。」
「…それはそうでしょうけど。私が気にしてるのは人間関係ですよ。」
「ああ…人間関係といえば、お主の術式は」
「絶対に秘密にしておいてくださいね?」
私の術式は、その性質上相手にどうしても気を遣わせるものだ。もし相手が自分を嫌いになったらどうしよう。そんな感情を相手に植え付けて学生生活を送るのは、絶対にごめんだった。
「…分かっておる。じゃが、何度も言うがあの事件はお主のせいではないぞ。」
「…いえ。あれは私の罪。私の背負った罰なんです。」
「………はぁ。お主のその強情な自罰も、治ってくれると良いがのう。」
…8年前。私が彼に拾われた日。私の両親は、私の最後の試練だと言って、私を祠に案内した。ここでしばらく待って、一時間ほどしたら村に戻るようにと。
私は馬鹿正直にそれを守った。
…村に戻ると、村は血の海になっていた。
両親は、それを当然のように眺めていた。
そして私に言った。
「これは、全部お前のためにやったことなんだよ。」
…私は、そんな両親が大嫌いになった。なってしまった。次の瞬間、両親は私の術式で、心臓を動かす筋肉さえ止まり、死亡した。
…後から楽厳寺さんに教えられて知ったことだが、両親ははなから村ごと巻き込んで死ぬつもりだったらしい。
そのために封印していた特級呪霊を解放したのだと。
私の最後の仕上げのために。
…怒り狂った私は、気がつくとその呪霊を溢れんばかりの呪力で無理やり殴り殺していた。
…無我夢中だった。
私のせいだ。私が生まれてこなければ、村の無関係な皆んなは死なずに済んだのに。
その想いが、私を常に苦しめた。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございます。
主人公:神楽輪
黒髪ストレートの女の子で、背は低い。小柄で華奢で挙句に内臓が一部天与呪縛で欠けています。そんな子の日常と戦闘を、書き綴っていくので、もしよろしければお付き合いください。